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第3話 奴隷契約の儀式

 元の世界へ戻れるのならば、このまま帰りたいというのが本音だ。しかし、このままこの子を見捨ててしまうのも可哀そうだ。

 そこで、俺はひとつ提案をした。

「じゃあ、俺が魔方陣を描くから、メリス様はこのなかに収まるように文字を書いてください!」


 そう、ひとりでできないのであれば、ふたりで協力すればいいと思ったのだ。

「でも、それじゃ、おぬしが……」

「俺のことは気にしないでください! それよりも、時間がないんですよね!」

 そういうと、メリス様は涙をぬぐう。


「うん!」

 少し元気な声で頷いた。


 しかし、魔方陣はメリス様が持っていた杖で描かなくてはその効力は発揮されないうえ、その杖を扱うためには魔力が必要である。当然、魔力を持っていない俺はその杖は扱えない。そこで、メリス様が1回その杖に魔力を注入して、それを俺が受け取り素早く魔方陣を描く、ということを提案した。

 だが、魔力を有していない人間が、魔力にあふれた杖を扱うのはたやすいことではなかった。

「う、うわぁ……」

 魔力が注がれた杖を持つと、磁石のS極とS極をくっつけたかのように反発して杖が暴れた。


「だ、大丈夫か、おぬし!」

 暴れた杖はメリス様が持つと、おとなしくなった。それを見た俺は、あることを思いついた。


「メリス様、杖を持っている間だけでいいので、俺の背中に抱き着いてくれませんか!」

 元の世界ならば、「おまわりさん、この人です」と言われても仕方ないかもしれない。でも、今はこの方法にかけるしかないのだ。


「これでよいのか?」

「はい、大丈夫です。それではいきますよ!」

 メリス様は俺の背中にしっかりとしがみついた。この状態で、再び杖を触ってみる。すると思った通り、杖は先ほどのように暴れることはなく、自在に操れるようになっていた。


「よし、成功だ!」

「おぉ、おぬし、なかなかやるよの!」

 メリス様も初めて見る光景に目を輝かして喜んでいた。


「それじゃあ、いくぞ!」

 そのまま俺は一気に魔方陣の枠を描き上げた。

「これで大丈夫かな?」

「むむ! ばっちりじゃ! あとは、任せておけ!」

 なぜ、俺が杖を使って魔方陣を描けたのかというと、メリス様が俺に触れることで間接的に魔力が俺を通って杖に伝わっていたからだ。これは以前、アニメで同じようなことをやっていたのを見たことがあったので、もしかしたら使えるのではないか思ったので試してみた。そうしたら、意外とうまっくいったようだ。


 こうしているうちに召喚魔術の効力がなくなるまで、あと5分を切った。急げ、と言いたいが、ここは彼女を信じてそっと見守った。


 そしてついに、

「できたぞ! ほれ、おぬし、ここに立つのじゃ!」

 残り時間3分くらいだろうか。ふたりで協力して、なんとか魔方陣を描き上げた。


 俺は言われた通り、魔方陣の上に立つと、メリス様も魔方陣に立った。

「最後にもう一度聞くが、本当におぬしはわらわの奴隷になってくれるんじゃな……」


 ここまで来たんだ。もうどうにでもなれという思いと、もし彼女をこのまま放っておいて元の世界へ戻ったとしても、なんであのとき助けなかったんだろうと、思ってしまうかもしれない。そんなことを思うと、彼女をこのまま見捨てることはできなかった。

「はい、大丈夫です!」

 俺は覚悟を決めたてそういうと、メリス様は今日一番の笑顔で笑った。


「それよりも時間がありません! 早くその奴隷の儀式というやつを!」

「うむ!」

 メリス様は奴隷契約の提唱を行った。何と言っているのかさっぱりわからなかったが、今は無事に成功することを祈るばかりだ。


「ウェル・エム・ラエスルー・フォーナ」


 魔術の提唱をすると、魔方陣が青白く輝き始めた。どうやら成功したらしい。

「おぬし、手を出すのじゃ!」

「は、はい……」

 手を差し伸べると、メリス様は手の甲にキスをした。

「おぬし、さきほどわらわがやったように、わらわの手にもやるのじゃ!」

「わ、わかりました……」


 お願いだから、通報だけはしないでください。これは、奴隷契約に必要な儀式なのです。元の世界で、この状況を目撃でもされたら、お巡りさんに捕まっても不思議ではない。

 お互いにキスを終えると、さらに魔方陣の光の発色が強くなると、俺の右手中指にリングが出現した。


(これが、奴隷の証なのだろうか……)


 リングがはめられると、魔方陣の発光は弱くなり、次第に消えていった。

「よし、これで儀式は終了じゃ! これで、おぬしは今日からわらわの奴隷なのじゃ!」

「あはは……そうですね……」

 これで彼女は少しは報われるだろう。いや、そうなってくれないと、俺が奴隷になった意味がなくなってしまう。


「それじゃあ、まず奴隷になったおぬしに名前を授けるとしよう……と言いたいのじゃが、おぬし。名前は何と言ったか?」

「そういえば、まだ俺の名前は言ってなかったですね。俺は、内田友恭と言います。よろしく、メリス様!」

「ウチダトモヤス? 変わった名前じゃのう。うーん、じゃぁ、トモヤスでいいかのう!」

 なんかもっと違った名前をつけるのかとドキドキした。でも、これはこれで呼ばれ慣れている名前なので、しっくり来た。


「はい、大丈夫です!」

「そうか! よろしく頼むぞ、トモヤス!」

 奴隷ができたことがうれしいのか、すごくはしゃいでいる。


 奴隷契約を結んだ証として、メリス様の首元にチョーカーのようなものが出現した。

(えっ、なんでメリス様が首輪……?)


 ちょっと待てよ。これも、前にやっていたアニメで見たことがある。奴隷契約を結ぶと、奴隷になったほうに外れない首輪が出現するということを……。


(ま、まさかね……)

 そう思いながら、メリス様から見えないように俺はあることを試してみた。


「あっちむいて、ほい!」

 そう呟きながら、俺は上を指す。


「おお、なんじゃ! 顔が急に!」

(う、うそだろ…)


 これは本当にマズイことになってしまったようだ……。


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