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ラーシャの囁くようなその声を聞いた瞬間に太蔵は完全に理性を失ってしまった。
二人は流石に疲れ果てて、一時の休憩に入ったのはもう辺りはとっくに暮れて部屋の中は暗い闇が支配している状態になってからの事であった。
ようやく二人はどれだけ長い時間を互いに求めあっていたのか認識した。
と 同時に忘れていた空腹感が二人を襲う。
遅くなってしまったが食事に行こうか?
互いに頷きあって服を身に着け始める。
ラーシャは軽く髪を整えて部屋の外へ出る。
この階は少し離れた場所に士官用の小ざっぱりとした食堂がある。
正確な時間は不明だがまだ最終時間には間がある筈だと、ラーシャが太蔵の腕に抱きつきながら囁く。
彼女の説明の通りに食堂の最終時間に間に合う。
殆ど空きの場所だらけだが、さて何処に座ろうかと見渡すと、奥のテーブルに座る二組の男女が手招きをしていた。
あっ 田嶋さん達だ。
二人は食事の入っているトレー台を持ちながら奥のテーブルに移動した。
軽く皆に会釈をして席に着いた。
「ふむ 心配していたが無事に解決したようだな」
田嶋と岡田氏が意味ありげな笑いで二人を迎えた。
「はぁ 心配をおかけしまして…」
気まずそうに太蔵は答えながら空腹の腹に食事を詰め込み始めた。
その後は差し障りのない話題で話しが展開していく。
女性陣は既に打ち解けてあれこれと楽しそうに笑い声を上げて会話が弾んでいる。
さすがは選ばれた女性たちで美人が三人揃うと周りに花が咲いたようにきらめき出す。
暫く団らんの時間を過ごした後に全員が席を立ち各自の部屋を目指し移動する。
明日は休暇日となっている。
今夜はゆっくりと各自は過ごす事となる。
お休みの挨拶を交わし、各自の部屋へと消えていった。
机の上のランプに火を灯してようやく二人は一息入れた。
ランプの灯りを無言で見つめていた二人はやがて何方からともなく近づき、一つのシルエットに重なり合っていった。
「えっ 少し待ってくれ、となると君は今17歳なのか?」
ベットの中での互いの身の上話しにおいて、ふと太蔵は気づく。
ラーシャは小さいうちから剣に興味があり、父の指導の元にメキメキと腕を上げ、合格が難しい王族の親衛隊に15歳にて見事入団して2年後の今小隊長を務める地位まで上り詰めたと話してくれた。
それを楽しげに聞いていた太蔵はふと気づき彼女に質問をした。
その問いににっこりと笑いながら小さく頷くラーシャであった。
すると彼女は同級生なのか、いや違う。
たしかこの世界の住人は数えでの年齢になる筈、すると実際には16歳?!
太蔵はつい最近18になったばかりだ、彼女は何と二つ年下だったのか!?
突然の出来事に呆然と彼女を見つめた。
長身で石像彫刻の様に整った顔立ちそれに落ち着き払った態度と合わせて、太蔵は彼女を自分より年上だと判断していたのだ。
何事かな というように小首を傾げて太蔵を見つめるラーシャであった。
その見つめる瞳に気づき、軽く咳払いをして太蔵は彼女に説明を始めた。
「当初私は君を年上と思っていたが、私の勘違いであった。実際には私のほうが年齢は上だった」
すると今度は彼女の方が大きくその目を見開いて驚いていた。
やがてその口から太蔵は何歳なのかと質問が出た。
…18だ。いやこの世界の数え方なら 19になる。
更に大きく目が見開かれ彼女は少し固まっていた。
彼女は彼女で東洋系によくある実年齢より低く見積もっていたのだ。
実は私は 太蔵の事を年下と思い込んでいた と正直に答えた。
二人は互いに暫く頭の整理をするように見つめ合う。
やがて二人の互いの勘違いを認め合い大きく笑い出す。
そして太蔵の胸にラーシャは飛び込みいつまでも可笑しそうに笑い声が止む気配がなかった。
翌日まだ寝ている太蔵を起こさぬようにラーシャは身支度を終えて部屋から静かに退室した。
その動きを太蔵は眠りから覚めて気づきはしたが黙って見送る。
彼女は一旦自分の部屋に戻り簡易シャワーにて身を清めると着替えて軍の医務室へ向かう。
当番の女性担当官に検査を受けて 太蔵の付き人として役目を果たしたという証明書を発行してもらい、事務室にてその証明書を提出する。
「これで手続きは完了しました。支払われる金額は当初からの申告通り国元へ送付でよろしいですか?」
よろしくお願いする ラーシャはそう答えて小さくため息を吐いた。
「国元は数年に及ぶ不作で大変だと聞いています、ご両親も喜ばれると思いますよ」
そうだな この金額で一息つけるやも知れん。軽く相槌を打つ。
事務官はテキパキと書類を決済して送金書の控えをラーシャに手渡した。
「これですべて完了です。後は引き続き付き人としての役目が成功なさる事を祈っています」
事務官より一通りの手続きを完了と送金書の控えを受け取り退室して太蔵の部屋に移動する。
当初の目的の半分は達成出来た、後は子を宿すことが求められる。
「あっ 起きていたの、少し野暮用がありましたので座を外しました。」
起こさぬように静かに太蔵の部屋に入ったつもりだったが、彼はすでに目覚めて椅子に座りながら窓から中庭を眺めていた。
「うん?お帰り、この中庭は手入れがよく花が綺麗だね。着替えてきたんだ」
昨夜の上品でシックな趣きの服から、日中の活動しやすい服に着替えたラーシャを繁々と見つめて微笑んだ。
「食事に行きましょう、付き人としてこれからの打ち合わせもしたいし食事をしながら話し合いましょう」
食堂は遅い時間となり、朝の混雑も終わり食事をしながら太蔵とラーシャは色々と業務打ち合わせにて互いの今後のすり合わせを行う。
基本個人秘書が彼女らの業務だが、ラーシャは騎士としての経験から内なる仕事よりも危険地帯でなければ太蔵との同行を出来るだけ望んだ。
ならば彼女の腕前も確認したいし、明日以降にレベルを考えて中級ダンジョンへ二人で挑戦してみる事で折り合いがつく。
中級ダンジョンであれば今の太蔵なら余裕で対応が取れるし、万一の際でもラーシャを守りきれると判断した。
念の為に後で田嶋氏らに意見を聞いてみるつもりだ。
数日後にラーシャと二人で中級ダンジョンに挑戦してみた。
ラーシャは普段の騎士スタイルではなく、動きやすく皮製だが丈夫な鎧関係に身に着けていた。
何かあれば直ぐに支援するつもりでいたが、彼女は思いの外優秀であった。
中級ダンジョンの中間層までは太蔵の支援はほぼ要らない状態で進む。
安全地帯に入り込み一泊して翌日は下層を目指す。
下層に入れば流石に魔物の強さと数が問題になり、太蔵が要所要所にて手助けに入り込む。
それでも彼女は弱音を吐かずに魔物に必死に攻撃を仕掛ける。
そんな姿に少し違和感を抱き休憩時にそれとなく尋ねてみた。
彼女は戸惑いながらも魔石を売ってお金に変えたいと恥ずかしそうに答える。
何か悲壮感まで漂っているので、よければもう少し詳しく説明して欲しいと理由を聞いてみた。
当面一週間に一回の投稿予定になります




