第7話 治療
「……もう間に合わないかも、そう思ったわらわは、屋上へ行ってそこから大量の水をばらまいたのじゃ!」
医務室で治療してもらって、ベッドで横になっている俺のところで、嬉しそうに話しているメリス様。
「そうだったんですか! 本当にありがとうございます!」
俺がメリス様の部屋をあとにしたあと、入れ違いで兵士がメリス様の部屋へ訪れてた。このお城に侵入したものを捕まえたので、メリス様の身の安全の確認をしに来たとのこと。
メリス様も最初は感心して話を聞いていたが、よくよく話を聞くと俺だということが分かった。急いで牢獄や裁判室へ向かったが、すでに広場にて死刑執行が始まっており、窓から見たときにはすでにものすごい勢いで火の手が上がっていたそうだ。
今から行っても火を消せないと思ったメリス様は、屋上に流れている水を利用して、水をまいて消化してくれた。
救世主とは、彼女のような人のことを言うんだなと、心のなかでそう思った。
その後、俺は気を失ったものの、すぐに医務室へ運ばれると、医務室長のファナさんが治癒魔術で治療を施してくれた。
「やけどがひどかったけど、ひとまず大丈夫だと思うわよ。でも、もう少し手当が遅れていたら危なかったかも……おかげで、私の魔術ポイントもほぼ0よ」
「ありがとうございます!」
「本当におぬしには感謝しておる! ありがとうなのじゃ!」
俺はベッドから起き上がれるまでに回復していた。
「大丈夫なのか、起き上がって」
「はい、大丈夫です。ファナさん、部屋へ戻ってもよろしいでしょうか?」
「う~ん……本当は、2~3日は安静にしていないといけないけど、奴隷くんのような若い子なら大丈夫なようね! でも、気分が悪くなったりしたら、すぐに来てちょうだいね!」
「わかりました、ありがとうございます!」
起き上がっても特になんともなく、しっかりと二本の足で歩けるようになっていた。医務室長のファナさんには本当に感謝しかない。
「あっ、その前に奴隷くん。ちょっといいかしら……」
医務室を出ようとしたとき、ファナさんに手招きされた。なんだろう、と思いつつも彼女の下へ行くと、色っぽい声を出しながら俺の耳元で妙なことをささやいた。
「ねぇ、奴隷くん。下のお世話が必要になったときは、いつでもここへ来ていいからね」
「な、何をバカなこと言っているんですか!」
たしかに、とても長い髪の毛はきれいで美しく、何よりも出ているところはしっかりと出ている。ナイスバディでキレイなお姉さんに違いない。
「うふふ、いつでも待ってるからね!」
って、何を意識してしまっているんだ俺は。顔を横に振って、正気に戻る。
「トモヤス、どうかしたのか?」
「いや、何でもないです。ほら、行きましょう!」
「お大事に~」
先ほどまで弱っていた体だが、一気に回復したように感じた。
逃げるようにして、俺たちは医務室をあとにすると、メリス様が質問してきた。
「ところで、そのチョーカーはどうしたんじゃ?」
「これですか……実はですね……」
俺は正直に話した。メリス様の部屋にあったこと。このチョーカーをつけていれば、万が一のときも疑われることはないのではということ。しかし、勝手に人の持ちものを部屋から持ち出してしまったことは、何があっても許される行為ではない。俺は、奴隷にもかかわらず、自分のしでかした愚かな行為を反省し、頭を下げて謝った。
「本当にごめんなさい……」
今回ばかりは何をされても受け入れよう。覚悟は決めていた。
「トモヤス……」
「は、はい……」
メリス様の声が少しトーンが低いように聞こえた。これは怒っているに違いない。いきなり肩をポンと叩かれ、体をぶるっと震わせた。
「別にそれくらいのことなら、問題ないぞ! それに、わらわの部屋をキレイにしてくれたのはおぬしなんじゃから、それはおぬしにプレゼントするのじゃ!」
怒るどころか、メリス様はニコッと満面の笑みを見せていた。
「でも、俺は奴隷として当然のことをしたまでのことです……」
「いいや。おぬしは、わらわが初めて奴隷契約を結んだ、たったひとりの奴隷、いやパートナーじゃ!」
その言葉に、俺はうるっとしてしまった。そして、こんな元気な子を騙している罪悪感にもさいなまれた。
(すみません、メリス様。あなた様が俺の奴隷になっているんです……)
当分、この真実は言うことができないだろう。