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第6話 消えたトモヤス

「しばらくここに入っていろ!」

 守護兵たちは、乱暴に俺を地下の牢屋へ放り込んだ。

「くっ……」

 地面に体を打ち付け、ひんやりとした地面が体にまとわりつく。体を起こして、鉄格子のなかから必死に叫ぶ。


「話を聞いてくれ。俺はメリス様に召喚されてここへ……」

 俺を捕まえた守護兵は、その言葉を聞くと笑いながらこう言った。

「アハハハ。バカなことを言うな。メリス様がそんなことができるとでも思っているのか!」


 メリス様が自ら言っていたことは本当のようだ。メリス様がそんなような魔術を使えるわけがないと、このお城の人は思い込んでいる。そのため、俺がそのようなことを言っても、どこのスパイだとか、黙れなどと言われ、誰ひとりとして耳を傾けてくれなかった。

 何を言っても無駄だとわかったあとは、ここからどうやって脱出しようかということを考えていた。しかし、ここの牢獄は地下のため窓もなければ、外には守護兵が見張っており、脱出できるスキはない。


 あきらめて壁に寄りかかっていると、守護兵が牢屋の扉を開けた。 

「出ろ!」

 言われるがままに牢屋から出て、守護兵たちにどこかへ連れていかれると、ある部屋にたどり着いた。

 なかへ入るとそこは証言台が真ん中にひとつ、ぽつんとあるだけだった。おそらく、裁判が行われる場所だろう。

 2階には魔界に住む人たちや、裁判に興味がある人たちなどが傍聴できる場所となっているようで、すでに100人を超える住人たちが来ていた。


「こんな奴、さっさと殺してしまえ!」

「侵入者を許すな!」

 傍聴席からはヤジや罵倒を浴びせられ、しまいにはよくわからない液体やモノなどを投げつけてくる輩までいた。


 そうこうしていると、2階正面の扉から大きな魔人がのっそりと入ってきた。その魔人が入ってくると、先ほどまで賑やかだったこの部屋は一気に静かになった。

「こいつがこの城へ侵入したという人間か」

「は、はい。ウェイリーン様」

 うんうん、と軽く首を縦に二回ほど振る。何か考えたあと

「ふむ、そうか。どうやってこの城へ忍び込んだのか知らないが、お前は死刑に処する。以上だ」

 裁判は思った以上にあっさりと終わり、俺が弁明する時間はなかった。


「ちょ、ちょっと待ってください!」

 突然の死刑判決に俺は叫んだが、

「静かにしろ!」


 守護兵たちに取り押さえられると、そのまま部屋の外へ連れ出された。

「ち、違うんだ。俺は、メリス様に召喚されて……」

「静かにしろと言っているのが分からないのか!」

「うっ……」

 みぞおちにパンチが入り、その場にうずくまってしまった。


 そんなことはお構いなしに、守護兵たちは俺を引きずりながら無理やり広場へ連れて行くと、死刑執行台に俺を括り付けた。

 無抵抗になった俺は、魔界に住む人たちからその場でいろいろなものを投げつけられた。

 無実を訴えるも、誰ひとりとしてその言い分を聞いてくれない。ただただ、それはむなしくもあり、怒りさえ覚えた。なんで何もしていない俺がこんな目に合わなくてはいけないのだと。


「それでは、これより死刑執行を始める」

 そういうと、見物に来ていた人からは大きな歓声が上がる。

 死刑執行台の下に大きな薪があり、そこに燃料を投下させて火をつける。徐々に火の勢いが激しくなり、温度も高くなってくる。


「やれー、もっとやれー!」

 火の勢いが増すごとに、住民の歓声もひときわ大きくなり、さらに盛り上がる。


「くっ……うっ……うあああああ」

 あ、熱い……熱すぎる……

 皮膚が焼けていき、次第に熱いから痛いへ感覚が変わっていった。


「うわあああああ」

 体を一生懸命くねくねと動かすが、完全に手足を固定され、バタつくことさえできない。

 炎が完全に体を包みこむと、俺の意識は少しずつなくなっていった。


「うおおおおおおおお!」

 住民からの歓声がマックスに差し掛かったとき、


――びしゃあ――

「な、なんだ!?」

 突然、上から大量の水が降り注いできた。

 その水は、火を鎮火させるには十分な量だった。


「ちょっと、待つのじゃ!」

 屋上から、メリス様が登場する。


「メリス、いったい何ごとだ!」

「お父様、話を聞いてください。実は、こやつは、わらわが先ほど召喚した奴隷なのじゃ!」

「お前のど、奴隷……だと!」

 その言葉にウェイリーンをはじめ、魔界の住人たちはざわつき始めた。


「なるほど、そういうことか。しかし、その証明は当然できるんだろうな。いくら娘とはいえども、死刑執行中にこのような愚行を働いたのだから、証明できませんでは、ただではすまさないぞ」

 死刑を見守っていた人たちも、メリス様に何か言いたいようだったが、この場面では固唾をのんで見守っていた。


 その言葉に、メリス様は一瞬たじろいだが、意識をかろうじて保てていた俺は、このやり取りの一部始終を聞いていた。

「メ、メリス……さま……」

 俺は最後の気力を振り絞って、メリス様を呼ぶ。

「ト、トモヤス……だ、大丈夫か……」

「はい。それよりも証拠ですが……」

 俺はメリス様にとっさにあることを伝えた。


「どうした、メリス。その死にぞこないの奴隷のことがよっぽど気になるのか?」

 ウェイリーンは証拠はないのだろ、と言わんばかりに威圧的な声でメリス様に話しかけた。


「うむ、わかったのじゃ!」

 メリス様は俺との話が終わると、ウェイリーンのほうを向き、ひとつ咳ばらいをすると話し始めた。


「お父様、ここにいるトモヤスとの奴隷契約についての証明じゃが……」

「ほう、なんだね」

「これが、証明じゃ!」

 メリス様は自分についているチョーカーを指さした。


「そのチョーカーがどうかしたのか?」

「これは、わらわとトモヤスが奴隷契約を結んだときに出現したものじゃ。現に、トモヤスもわらわと同じチョーカーをしておる」

 そういうと、広場は再びざわつき始めた。


 ひとりの兵士がウェイリーンと意思疎通を図ると、メリス様の下へ向かっていった。

「失礼します」

 兵士がメリス様のチョーカーを確認する。そのあと、俺の首を確認する。

「ありがとうございます」


 兵士はウェイリーンの下へ戻ると、ひそひそと話し始めた。

 その瞬間は、短い時間ではあったが、ものすごく感じた。


「なるほど、わかった……」

 ウェイリーンは住民たちのほうへ体を向けると、

「そこにいるものは、正真正銘、わが娘、メリスの奴隷だ!」


 そう宣言すると、住民たちは声を上げて驚いた。

「えっ、あのメリス様が本当に奴隷契約を!」

「し、信じられない……」

 などの声が上がった。


「よって、そこにいる人間は、メリスの奴隷と判断したため、無罪とする」


「うおおおおおお!」

 先ほどまでの重苦しい空気から一変、「あのメリス様が奴隷を!」という、お祝いモードのような明るい雰囲気に変わっていった。


「よかった、よかったのじゃ、トモヤス!」

 メリス様は半泣きしながらも、嬉しそうな表情で俺に抱き着いて喜んできた。

「よ、よかったです……それよりも、心配かけて本当にすみませんでした……」


「ううん、悪いのはわらわじゃ。トモヤスは悪くないぞ!」

「そうですか、ありがとう……ご……ざいます……」

 安心しきった俺は、体力の限界を迎え力尽きてしまった。


「ト、トモヤスゥゥゥゥ!」

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