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その男 異世界帰り   作者: 西南の風
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転移魔法について三名は考え込む。

そんな中突然田嶋氏が発言をする。


「ちょっと待ってくれ、少し論点がズレてないかい?足りない魔力量を補填するだけで十分で、到着点の座標など問題ないのでは?」


「いや 必ず日本へ送るという保証は無いのだよ」


送りに関して魔力量が足らないだけであればその通りである。

しかし相手はあの()()()である、日本に送ると言いながらとんでもない地点を指定していたならどうなる という心配である。


「ああ そうかあの女が素直に日本の座標を指示するとは限らないか…」


()()()()の座標点が違うと考えるのが正解だろう。

あの女なら証拠隠滅の用心の為にその位は考えるだろう。


「…今日はここまでですね、貴重な情報有難うございます」


太蔵は前途多難な事項を抱え込み、頭の整理が必要だと考えた。


「うむ 力になれず申し訳なかった、また私も考えてみるよ」




数日の休息日の後ダンジョンでのレベル上げに約一週間、これがほぼ此の所の太蔵達のルーチンになっていた。

兎に角レベルを上げねばの一心でひたすら魔物と対峙している。

されど30を超した辺りから思うように上がっていかない、一週間のダンジョン生活でも1・2ぐらいしか上昇しないのだ。


「いやいや 皆さんの上がり方は私から見れば驚異的ですよ。この世界の者にとってレベル40は雲の上の存在に近いのですから」


皆の愚痴にアレックス氏が半ば呆れたように苦笑しながら話してくれた。


「はは そうは言っても勇者グループのメンバーに補充されたら当初は使い物にならず足を引っ張りそうで迷惑をかけるだろう」


田嶋氏が苦笑いをしながらそれに答える。


「まったく 異世界人は…」


あまりの違いに頭を振りながらアレックス氏は半ば感心している。




「そうだアレックスさん、転移魔法があれば城とこのダンジョン往復にも使えて便利なのですが、何方か教えてくれる方を紹介してくれませんか?」


太蔵は何気ない口調で転移魔法の有効性を唱え聞き出そうと試みた。

とたんにアレックス氏の身辺から緊張感が発生し雰囲気が一変した事が伝わってきた。


 これは 不味ったかな…。


太蔵は顔には出さず心のなかで失敗したかもと感じていた。

だが堅い表情であったアレックス氏が深く息を吐き緊張感が薄れていく。


「…そうですね、確かに転移魔法は便利ですよね。だがこの魔法は秘技に近い存在で各国共に使える者は少数しかいないのです。この魔法を習得するのはいかに異世界人の方と言えども…まてよ?!」


突然にアレックスは固まり何かを思い出そうと考えている仕草を見せた。


「…私が若い頃先輩から聞いた話しなのですが、この首都の中に転移魔法を知っていると言う者が一人いると噂があり、君と同じ様に興味を抱いた先輩も可能なら覚えてみたいと首都中を噂を追ってかなり探したそうなんですが、結果的にそんな人はいなかったと笑い話になっていました。この噂話が本当ならその人物を探すという手もありますが、その先輩も更に先輩から聞いた話しなんだそうです。本当だとしてもその方は今現在存命の可能性が…」


それはそうだ、フレックス氏の若い頃の話で、それがまた先輩の先輩による話となれば最低でも50年以上昔の話だろう。


この世界の人は医療も生活環境も決して良いとは言えない、平均寿命もせいぜい日本の江戸末期程度ではないかと思われるからだ。


「…ふむ 興味ある話だな。でももしかしたら本人は無理でもその子孫に伝わっている可能性もあるよな?」


岡田氏が会話に入り込んだ。


「…それはどうでしょうか、可能性はありますが転移魔法自体がかなり特殊なスキルと認識してます。つまり才能がなければ伝わりませんし、もし子孫が習得していればそれだけで高額の給金にて召し出されている筈ですから…」


この何十年一般人によるそんな話しは聞いていないと断言する。


 そうか無理か…だが可能性は0ではないな…。


今はレベル上げに集中せねばならない。もう少し落ち着いたら噂を追いかけてもよいな そう太蔵は今の会話を心に刻み込んだ。




その一報はさらに一月後に伝えられた。

勇者一行による魔王征伐が見事達せられたと連絡が入ってきたのだ。

城は当然首都内が喜びで大騒ぎになる事態になる。


人々の歓喜の声は何日も続く、でも本番は勇者達が帰還する一月後となる。

その時にはそれこそ首都の街が上や下への大騒ぎになるであろう。


太蔵達三名も違う意味で喜んでいた。

今日を限りに過酷なダンジョン攻略によるレベル上げの必要が無くなったのだ。

召喚からほぼ五ヶ月経過して太蔵達はレベル40近くまで到達していた。


この五ヶ月はある意味毎日死との戦いでもあった。

そんな毎日から開放される日がついに来たのだ、嬉しくないわけがない。

三名は全身から緊張感が抜けて脱力感に襲われていた。


特に田嶋と岡田にとっては下級とはいえ貴族として今後はこの世界で暮らして行く事になる。

問題は太蔵であった、本格的に帰還に関して行動を開始せねばならない。


ただ現段階において帰還の目処は付いていない。

あの()()が素直に日本に戻すとはとても考えられない。

ならば今後の対応は大きく考えて二つになる。


下級貴族になり此方で生活しながら帰還への道を探す。

理屈をつけて在野生活を選び帰還への道を探す。


何方を選ぶも決定期間はこの一月となる。

と 同時に少し前にアレックス氏からの転移に関する噂話を思い出す。


明日から暇を見てこの都市内を動いてみるか…。

ただ闇雲に歩いても効率が悪い、もう一度アレックス氏に相談が必要か。


突然ふと思い出して太蔵はつぶやいた。


 ラーシャとの関係は今後どうなるのかな…。


彼女との関係は五ヶ月ほど経過している、短いと言えば短いが彼女との同居生活は既に互いがかなりの親密度があり、太蔵にとっては別れがかなり辛い行動になる。


彼女はいまだ懐妊していない、ここで別れると彼女はどうなるのか?

実は彼女からは直接聞いていないが、太蔵は彼女について最近わかった事がある。


彼女の両親がいる領地がこの何年もの間作物が不作に陥り、領民が飢えに苦しんでいる事を。

税金に関しては国より免税の処置が認められたが、援助金等の支払いは一切ない。


領民思いの両親は自分の有り金から苦しむ領民の為に大量の食料を購入して分け与えた。

この不作が一年であれば苦しくとも何とか凌げた、だが翌年もさらに次の年も作物は不作を続けた、彼女の両親は知り合いの貴族に頭を下げて借金のお願いを繰り返し、領民の為と食材を分け与える。


たかが地方の下級貴族でしかない両親は多額の借金を負う事になる。

この世界の金利は呆れ返るほどの高額である。一年で元利の数倍の利息も珍しくない世界だ。

いつこの土地から追われて新しい領主に変わっても不思議でない有様になる。


この一年故郷の有様を遅ればしながら判明したラーシャは、少しでも金利の足しになればと領民思いの優しい父母に貯金は当然、毎月の手当も殆ど送金する生活であった。


なれど膨らんだ金利は一向に減る事はない、 どうすれば と悩んでいたラーシャの前に異世界人の付き人募集の知らせが告示された。


ラーシャは直ぐに行動を起こす、反対する両親から強行とも思える手段で同意書にサインをもらい募集の締め切りギリギリに提出する事が出来た。


付き人が何を目的とするのか当然理解しての提出書類である。

付き人として成果を出せばかなりの金額が見込まれる、上手く行けば借金返済の目処がつく。

ラーシャにとって育ててくれた両親と領民の為に自分の身を差し出すことは、何の抵抗もない思いであった。


そして太蔵と巡り会えた日々が現在続いている。



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