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幻獣チルドレン  作者: 葵尉
第2章 VSライコス編
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31話 ジズVSライコス開戦①

31話 ジズVSライコス開戦①



 ────対ポルム組織ジズ 洞窟前



 空には雲ひとつなく風も吹かない。

 赤い制服を着た少年少女たちは空からの強烈な光を浴びていた。


 こんな時代でなければ今日は外でご飯を食べながら笑い合うことが出来ただろう。


 「もう戦いって始まってんのかな? ニアース見える?」


 「見えないわよ」


 カインはつま先で立って遠くを覗きながらそう聞いた。


 そんな彼にニアースはため息が出る。


 エイドはその2人の背後に隠れるように立っていた。

 

 (僕たちジズクラスはジズの入り口とも言える洞窟付近を守るというのが任務。

 

 でもみんな座っていたり話をしていたりで緊張感が全くない。


 ここよりもずっと先のところでドドさん率いる偵察クラスと三幻鳥クラスが一緒に戦っているらしい。


 けれど、ここにいたら本当に戦いが起きているのか疑ってしまうほど平和だ。


 平和なのは良いことだけど退屈だ。

 僕のそんな想いをカインさんが代わりに言ってくれた)


 「は~。俺も戦いたかったのにな~」


 「私たちが暇なのは一番いいことなのよ?」


 「そりゃ分かるけど、俺たちジズクラスだぜ?能力があるのになんで飴しか使えない偵察クラスが前線なんだよ。普通逆じゃね?」


 「いくら能力があっても経験不足じゃ実戦では使えないってことでしょ」


 「それじゃあ俺たちいつまで経っても経験不足なままじゃね?」


 「私たちはドミーやポルムを倒せば良いの。人の相手は軍人上がりの偵察クラスがすれば良いのよ」


 そうだ。僕は人を倒すために幻獣になったんじゃない。


 人を助けるために力を手に入れたんだ!


 ポルムやドミーを倒して世界を元に戻すために僕たちは存在している。


 それに僕は戦うのが未だに怖い。

 きっとここにいるジズクラスの中で怖がっているのは僕だけだ。


 (ツバキ)を握るのが怖い。

 ツバキでアースを発動したら僕はまた、繰り返してしまいそうだから。


 このまま何も起きないで今日が終わって、みんなが無事で帰ってきてそしてまた、訓練をしたい。


 「ようニアース班」


 「ドーサじゃんか! よろしくな!」


 「ま、この様子じゃ何もなさそうだけどな」


 この時は誰もが彼ら同様「何も起きない」と思っていた。


 しかし実際の戦闘地ではそんなことは全くなかった。


 「戦い」という物がどれほどの犠牲を生むのか少年たちはまだ知らない。


 そして数十分後に嫌でもそれを知ることになる。



 ────ジズの洞窟前から数十キロ先



 空は晴れている。

 なのに雨に濡れたのかと思うほど、ドドが握る無線機は水滴だらけだった。


 男は先ほどから叫びまくっていた。

 男の目の前は何もない草原。


 しかし、この男と無線をしている相手は別の光景を見ていた。


 《ドド隊長!敵は普通ではありま#####》


 《飴2つでも###やめろ!やめろ#####》


 「おいお前ら!飴は最初から2つ飲んでおけ。ダメなら3つ目も飲め! とにかくそこを突破されるな!」


 《ば、化け物です!撃っても効きま###》


 《嫌だやめてくれ###死にたくな###》


 歯を食いしばり無線機を握りつぶしそうになりながらも、ドドは無線機を耳から離さなかった。


 味方の最期の声に最後まで付き合いたかったのだ。


 だが、その様子を隣にいたバモンは見るに耐えられなかった。


 「ドド! 前線にはアマウとウインを向かわせる! 偵察クラスは援護という形をとれ!」


 「いくら三幻鳥(さんげんちょう)クラスとはいえたった2人でやれるわけがないだろ! 相手は何かを使ってる!」


 「だからこちらもそれ以上の幻獣(アース)の力で迎え撃つんだ! このままでは前線の兵士達が時間稼ぎにしかならんぞ!」


 本当は彼らに頼りたかった。

 けれどそれを自分の口からドドは言えなかった。


 (分かってる。このままじゃあいつらが死ぬ。だが、だからといってあの2人に前線へ行ってくれって言うのは「代わりに死んでくれ」と言っているようなもんじゃねえか!)


 「心配なさるなよドドさん」


 「私とアベルの2人で全部倒しちゃうもんねー!」


 ドドの両肩にそれぞれ重さの違う手が乗った。


 その手の重みを確かに感じた彼は噛み締めていた口を開ける。


 息を吸い込んで、それらを一気に無線機に吐き出した。


 「全班に次ぐ! 至急撤退しろ即時撤退だ! 殿(しんがり)は三幻鳥クラス──イラ・アマウ、アベル・ウインが努める!」


 提案されてからのドドの決断は遅くなかった。


 しかし最前線の兵士たちには間に合わなかった。


 無線機は黙ったまま。

 握りしめる無線機からは1つの「了解」も聞こえてこない。


 代わりに聞こえてきたのは聞きたくもない、今にも息絶えそうな仲間の声にならない声だった。


 《#ド……さ#》


 「や、ヤーニス!? おい! どうしたヤーニス!」


 《##てくださi……akagaみが》


 「ヤーニス! ヤーニス!」


 バモンが声をかけるまでドドは無線機に向かってその名前を叫び続けていた。


 「・・・ドド」


 「偵察クラスは……全滅だ」

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