第2話 友恭が召喚された理由
俺の名は内田友恭。元の世界では、光が丘高校に通う2年生で軽音楽部に所属していたが、先ほど魔王・メリスと名乗る女児に異世界へ連れてこられてしまった。
「さぁ、とりあえず、おぬしはここで待っているのだ!」
「あ、あのぉ……」
メリス様に聞こえるくらいの声で話しかけているつもりなのだが、聞こえないふりをしているのか、それとも本当に聞こえていないのかわからなく、あっさりと無視されてしまった。
「それじゃあ、頑張るぞ!」
そういうと彼女は杖を取り出し、地面に魔方陣を描きはじめた。
俺は仕方なくその場に座り、メリスが魔方陣を描き終えるのを待った。どうせ、ここから逃げたところで捕まるか、殺されるのが目に見えている。どちらにしろ、元の国に帰ることを半ばあきらめているので、今はおとなしく指示に従うことにした。
しかし、5分経っても10分経っても一向に魔方陣が描きあがる気配がなく、気が付けば30分が経過していた。俺はやることもなく暇だったのもあり、ついうとうとしてしまった。
そのとき、
「あああああああ!」
怒りに似たわめき声が急に聞こえてきた。
(な、なんだ!)
その声で一気に目が覚めた。
恐る恐るメリスの後ろから顔をのぞかせると、魔方陣っぽい何かが描かれていた。魔方陣を描いたつもりなのだろうが、そもそも円がきれいに描かれていし、文字も枠からはみ出ているところが多々ある。魔方陣と呼ぶには程遠く、ただの落書きのようにしか思えなかった。
おそらく、メリス様は魔方陣がうまく描けないことに対してイライラしてきたのだろう。
しまいには、杖も投げ捨ててしまい、すねてしまった。
「あ、あのぉ……メリス様……」
俺は励まそうと、彼女に話しかけた。
「なんじゃ……おぬしもわらわのことを、でき損ないの魔王候補とでも言って笑うのじゃろ……」
「えっ……?」
(でき損ないの魔王候補?)
俺は、そのことが少し気になり、メリス様の隣に座って話を聞いた。
「わらわは、魔王候補として生まれてきたのじゃ。でも、わらわはまだ子どもで、魔術もこの通りなのじゃ。だから、魔界に住む人からは『でき損ない魔王』と言われておるのじゃ……。このままじゃ、お前に国を任せられないとか、潔く国のために死んでくれとか言ってくる輩もおるくらいじゃ。それくらい、わらわもわかっとる。だから、何とかして魔術をひとつでも使えるようになって、国のみんなに認めてもらおうと頑張っているのじゃ……」
なるほど。でも、その話を聞いてひとつ疑問に思った。
「とはいっても、俺をこの世界へ呼び出したのはメリス様じゃないですか? なんで俺を召喚する魔術は使えるのです?」
「実はこの魔術はわらわが使える唯一の魔術で、この魔界に生まれてきた人が最初に覚える魔術でもあり基本中の基本のものなのじゃ。それに、この魔術で召喚しても1時間だけしか効力がないのじゃ。だから、あと30分くらいでおぬしとはお別れなのじゃ……」
ということは、30分もすれば俺は元の世界へ戻れるということなのか。 転生したわけでも、元の世界で過労で死んでしまったわけでもないとわかり、少しホッとした。
この子の召喚魔術で、たまたま俺がこの世界に呼び出されてしまったというだけらしい。
(やっと帰れる!)
心のなかでは嬉しく思ったが、隣にいる悲しげな表情をしたメリス様を見ると、このままでいいのだろうかと思ってしまう自分もいて、なんだか複雑な思いもした。このままこの子を放っておいいていいのだろうか。自問自答した結果、俺の良心がそれを許さなかった。
「もしかして、これまでにも何回か人間界の人を呼び出したりとか?」
「うーん……でも、みんな1時間したら帰っていったのじゃ。それに、一度発動したら、1年はこの魔術は使えないのじゃ……」
「そうなんですか……ちなみに、これまでに何人くらい、この世界に呼び出したんですか?」
「はっきりな数字は覚えておらんが、300人くらいかのう……」
(さ……300人ってことは、こう見えて300年以上も生きているのか!? 魔王の世界は長生きと聞いたことがあるが、まだ300年で子どもとは驚きだ)
最後に召喚してから1年が経過したので、召喚魔術を使って俺を呼びよせたという。ただ、それも残り30分。このまま、何もできずにいたら、また次の召喚までに1年を要することになる。
この1年でこれまで以上に魔術の勉強を頑張ってきたらしいのだが、結果を出せずにいた。こうしている間に、時間は刻々と過ぎていく。