30話 開戦前①
30話 開戦前①
────領土外
「ドドさん! 前方に武装集団です。ライコスと思われます!」
「ヤーニス。残ってる班と共にこの場に待機だ」
2人がいる車内からはゆっくりとこちらに近づいてくる男たちが見えた。
その男たちは腕や胸のあたりから血を垂らしている。
しかし彼らに新しい傷跡は無く、苦しんでいる様子もない。
まるで追いかけっこをして遊んでいる時のように笑っていた。
自信気に胸を張り顎は上を向いている。
その歩き方から車内の2人は男たちの血が返り血だと確信した。
だから運転席の青年はその命令を受け入れられなかった。
「このまま待機ですか!?」
「一歩も前に進むなよ。俺が殺られたら偵察クラスが全滅すると思え」
ドドはそう言うと服のほこりを払いながら車を降りた。
「……了解です」
ヤーニスが返事をした時にはもう既に、ドドは3人の男たちの前にライフル銃を持って立っていた。
「おいロン毛のおっさん。あんた偵察クラスの──」
ドドを物理的にも見下して喋っていた巨漢な男が突如、電池が切れた玩具のように止まった。
発砲音が辺りに響いた時、彼はそのまま大地に倒れた。
倒れた男の頭部からは血が流れ大地に赤い川が生まれる。
ドド以外の男はその川を見てようやく何が起きたのか理解した。
「綺麗な長髪のおじさんの名前はファイン・ドドって言うんだ。お前ら1つ聞いても良いか」
ドドは煙が出ている銃の先を男たちに向けた。その態度に男たちは逆上。
彼らは久しく忘れていた「死」という恐怖を思い出した。
「聞いてやろう!──おっさんの首を取ってその邪魔な髪を剥いでからな!」
男はドドに突っ込む。
しかしその行動は予想されていた。
銃口はすでにセットされている。
後は引き金の指に力を入れるだけ。
結局2人目の男も頭を撃たれて即死。
ドドは残った1人、3人目の男に銃を突きつけた。
「お前らの雇い主に左腕があるかないか。YesかNoで答えろ」
「待ってくれ! 俺らの雇い主はただの子供だ! 左腕だってある!」
「子供?そんな嘘はバレバレだ」
両手を挙げ、いわゆる降参をしている相手にドドは引き金を2度引いた。
ドドはその場にいた男全員を撃っても車には戻らなかった。
数百メートル先……まだ黒い点としか認識できないそれを見ていた。
「数は1、2、3。4、5、6っと」
ドドは引き金を引きながらカウントした。
その番号の順番で黒い点たちはリズム良く消えていく。
遠くで地面に倒れた彼らもまた、頭を撃ち抜かれ大地に倒れたのであろう。
こうしてドドは数分で車の助手席に戻った。
「ヤーニス。一旦帰還する。班に連絡しておけ」
「りょ・・・りょうかいです」
神業とも言えるドドの狙撃を間近で唯一見ていたヤーニスは、震えた手で車のハンドルを握った。