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第5話 ケモナーなのに最強魔眼だった

――都市『マンタシティ』




リーンゴーンと、時を知らせる鐘の音が美しく響き渡る、海辺の街。




中央にそびえるランドマークの時計塔、そこから南北に走る石畳の目抜き通り。




そこは昼間にもなると活気であふれ、多種多様な人間、獣人族、魔人族が行き交う。


まさに人種のるつぼである。




この街は、人間と亜人種族との交易地として生まれ、長い時を経てゆっくりと発展してきた。


小規模な地方都市である。




西の中心街には港湾を備え、東へ向かうにつれ街はまばらに。さらに東方には手つかずの荒野・山脈がどこまでも広がり、魔人族や獣人族の集落が点在している。






そして今日もまた、朝を知らせる鐘が街の空気を震わせる。


その暖かな響きは、時計塔の足元を歩くこの男の耳にも届いていた――








「眠てえ~~」




俺は眠い目をこすりながら、朝の街を歩いていた。


時刻は午前7時。




街もまだ起き抜けの様相で、涼しく漂う空気もどこかねぼけた雰囲気だ。




掃き掃除をする猫頭の老人、朝の散歩人がパラパラと行き交う程度。


店もどこも開いていない。




石畳をうろつく自分の足音を聞きながら、俺はぼんやりと昨日のことを思い出していた。






昨日は慌ただしい一日だった。受肉と面接の一日だ。




ライラさんに突き飛ばされて飛び込んだゲート。


その中で俺の意識はぐしゃぐしゃに混ざり、昏迷するように意識が落ちた。




次にハと気づいたときは、硬い木の椅子に座っていた。






「ここは…?」




ゆっくりくるりと首を回して周囲を見渡すと、そこは廊下のようだった。


壁付けされた椅子が3つ並び、そのうちの1つに俺は座っている。残りの2つは空席だった。




「そうか...受肉したってことか...」




急にはっきりした意識の中で、俺は転生が完了したことを理解した。


肉体に実感があるからだ。




ドクドクと心臓が波打つ。


生きてる。俺は確かに生きていた。




手を見る。シワのない手、若い男の手だ。生前よりも細い。青年の手。




次に顔を上げ、俺は廊下の窓に写り込んだ人影を見る。


明るい茶髪の好青年がそこにはいた。


自分が動くと、窓に写った人影も動く。


これが新しい俺。この世界での俺の姿なのか。




たしかライラさんは18歳に受肉させると言ってたな。


生前と違い、無駄な脂肪の少ないシュッとした出で立ちだ。




......いや、俺だって18の頃はこのくらいだったよ?




眉毛やその他の体毛も全て明るい茶色。


ハーフにでもなったみたいだな、と俺は思った。




しかも、ムフフ。まあまあ可愛い顔なんじゃないか?




ここは異世界だから、どういう顔がイケメンとされてるかはわからないが、ひとまず俺からは☆3.5くらいはあげてもいい。5段階評価でな。偏差値でいうと、55くらいだ。




窓に向かって、いろいろな表情を作ってみせる。


うむ。悪くない。超イケメンでもないが、ブサイクではない、と思う。


どこか憎めない、愛嬌のある顔だ。善人の顔。






鏡に向かってキメ顔百面相をしていると、ガチャリ、と音を立てて俺の真横のドアが開いた。




「っと…」


慌てて居直り、視界の端で右を見る。




「お時間頂きありがとうございました。それでは失礼いたします」


女の声だった。






次の瞬間、ぴょこり、とリスのようなシッポがドアの隙間から顔をだし、俺は視線を奪われた。




グッリィィーーーン!首、グッリィィィーーン!!




訂正しよう。視線だけではなく、首ごと奪われた。




超高速の代名詞、ハイパーダッシュモーターが組みこまれたミニ四駆の車輪のように、尋常ならざるトルクで俺の首は毎秒12000回転し、俺の薄黄土色の眼光は、彼女の尻部を撃ち抜いた。






し、しっぽ!?しっぽだ!!!紛れもない!ゴッド!オー、ゴッド!






女の子がドアを開けながら、室内にむかって一礼しているのが見える。


その子の頭には、おお!


ケモミミ!!ケモミミだ!神様!




かわいい尻尾に、ケモミミ!袖口も、もふもふした毛に覆われている。


うおおお!マジの獣人だ!!!






ここで断りを入れておきたいが、俺は断じてケモナーではない。


ケモナー、などという特殊な性癖を持ち合わせてはいない。


そも、一口にケモナーといっても、その趣向は様々であり、個々のあり方はグラデーションである。


しかしその虹の1万2000色ののグラデーションの中のいずれにも、この俺は存在していないこと主張しておきたい。




あえて言うなれば「ただ可愛いもの愛で紳士」である。


ケモノだから愛でるのではない、ただ可愛いというその発露。感情の揺れ動きに素直な紳士似すぎないのだ。




そんな俺、いや私はこう思った。




ぴょこぴょこと動くしっぽと耳。なんて愛らしい...!と。




紳士であればこそ、語彙を尽くして語る必要などない。小並感の中に宇宙はあるのだ。




「...すっげぇ......異世界だ...」




思わず声が漏れた。


ここってほんっとに異世界なんだな。




突如間近に現れた生リスっ子に興奮して好奇心のままについガン見してしまったが、露骨すぎたかもしれない。


リス子ちゃんは立ち去り際、ムッとしたような目で俺をチラと見た。




目が合いそうになる。


それを察した俺は反射的に目をそらした。




緊張でまばたきが早くなるのがわかる。なにか言われるだろうか。


生唾が喉を下っていった。








だが俺の杞憂をよそに、リス尻尾の女の子はそのまま廊下をスタスタ歩いていき、すぐに見えなくなった。


なんだか終始不機嫌そうな表情だった。面接がうまくいかなかったのかな。


とりあえず、何事もなくすれ違えたことに、俺はホッと方をなでおろした。




そして、




「次の方、どうぞ〜」


ドアの奥から声がする。俺の番だ。




聡明な読者諸君はもうおわかりだろう、これは採用面接である。




おお神よ!というか、天使よ!なんという采配か!




面接会場の待機列に、ダイレクト受肉!


日程調整不要!送迎不要!目覚めたら即面接です!




......いやあライラさん、いくらなんでもご都合すぎやしませんか?




まあ分かるよ?ライラさんの言いたいこと、わかるなぁ、僕。




いや逃げませんやん。


仮にね?仮に転生から面接まで数日あったとしても......


......逃げませんて。




やっぱりやめようかなみたいなヘンな気、起こしませんて。


当日になってやっぱ嫌になるとか、そんなこと…




たぶん...




きっと......うん...




「天使はすべて、お見通しですよ♡」


なんて声が、空から聞こえてきそうである。




というか、こんなことをグダグダと考えている場合じゃなかった。


もう呼ばれてるんだよな。「次の方〜」って。




次の方とは、俺のことである。


念のため軽く廊下を振り返るが、誰もいない。


やはり、俺のことのようだ。






そうなのだ。


天界ハロワからの紹介とはいえ、面接はある。


ちゃんと突破しなくてはならないのだ。






生前の俺なら絶対に無理だと思っただろう。だが心配ない。


俺には秘策がある。


大丈夫だ。


大丈夫なんだけど、そもそも面接自体がやなんだよなぁ。




緊張に身を震わせながら、ドアに手をかける。




「......失礼します」




室内に入ると、大きな執務机がこちら向きで居を構えて、威厳を放っていた。


社長室みたいだ。




面接官は...視線があってしまいそうなので、あまりマジマジとは見れないが、鳥系の獣人のようだ。




「よく来てくれたね。弊社を志望してくれて感謝するよ。えーと名前は...。え、ユウヤくん。変わった名前だね。ああそうか、転生者か」




書類をめくり、俺の名を呼ぶ尊大な鳥。


あの紙は見覚えがある、天界で書いたESエントリーシートだ。




「あ、は、はい。その、よろしく、お願い、します」




緊張からか、ドモッてしまう。


いや、やはり苦手だ、こういうのは。心臓が鳴り止まない。




パラパラと資料をめくる鳥。


なんとなく気まずい空気だ。




早く終わらせたい。


さっさと秘策を切っちまおう。




善は急げ。


挨拶もそこそこに俺は、一呼吸おいて




「ここで働かせて下さい」






と言った。






その瞬間。




一陣の風が吹いた。


俺の視界が黄色く染まる。




部屋に波動が吹き荒れる。




体中の力が、エネルギーが、左目に集中するような感覚。




人生で一度も感じたことのない、脱力感と充足感の波を体中で感じる。


初めて感じるこれは、おそらくこれは、魔力の奔流だ。




魔力が眼に流れ込む。


そう、これは魔眼の発動。




鳥人の目がカッ見開き、当てられたような、ボーッとした表情でこちらを見ている。




かかったな。


こいつはもう、俺の魔眼の術中だ。






出発前に、ライラさんから2つの贈り物をもらった。


1つはこの左眼。




『突破率100%!


琥珀色の輝きがあなたを導く


〜面接破りの超魔眼〜』




である。










もう一度言おう。




『突破率100%!


琥珀色の輝きがあなたを導く


〜面接破りの超魔眼〜』




だ。




…………。




「わたしたち天使は、神に造られた、完全にとっても近い存在なんです!」


なんて言っていたが、どうやらネーミングセンスは欠落しているらしい。




まるで怪しいパワーストーンの売り文句。




てか超魔眼て、きょうび小学生でも言わんぞ?




ボクがかんがえたさいきょうの魔眼!


効果発動!面接に通る!ジョウノウチクン!




じゃないのよ。いや強いんだけどさ。






そんなしょうもないことを考えている間にも、


略称『面接破りの魔眼』は効果を発揮し、吹きすさんでいた波動は収まっていた。




そして鳥人面接官から




「ふむ...。いいだろう。明日から来たまえ」






の一言を引きずり出した。




んん〜〜〜はっや〜い♡つよ〜〜い♡




即採用にもほどがある。コネ入社ってこんな感じだろうか。


それにしても、鳥は何事もなかったかのように妙に落ち着き払っていて、なんだか滑稽である。ウコッケイだけに!ってか!ハハハ!




名前がダサくてもやはり天使の贈り物ということか。使えるシチュエーションが限定的すぎるが、強力な魔眼だ。


やっていることは洗脳に近い。


天使の力、恐るべし。




「君には社員寮に入ってもらうことになる。入居手続きには少しかかるから、今日は別の宿舎を用意しよう」


「あ、ありがとうございます...!」




こうして俺の入社はこともなげに進んだ。

お仕事転生モノなのに、全然仕事が始まりません。次回はついに初出社なるか...?


【重要なお願い】


少しでも


「就職はよ」

「面白い!」

「早く続きを更新してくれ!」

「更新頑張れ!」


と、思ってくださったなら


・ブックマーク

・広告下↓の【☆☆☆☆☆】から星5を投票


の2つをしていただけると嬉しいデス!


すると、私、瀬文ななちが

「この小説を書いててよかった...!」

「見てくれている人がいるんだ...!嬉しいな~!頑張ろう...!」


と、とても幸せな気持ちになります。


この気持ちのやりとりが、たったワンタップでできてしまいます!もちろん無料!


そして次回投稿が早くなります。


おかげさまで、まだ処女作5話しか投稿してない作品にしては、総合ポイントが高いんじゃないかとニマニマしています。今週は毎日投稿予定ですので、よろしくお願いします。


ツイッターはこちら @nanachi_sefumi


または「瀬文ななち」でご検索ください。

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