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その男 異世界帰り   作者: 西南の風
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岡田氏は静かに頷き、中空を鋭い目つきで睨んで固まっていた。

やがて再び姿勢を太蔵達に向けると静かに言い放った。


「ここまでの情報で考えられることは一つしかない。この国は()()に関しては興味を持っていない、端的に言うと証拠隠滅を兼ねている可能性がある…」


何を言い出すのだ?証拠隠滅?元の世界に送り届けられれば何も問題が…いや違う、圧倒的に送り届けられる為の魔法量が不足しているのだ。


ならばどうなる?考えろ ここは思案時だ どうなる??


「…最悪日本には到着出来ずに、、他の異世界に?!」


「その可能性もあるし、場合によっては次元の狭間に置き去りとも考えられる」


「次元の狭間?それってつまり…」


「うん 生きてなどいけないだろうな…」


「そんな馬鹿な いくら何でもそこまで…いや証拠隠滅には最高の手か。あの女狐ならば…」


3名は互いに唸りながら事の次第の大きさに戸惑っていた。

アレックス氏がもたらした情報にどう対応するのか予測も出来ない状態になっている。


「…太蔵君は将来ここで暮らす気はあるかな?」


それに対して太蔵はしっかりと頭を横に振る。

その様子から意思決定が固まっていると判断する二人であった。


「そうか…ならば何とか日本へ無事に帰る算段をせねばならぬな」


家族が待っている太蔵と違い、年長の岡田氏は戦争孤児田嶋氏は幼い頃に捨て子として共に両親の記憶がない。


日本に帰り着いても生活基盤はゼロから築かねばならない。

世間の目を意識しながらの生活には疲れ果てていた。


だがこの世界では嘘か真かは分からぬが、事が成った暁には勇者グループは高位の貴族職そして予備役として召喚された岡田氏等にも下位の貴族職が約束されている。


この世界では平民と名ばかりとは言え下級貴族との差は格段の開きが発生する。

名誉も金も天国と地獄に匹敵する身分差になる。


岡田・田嶋の両氏は当然この世界で生涯を暮らす方針に傾いていた。

だが太蔵は家族の件も無論だが何となくこの世界の矛盾に疑問を抱き、何としても元の世界に戻りたいと考えていた。


「そうだな 安全に帰る有効な手がないか調べてみるか」


田嶋氏も同調して太蔵の帰還に関して手を貸すことを約束した。

取り敢えずこの件に関しては一旦ここまでにして、三名はそれぞれの部屋に戻る事となる。




「なぁ ラーシャ 少し聞きたいことがある」


情事の後の気だるいベットの中で太蔵は話しかけた。

その声に太蔵の胸に顔を埋めていたラーシャがゆっくりとその端正な顔を向けて、少し眠たそうな瞳で太臓を見つめた。


「はい 何かしら?」


「ラーシャは(わた)りと呼ばれる儀式を知っているよな」


「…ええ」


知っているも何も、その儀式において現在太臓の付き人として側にいる事になったのだ。


「ならば…()()の儀式も承知しているかな?」


「…()()()()も転移魔術の最高位にランク付けされている儀式ですよね?」


言葉としてはよく存じているが実際の儀式がどの様な形式にて行われるかまでは、ラーシャではうかがい知る事はないようだ。


考えれば当然か、この儀式がよく知られておれば他国も同じ様に異世界人を召喚するはずだ。言葉としては知れ渡ってもその儀式自体はかなり機密性に富んでいる筈だ。


「そうですね、この儀式自体を現在行えるのは我が国以外にはありません」


「何故なんだろう?転移魔術はこの国が開発したのかな?」


「さて?言われれば不思議ですよね。いくら秘密にしても長い年月の間では漏れ伝わるものですよね」


その通り、いくら秘密にしても長い年月が経過すれば他国に漏れる儀式形式の筈だ。

それがそんな儀式が行われる事は知れ渡っても、その全容が他国には知れ渡っていない?

いや、何か特殊な宝具関連が必要なのか?

それが必要な為に他国もあまり積極的な詮索をしていないのかも知れない。


 …宝具ですか? そう言えば、、、。


ラーシャは以前新人の頃さる貴族に連絡文の届ける役目を申し付けられたが、新人の為お城の内部には当然詳しくもなく上司より預かった連絡文を持ちウロウロと迷子状態で城の内部を彷徨った事があった。


一般の騎士からば当然叱責を受け追い出される場所にも、新人とはいえ親衛隊の装束のラーシャはある程度大目に見られ一般騎士では行けそうもない場所に迷い込んだと。


目の先に見えた部屋は警備の者が数名立ち尽くす厳重な部屋で、迷い込んだラーシャにこの先は特別な関係者以外は通すことは出来ぬとかなりの怒気を含んだ声で追い返された。


今考えればあの部屋は宝物庫でもなく、王族の寝室関連でもなくまして先の話題になった儀式の部屋とも違う、何故にあの様な厳重な管理がなされているのか今もっても不明だと。

その話だけでは何とも判断がつかないが、それなりの何か大切な品が?それも宝物庫にも納めずに?


「…太蔵 元の世界に帰りたいのですか?」


「…そうだな、元の世界でやり残した事もあるし」


事が終われば何としても帰還したいが、前途は多難な気配が漂う。


「お話に出てくる日本と言う国に私も興味がありますが…」


日本に連れて帰りたいが現実的には無理だと ラーシャも太蔵も感じていた。

ラーシャは日本人の血を授かるための役目に募集した身、例えラーシャに強要しても彼女は下級とはいえ貴族の娘、途中で役目を放棄すればその償いは両親にも及ぶであろう。


その結果がどうなるかはラーシャ自身がよく理解している事となる、ましてその帰還に関してはもしかして死出の旅になる可能性もある。

太蔵としてはそんな旅にラーシャをとても連れて行く事など出来る筈がない。

互いの思惑を何となく二人は感じあって、只黙って互いの顔を見つめ合うだけであった。



翌日から太蔵等三名はレベル上げの特訓を再び開始する。

上級ダンジョンへ数日泊まり込んで必死に魔物との戦いに戻る。


当初は数日のダンジョン内逗留からこの頃は一度入れば一週間は籠もる生活に慣れてきた。

レベル上げも順調に進み三名ともレベル40への目処もついてきた。


「ふぅ 手強いな…進めば進むほどに程に魔物が強力になるな」

「うむ 正に化け物じみたダンジョンだ」


第三層に踏み入れた三名を待っていたのはレベル40超えの魔物たちであった。

この階層はとにかく内部が広大だ、アレックス氏によれば順調に進んでも内部の果まで半月近くは歩まないと辿り着けないらしい。


第三層のほんの一部だけを三名は進んだに過ぎない。

兎に角三名にて息を合わせて魔物に向かわねば失敗は即死に継る。

この広大なダンジョン内には計5箇所の安全地帯がある。

太蔵達はその2つ目の安全地帯に飛び込んで疲れを癒している。


「参ったな、戦場で死ぬより先に魔物に殺されそうだ…」


冗談とも本音もつかぬ愚痴を田嶋が呟く。


「いやいや アレックスによれば過去このダンジョンで転移された何名かは実際に亡くなっているようだ」


「其の様に私も聞いておる」


監視役でもあるアレックスは野営の準備をしながら顔だけ此方に向けて微笑んでいる。


「そうなんですか…気を引き締めないと」


太蔵達は互いに頷き合い、こんなダンジョンで死ぬわけにはいかんと心に強く刻み込む。


当面一週間に一回の投稿予定になります


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