ジズVSライコス開戦②
ジズVSライコス開戦②
────前線地帯
つい数秒前まで無線が繋がっていたこの場所に殿として来たアマウとウイン。
彼らは実際の光景を見て、自分たちが何のためにここに来たのかを忘れた。
「これは・・・幾ら何でもやりすぎでしょ」
2人の前には服を着た肉がどこまでも散らばっている。
血を吸った大地は真っ赤。
獣が獲物を取り合って食い散らかしたように臓物が散乱している。
けれどそれらは食べられたわけではない。殺されただけである。
そんな死が散らかる中、ある生き物たちが2人を囲い始めた。
生き物たちが肉や内臓を踏みつけながら徐々に迫ってくる。
水たまりを踏んだかのような音を聞くたびに、次は自分たちがこの肉片になるのかと2人は想像した。
「アベル。これって」
「気をつけろよイラちゃん。飴とアースの両方でいくよ」
2人を囲っていたのは人間のような2足歩行の生き物。
いや、人間だった。でも理性がない。
明らかにトレーニングをして鍛えた肉体ではないと分かる異常なまでに発達した各所の筋肉。
目は白目をむき後頭部には紫色の目玉模様があった。
それらが彼らを人ならざるものにしていた。
「こいつらが何なのか考える暇もないってことね……」
2人は既に手にしていた飴を飲み、それぞれの武器を持つ。
ウインは鉄球に指を入れ、アマウは拳銃を持った。
「アースオブ──ケツアル!」
「アースオブ──ルフ!」
その直後その場には強風が吹いて大地が盛り上がった。
竜巻に包まれたウイン。
岩に包まれたアマウ。
その間は周りの怪物が手を出せない防御状態となる。
しかしそれは相手に隙を与えてしまう。
手を出すことは出来ないが、逆にこちらも相手に手を出せない。
このタイミングを狙っていたように1人の子供と1人の青年が、2人に気がつかれぬままジズへ向かった。
────数分後 ドド、バモンの中間地点
「偵察クラスが全滅だと?」
「俺にだってまだ分か──」
「アースオブ──エトピリカ!」
バモンはドドを自身の側に寄せてアースを発動した。
アースを発動したその瞬間だけは防御状態となる。
バモンは氷の盾となり彼を守る。
その盾には人の頭ほどある黒い炎の玉が5発命中した。
しかしバモンは何事もなかったようにオレンジ色の羽を生やし、氷の中から出てきた。
「ファイン・ドド。飴を2つ、最悪な場合は3つ。いや、持っているもの全てを飲んだ方が良い」
「お前こそアースだけじゃなくて、飴も飲んだ方が良いんじゃないか?」
並び立つ2人が見つめる先、黒い羽を生やした青年が赤い頭を下げてお辞儀をしていた。
「アースではバモン、飴ではドド。ジズ最強の戦士と言っても良い2人がここにいるとは・・・」
赤い髪の青年にとってこれは嬉しい予想外であった。
しかしバモンにとっては受け入れたくない現実。
「……イーサン。イーサン・コペルト! お前がそうなのか? お前がライコスを率いていたのか? 馬鹿なことはやめて、ジズに戻ってこい!」
それまでにこやかにしていたコペルトの顔がその一言で固まる。
そして首をかしげて舌を鳴らした。
「馬鹿なことをしているのはお前たちだバモン! 何が対ポルム組織ジズだ! 人を助けない組織が世界を取り戻せるはずがない!」
バモンは赤髪の彼に対して強く言えなかった。
それを見かねてドドが前に出る。
「まだ20歳にもならん奴が何を分かったようなことを言っている! ステダリーさんは必ず世界を良くする!」
「お前は今! 関係ないだろ!」
黒い翼はドドに向けて黒い炎の玉を送った。
それは先ほど盾となったバモンが受けた炎の玉の倍の大きさ。
しかしそれも彼がとっさに手の平を向けて作った氷の盾に弾かれてしまう。
「氷鳥の風」
「何だよバモン! 邪魔をするのかよ! お前も結局俺の敵なのかよ!」
「違う!だがお前の今やっていることこそ、人を助けることには繋がらない無意味な戦いだ。それだけはやめるべきだ」
「やっぱりあんたは何にも分かってねえよ! 俺はジズを潰して新たに人々を救済する組織を作る! そのためにライコスは必要だ!」
コペルトの足元には腕から抜け落ちた黒い羽が溜まっていた。
一方バモンの足元には羽はおろか汗さえも垂れていない。
「そのために! 人の命を利用して良いと思ってるのか!」
「人? 何のことだ? 俺がいつ人の命を使った?」
「ライコスの兵士たちは今! 前線で三幻鳥の2人を相手している! 時間稼ぎとして死んでいくんだ!」
「それのどこが人の命を使ったことになる。俺が使ったのはドミーの命だ」
口だけを動かし淡々と話すコペルトにバモンは手を硬く丸めて迫った。
「……ふざけているのか!!」
「そうか。お前らは知らないのか。人をドミー化させる薬はもう出来ているぞ?」