目覚め②
目覚め②
「ところで少年。名前は?」
「ぼくのなまえ、わからないです」
「おー! 喋れたのか! 言葉が分かって良かった良かった!」
この人は僕が言ったことは聞いていなかった。僕が喋れたことに驚いていた。そしてなぜか僕の頭を撫で始める。茶色くてレンガのような手だったけど手の平は柔らかい。どうして会ったばかりの知らない人に、手で触れることがこの人には出来るのか僕には不思議だった。
「ドドさん、その子怖がっていないですか?」
この手はドドさん。ドドって名前なのか。最初に後ろ姿を見た時は髪が肩まで伸びているし、低い声だから怖い人だと感じた。けど今は全然そんなことない。ドドさんは笑顔がすてきな人だ。
「見てみろヤーニス。安心しているこの子の顔を……って、少年! お前どうして泣いてるんだ!」
「やっぱりドドさんのことがこわく──」
「ち、ちがいます!」
反射的に大声で否定していた。その勢いのまま言葉が続く。
「よくわからないんです涙が急に出てしまって」
さっきはなまえが分からなくて涙が出そうになった。けれど、ドドさんがそれを悲しい以外の涙に変えてくれた。そしたら堪える必要はないと思った。
「あっ、起きてる! カインも早く起きなさいよ!」
「たく、ニアースは騒がしいな」
さっきの女の子が僕を見た。でも彼女はまたすぐに上に戻ってしまう。あの女の子はニアースさんと言うらしい。そういえばもう1人上に誰かいるみたいだけど、もしかして僕がここで寝ていたから座れなかったんじゃないだろうか。
「ドドさん。カインを起こしてきました」
それは車の外から聞こえた。今度は地上から、すぐ前からだ。車の正面にニアースさんと、あくびをしている男の子がいる。あの眠たそうにしている人がカインさんって人かな。カインさんは力が強そうだ。きっと毎日体を鍛えているんだろう。身長は隣のニアースさんより低いけど。
「起きろカイン。いつまで目こすってんだ! 挨拶しろ!」
「起きたんすか!? ここからじゃよく見えないんで降りてきてくださいよ!」
カインさんは起きたばかりのはずなのに、なんて元気な声なんだろう。僕も寝起きなんだけどな。
「少年、立てるか?」
「はい。多分立てます」
──足に力を入れた。長い間ずっと寝ていた気がするけど大丈夫、ちゃんと踏める。みんなに置いてかれないようにとすぐに車を出た。外へ出ると一瞬、視界が白くなった。
なんて強烈な光だろう。車の中へ戻りたくなるほど、暑い光。こんなところにずっとはいられない。
「こっちでーす! こっちに来てくださーい!」
さっきの大きな声が聞こえた方を見て2歩、後ろへ下がってしまった。だってあまりにも見慣れないものがそこにあったから。そこにあったのは巨大な岩の壁。いや、岩の山かもしれない。荒野の中に存在することに違和感しかない大きな、大きな、大きな岩の山。
その岩山の穴が空いている入口らしきところに、カインさんとニアースさんが立っていた。少しでも太陽の光を避けたい僕はその穴へ向かって走り出したかったが、ドドさんたちが歩いたのでそれに合わせた。
「驚いたか?あの洞窟の中には俺たちの家がある。俺たちつっても本当はもっと──」
「それを言っていいんですか!?」
「警戒しすぎだヤーニス」
ドドさんがそう言うとヤーニスさんは頭を下げて黙った。あの穴は洞窟で、それの中に家があると言う話。信じられないけど、こんな真剣に話してる。
その後も信じられない作り話のような説明をされながら、僕は洞窟の方へ進む。でも岩の山に近づくにつれて、それが真実なんだということを、この身で感じざるを得なかった。