第1話 わらわの奴隷にならないか?
『ここへ手をかざしてみてください』
携帯で調べものをしている途中、間違えてサイトの真ん中あたりに出ている広告をクリックしてしまった。
すぐに戻ろうとしたのだが、新しいアプリゲームなのだろうか、面白そうだなと思いそのページを見てしまった。システムやらキャラクターやらの紹介を見て、思わずおもしろそうだと思い事前登録も済ませてしまった。 そんなこともありながら、画面の一番下までスクロールすると、先のような言葉が出てきたのだ。何も起こらないとわかりながらも、誰も見ていないことを理由に、実際に手をかざしてみる。これは、誰もが一回は経験があるだろう。
(やっぱり、何も起こらないよな……)
それはそうだ。こんなことで、何かが起きたら、それはそれで大変だ。
まぁ、そんなことはどうでもいい。早く課題を終わらせないとと思い、そのページから戻ろうとしたとき、いきなり携帯の画面から目を覆いたくなるくらいの光を発した。
「うわ……まぶし……」
その光はあたり一帯を包むと、数秒後には消えていた。
(な、なんだったんだ、今のは……)
あたりを確認するが、特に変わった様子はなかった。携帯も電波はつながっていれば、熱を持っているということもないし、どこか壊れたわけでもなさそうだ。
(まぁ、いいか……)
気にせずに学校の課題の続きをやる。
しばらくすると、喉が渇いたので飲みものを取りに行こうと自分の部屋を出る。
「おお、成功なのじゃ!」
ドアを開けたそこには、10歳くらいの女児が立っており、俺の姿を確認すると喜びに満ちた表情をしていた。
「えっ!?」
いったいこの子は誰なのか。そして、ここはどこなのか。
後ろを振り向くと、たしかに俺の部屋なのだ。でも、体を前に向けるとそこは見ず知らずの部屋で、俺の部屋の10倍くらいの広さがある場所だった。
「き、きみは?」
「わらわか? わらわは、メリス。この国の次期魔王候補なのじゃ!よろしくなのじゃ!」
(ま、魔王……候補!?)
ということは、ここは異世界なのか!? そうか……。これが転生というやつなのか。たしかに、最近は課題の日々に追われていて、それほど寝ていなかった。それも相まって、知らないうちに過労で死んでしまったのかもしれない。元の世界ではやり残したことがたくさんあるので、まだ未練があるが、目の前で起きていることが現実というのであれば仕方ない。
それよりも、魔王候補とはいえ、時期魔王に向かってため口では俺の命が危ういかもしれない。今は丁寧語で話しかけるように心がけた。
「ところで、魔王様はなぜ俺をこの世界へ呼び出したんでしょうか?」
「おぉ、そうじゃった!」
こほん。メリスは咳ばらいをひとつすると、
「今日からおぬしは、わらわの奴隷になるのじゃ!」
腰に手を当てると、満面の笑みでこう言ってきた。
「はい!?」