プロローグ2
たくさんの素焼きの壺が並んでいるその屋敷は半分焼け崩れていた。崩れた壁をまたいで、マゼルはその屋敷へと入っていった。幾人もの人が焼け焦げ倒れているのを横目で見ながら、熱気を巧みにマントでよけてマゼルは声の出所を探す。
部屋の隅にひときわ大きな瓶があり、なぜか、その一角には炎の力が及んでいないように見えた。マゼルは急ぎ足でそこへ走り寄った。大きな瓶には不思議な文字が描いてあるお札が張ってあった。すぐ横に大柄な男の焼け焦げた死体が横たわっている。赤ん坊の泣き声はその大きな瓶から聞こえていた。
マゼルは瓶に近づき、木の蓋を開けて中をのぞきこんだ。と、なんとその中には水が溜めてあり、その水面に一抱えほどの小さな瓶が、これも木の蓋をして浮いている。泣き声はその瓶から聞こえていたのである。
水瓶の中から泣き声のする小瓶を取り上げ地面に置き、蓋を取るとそこにはきれいな絹の肌着を着て、やわらかそうなウールの編み物につつまれた赤ん坊が声を上げて泣いていた。右の腕には、真っ赤な石とミスリル白銀の彫り細工の見事なペンダントが巻きついている。赤ん坊の緑色の目が一瞬マゼルを見た。
フギャアアアアーーーーーーーー…………!
外の空気と焼け焦げる匂いを感じ取ったのか、瓶の底でもがいていた赤ん坊はいっそう大きく声を上げて泣き出す。
「ああ、わかったわかった、うるさい子だねえまったく、よっこいしょっと……」
ひとりごちながら瓶の中に手を伸ばしたマゼルは、ウールの編み物ごと赤ん坊を自分の頭上まで抱き上げた。すると不思議な事に凄まじい声を上げていたその赤ん坊はぴたりと泣くのをやめた。赤ん坊を胸に抱えなおしたマゼルは、鼻をひく付かせて笑うその子を見て、驚いたように言う。
「ほう、このマゼル・ケーコキンコさまの匂いが気に入ったかい、生意気な子だよ」
そう言うとマゼルは高笑いをしながら赤ん坊を抱き、瓶に貼られていたふしぎな文字のお札をはがして、少しの間それに見入ったあと懐に入れた。
そうして燃え崩れそうなその建物を足速く離れ、炎に照らし出された大通りを、街の出口へと向かって小走りに走って行った。
街を覆いつくした炎はなお激しく燃え盛る。しかしなぜかその業火は、風のようにどこかへ去ってゆくマゼルと赤ん坊の行く先を示すがごとく、火の手の勢いをゆるめ、道を空けるのだった。




