1 異世界編
巨大な火球が空を舞い前面にある大きな岩にぶつかり辺り一面が灼熱と光に一瞬包まれた。
やがて静かに元の星空が輝く夜空の日常に戻っていく。
「…できた!苦節50年とうとう完成した」
新別府流古武術本家第14代 三橋太蔵は感慨深げに頷き暫しこれまでの苦労が報われた喜びに満ち溢れていた。
「お見事 老師!」
「うむ 凄いぞ老師!」
先に言葉を発したのは高弟にて 小田切 慎次 今年34歳になり弟子入りして10年が経過している。
身長191センチ 体重105キロ 威風堂々の体格にて他の弟子から青鬼と恐れられている。
元は大相撲出身、将来の横綱と一時は期待の星であったが、本場所中に膝の靭帯破壊という大怪我を負い治療の甲斐もなく慢性的な靭帯不良により止むなく引退。
その後彼は荒んだ生活に陥り酒に溺れる生活を繰り返す。
ある晩に酒の上での口論で地回りと大喧嘩をおこす、相手4名を完膚無きまで叩きのめしたが当然恨みを買う事になる。
しつこい地廻りから逃げるように東京を離れ、地方の酒場にてまたしても酒の上から騒動を起こしたが、たまたま居合わせた 三橋 太蔵 に取り押さえられる。
太蔵がつかう技に散々投げ飛ばされ手傷を負うが、それが縁で弟子入りを果たす。
二番目に言葉を発したのは 久保田 達夫 今年31歳、弟子入りして8年が経過した。
身長184センチ 体重93キロ この男も偉丈夫である。
小さな頃から悪ガキにて、恵まれた体格のせいか喧嘩に明け暮れた毎日を過ごす。
少年院にもお世話になった事もあり、社会復帰後にも暴力団にこそ入らなかったが地方都市ではちょっとした有名人で、あいも変わらず暴力沙汰を繰り返す生活。
ステゴロのタツと異名を持ち本人も素手での喧嘩を得意としていた。
当然この男も地廻りと揉め事が多く、地廻り3名と喧嘩中後ろから短刀を持った男に刺される瞬間にこれまた居合わせた 太蔵により命を救われた経歴がある。
乱暴者なれど性根は腐ってはおらず、太蔵の手際に痛く感服し命の恩人でもある事から太蔵の技を学ぶために弟子入りとなった。他の弟子は彼を赤鬼と呼ぶ。
そして本編の主人公なる 新別府流本家 三橋 太蔵について語ろう。
東京の下町にて生まれ、幼い頃から新別府流古武術を習う。
特に祖父が太蔵の武芸の才能を認め、熱心に稽古をつけてくれた。
ほとんど弟子のいない道場ではあったが、それなりに生活には困らない状況であった。
古武術を習得している以外は別段普通の何処にでも居る子供生活をおくっていた。
太蔵が17歳で高校生活を楽しんでいる時に事件が起こる。
帰宅のためいつもの公園の人通りの少ない道を歩いていた時に、突然に足元から眩しい光が放された。
一瞬何事と反射的に小さい頃から身につけた古武術の構えに移ったのは流石である。
注意深く足元の光を観察すると、何やら文字らしきものが浮かんでくる。
これは何だ?
この地球では見かけぬ形態文字に太蔵が注目していた時に、一際光り輝く光線が太蔵の目を眩ました。
もしその現場を見ていた者がいたなら、光り輝く中で太蔵の姿が消えていく瞬間を見ることが出来たかも知れないが、生憎周りには人影らしきものは見当たらなかった。
「…#&…!」 「…&”…」
うん 俺は気を失ったのか…。
意識が未だ十分に回復しない状態で太蔵は現状を把握しようと務める。
倒れている自分の姿や石造りの床らしき物は手の感触にて判断出来たが、体の自由とあの光にて未だ目の回復が不十分にて周りの確認が今一出来ていない状態だ。
先程から聞いたことのない言語が周りで語られているが、何が起きたのだ…。
力を込めて起き上がろうとしても太蔵の体から力が湧いてこない。
すると突然に太蔵の体を誰かが抱き起こす気配が感じられ、同時にまたもや淡い光が目に飛び込んでくる。
うん? 何やら体が回復してきたような…。
淡い光を浴びせられた瞬間から何やら力が戻ってきた感じがして、ほとんど見えなかった目も薄ぼんやりと元の状態に戻っていく。
ようよう見え始めた目からの情報は一瞬今だ意識が混乱しているのかと疑ってしまう。
そこで見えたものは外国人と思われるかなり時代がかった服に身を包んだ集団であった。
誰だ? 何故こんな服装の外国人が何人も居るんだ。
自分があの公園で光の渦に倒れ込んだ事で、たまたま外国人の集団が通りがかり助けてくれたにしては少々服装も様子も可怪しいとぼんやり感じていた。
依然意味不明な言語が太蔵の周りで行き交う。
目の前にいる女性がしきりに手の平においてある小さな器具を自分の耳に当てる動作を繰り返して太蔵に差し出す。
うん? この器具を耳につけろと? 了解だ…。
依然力の入らぬ手を伸ばし、まるで西欧の中世の魔法使いみたいな服装をした女性から補聴器にも似た器具を受け取り、太蔵は自分の耳に当ててみた。
「聞こえますか?私の言葉が理解できますか?」
突然の日本語が太蔵の耳に飛び込んできた。
ウオーッ 思いもしない展開に思わず小さく声を上げる。
目の前の女性は続けて言葉を発した。
「理解できるのですね?返事をお願いします」
「…はい 言葉は理解できます。これは何ですか?」
太蔵は混乱の中、耳にあてがった器具を指差して尋ねる。
「翻訳機です この国の言葉がわかるようになります」
えっ 翻訳機?そんな便利なものが世の中にあるんだ…。
太蔵が召喚されたのは正確には昭和の44年頃である、この当時何処の国にもそんな便利な品物は存在していない。
よく見ると目の前の女性も耳にこの器具をはめ込んでいた。
「皇女様 意思疎通完了です」
「うむ ご苦労であった。異世界人は休ませるが良い、詳しくは明日じゃ」
目の前の女性が突然深々と頭を下げ太蔵の後ろに向かい言葉を発した。
同時に太蔵の後ろから女性の声が響き渡り、他の何名かが姿勢を正す。
えっ 皇女?
思わず振り返えろうとしたが太蔵の両腕をしっかりと騎士風の二人が握りしめ、足早に太蔵の体を部屋から外へ誘導する。
あっ ちょっと状況が今一理解出来ない…。
部屋の外に出る間際に皇女と思われる声がお付きの誰かと話している声が聞こえてきた。
今回は成功じゃな 渡りで死亡せずにすんだぞ。
うん?何か気になるフレーズが聞こえたのだが…。
寝室乃至は休憩室とも思われる場所に案内されベットで休んでおけとジェスチャー混じりに騎士と思われる者から指示があった。
確かに体は休息を欲しがっている、一人で満足に数メートルも歩けないほどに疲れていた。
硬いベットに体を横たえて落ち着いて少し考えてみる。
何故にこれほど疲労感があるのだろう、そしてここは何処なのだ?
そしてここに居る外国人風の者たちは一体何者達だ。
さらに先程聞いた皇女と呼ばれた女性が喋った不吉なフレーズ…。
どう考えても回答が出ない事の焦りにも似た苛立ち。
駄目だ、こんなに頭が回らぬ状態で考え込んでも、もう寝よう…。
そう思い本格的な睡眠に入ろうとした矢先に
「すいません、失礼します。もうお休みになられたかな」
突然ドアがノックされて見覚えのある女性が入ってきた。
「起こしてしまったかな?申し訳ない…」
翻訳の器具を渡してくれた中世の魔法使いそっくりな服装の若い女性である。
「もう一度回復をかけておけば明日の朝にはかなり元に戻りますから」
回復をかける? 翻訳の誤訳か?
いぶし気な表情の太蔵に構わずその女性は寝ている太蔵の胸の前に両手を突き出した。
何の真似だ? 「回復!!」
問う間もなく太蔵の全身が淡く柔らかい光に包まれる。
おっと、この光は…。
記憶にある 意識が戻った時に疲労困憊で体を動かす事も出来なかった時に、確かにこの光を浴びて動けるまでに回復したぞ。
全回と同じ様に柔らかい光を受けて、体の中から力が湧き上がってくる。
な 何だ、自分の体に何がおきている?
「ふう これで安心です。あとはゆっくりお休み下さい」
そう言って女性は退室しようとした、それを無理やり引き止める。
「…待ってくれ 少しでよいからこの状況を説明してくれませんか?」
「えーと 明日には全て判明しますけど?」
「いや 気になって夜も眠れないかもしれない?!」
その返答に女性はクスリと笑い、太蔵に近寄ってきた。
「それは 回復をかけた意味がなくなりますね。分かりました、夜もしっかりと眠れるように話せることはお話しします」
何を聞きたいのかと質問方式をとり答えると言う。
まず自分は皇室直属の魔導師のギティと名乗る。
・・その説明自体疑問だらけなのだが。
昭和の44年当時はラノベなどのくくりなどない時代だ、探せばその関連の小説の類も出てくるだろうが、大概SFの分類に含まれて一般的に普及などしていない時代である。
当然当時の太蔵にとっても興味外の範疇にあり、この方面に対してはほとんど無知に近い。
「この国はランダー帝国と言います、貴方様は勇者の補佐役として召喚されました」
ランダー帝国? 勇者? 召喚?…。
説明を聞けば聞くほどに新たな疑問が浮かび上がる。
「はい 魔王との決戦も近く他にも補佐役として何人か召喚されてレベル上げの最中です」
・・ま お う 魔王? 第六天魔王の意味とは違うよな 何人か召喚? レベル上げ?
「・・申し訳ない 聞けば聞くほど混乱するのですが、まさか大掛かりなドッキリ番組?」
現在もそうだが、当時にもこの手のTV番組が流行っていた。
「・・ドッキリ? えーと翻訳機がうまく働かずに申し訳ありません」
どうやらその手の手の込んだ悪戯とは違うようだ・・。
ならばこれは本当に現実に起きた事なのか、これを信じろと、、、。
「あっ 明日になればお仲間の人に会えますので、詳しい事はその方達から…」
ギティも匙を投げたようだ、更に大きくなった疑問を抱いて本日はもう休むことにした。




