第2話 初日だけどパワハラだった
やあ諸君。俺はユウヤ。第二話を読んでくれてありがとう。
また出会えた幸運に、感謝が溢れてとまらないよ。
「ンガゴォォォォーーー!!!!」
「ダオダオ!!!ンギャアオギャアオ!!!!!!!」
おっと、周りが騒がしくて申し訳ない。
せっかく再会を喜んでいるところなのに、無粋な野郎どもだ。
えっと、たしか前回は、俺が就職を決意したところまでだったね。
あのあと、なんやかんやと色んな事があってね。
今日は再就職初日なんだ。
記念すべき10年ぶりの、しかも人生一回終わらせて再誕生して再就職という、大大大ブランクをあけての大事な大事な初日。
なんだけど――
俺は――
「ウグロォロォロォロォロォォ」
「ムフーン!!!!ムフーン!!!!」
俺は初日から、4体の巨大な人型生物に取り囲まれていた。
騒々しく威嚇する4体は、いずれも人間の倍から3倍はあろうかという巨身だ。
そう、俺は今、文字通りのモンスターカスタマーを相手にしているのだ。
なんでこんな事になってるかって?その説明は少しだけ待ってほしい。なにせ状況が状況だ。
取り囲まれている、と言ったが、それもあまり正確ではない。
もちろん、4体の中央に俺がいる形なので、取り囲まれてもいるのだが、より重要なこととして、鷲掴みにもされている。
俺はお人形さんのように掴まれ、下を見ると足は地を離れ、プラプラと情けなくブラ下がっている。
そして正面を向き直ると、彼らの最大の特徴が目に入る。
それは、俺の頭ほどもあろうかという、巨大な"1つ目"だ。
1つ目の怪物と言えば、そう、ご存知サイクロプスである。
そう、つまり、今俺は、4体のサイクロプスにリンチされている!されそうになっている!
――パワハラ、という言葉があるが、これは上司から部下に対して行われるのが通常である。
幸いにもこのサイクロプスたちは上司ではない。お客様なのだが。
しかしこれをパワハラと言わずして、いったい何と言う?
筋骨隆々、白眼充血、精神興奮。
人類におけるマッチョなど、彼らの前では貧弱な小虫に過ぎないだろう。そう考えると、彼らをマッチョと呼ぶのはむしろ失礼にさえ値するかもしれない。
そう思えるほどの圧倒的かつ尋常ならざるパワー。
筋肉が!暴力が!四方から俺を取り囲んでいるのだ。
もう一度言わせてもらおう!これをパワハラと言わずなんと言う!?
世界よ!これがパワハラだ!!
異世界パワハラ!!!
「グギィィィ!!!!」
4体の中でも最も薄着のサイクロプスが乱暴に腕を振るうと、
「ああ!!梁が!!!」
オーナーの悲痛な叫びが響き渡る。
その視線の先では、バキバキバキィとおぞましい音を立てて、太い梁が裂ける。
俺の胴ほどあろうかという木材が、いともたやすく砕け散る。
人体よりは硬いであろう梁が。
そして俺は悟る。
――あ、だめだこれ。死ぬわ。
強めにギュって握られるだけで、トマトみたいにプチュってなる。
それだけのパワーがコイツらにはある。
今の俺、鏡を見たらきっとひどい顔をしているだろうな。顔面蒼白。失意の底。やつれた相貌。苦悶の表情。そんな言葉が似合うに違いない。
「ンガゴ!!ンガゴォォ!!!!」
「ウグロォ!!グロォロォロォロォォ!!!」
サイクロプスの腕に少しずつ力が入る。ミシミシときしむ肋骨が、逆に思考をクリアにする。
――転生して人生やり直す。
そんなライラさんの言葉にそそのかされて、こんなところで働き始めたけど、あーあ、やっぱ仕事なんてするんじゃなかったな。
「今度こそうまくいく、新しい人生だ」
「今までの俺じゃない」
今思えば、なんて根拠のない言葉を、自分に言い聞かせてたんだ。
あーあ、短かったな、俺の第二の人生。せっかく18歳の体に受肉してもらったのに。
真面目に働こうなんて思ったばっかりに。
涙が出てきた。
はあ、ていうかなんでこんな事になったんだっけ。
俺は、転生が決まってからこれまでのことを、走馬灯のように思い出していた。
時は受肉前、職安まで遡る――
* * * *
「どーせ一回死んじゃってるんですし、新しい人生だと思って、ライラと一緒に、頑張りましょ!」
そう言って、俺とライラさんは握手をした。
就職決定の瞬間である。
ライラさんの手のひらは暖かかった。
女の子の手をにぎるのはもちろん、人の温度を感じるの自体、随分ご無沙汰だった。
33にもなってこんな事言うのもアレだけど、正直照れくさいな。
年甲斐もなくドギマギしてしまっている俺がいた。
その優しい底抜けの笑顔に、つい見とれてしまっている俺がいた。
「え、あ、こ、こちらこそ、あの、がんばります」
そしてドモッてしまう俺がいた。
なんで急に敬語なんだ俺は。ああ、かっこ悪い。
その優しさに惹かれて、俺は一瞬、ほんの一瞬だけ、ライラさんの目を真っ直ぐ見た。
今に至るまで俺は一度もこの子と目を合わせて話していない。
俺が見たのはほんの刹那だったが、即座に気づいたライラさんと視線がぶつかり、俺はサッと目をそらした。
俺は、人の目を見られない。目を見て話せない。
これから仕事を始めるにあたって、不安要素の一つだ。
昔から人と目を合わすのは苦手だった。
男女で目を合わせて会話するなんて、そんなのはドラマの中だけの話だと、ずっと思ってた。どうやら違うらしいと気づいた頃にはもう中学生だった。
この10年の引きこもりで拍車もかかっている。
ここ数年はコンビニに行くことさえほとんどなかったわけだし、そもそも人と会ってない。
「........................」
間が気まずい。
俺が見ていたから、何かあるのかと思って反応を待っているという様子のライラさん。
だが、持ちろんなにもない。ただ盗み見ていただけだ。
こういうなにもない時間、何を話せばいいんだろう。人との繋がりがもっとあった頃、よくそう思っていたっけ。
さっきまでは普通に話せていたのに、喋らなきゃと意識したとたん、言葉が出ない。
俺の人生を思うと、むしろさっきまで普通に話せていたことのほうが異常だろう。
死んだばかりで、パニクってでもいたのかもしれない。
俺は目をそらしたまま、宙に浮いたような時間が、数秒流れた。
ライラさんはそんな俺を見て何を思ったか、ただニコッと微笑むと、ストンと席に腰をおろした。
そして、
「じゃ、早速就職先候補をリストアップしていきますねー!」
元気よく宣言すると、バサバサと書類をめくりはじめた。
それを合図に、二人の間で止まっていた時間が流れ出す。
助かった。事務的なやり取りのほうが、今は気が楽だ。
俺はただホッとした。
ホッとするあまり、どんな仕事が紹介されるかなんて、このときはまだ想像も出来ていなかった。
1話お読みいただいた方、Twitterでご感想を送っていただいた方、ありがとうございました!自分の小説作品に感想をいただくという体験が人生で初だったのですが、実際に感じた嬉しさが想像を遥かに超えており、3日ほどに渡ってそれが嬉しかったと言う話をしていました。
ものすごく超常的に常軌を逸して尋常じゃなく嬉しかったです。
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