それぞれの仕度③
それぞれの仕度③
────対ポルム組織ジズ 訓練室
「エイドくん。君にはなぜ、刀が2本もあると思う?」
「えっと、1本の刀だと重すぎて振れないから。2つに分けて軽くしたんだと思います」
「・・・質問を変えよう。なぜ君の2本の刀にはどちらにも、アースの石が付いているんだと思う?」
少年は刀を2本ともベルトから抜き、柄の部分を交互に確認した。
「な、何か意味があるんですか?」
「君のアースの石は半分に切られている。わざわざ2つに分けてあるんだ。なぜならどちらかは、飲むための物だからだ」
「のむため……アースを飲むんですか?」
この人は何を言っているんだ。
でもまた冗談じゃない顔をしてる。
冗談であって欲しい事ばかり冗談にならない。
これを飲むなんて信じられない。
まずこれは食べ物じゃない!
「俺も含めてみんな飲んだんだ。飲むことでアースを自分の血液にする。そうすれば君は幻獣と1つになって望み通り、自由に火を操れる」
「の、飲むとどうしてそうなるんですか?」
「自分と一体化した幻獣が体に教えてくれるんだよ。どうやって力を使えば良いかをね」
冗談じゃないのは分かっていた。
聞きながら作り話であって欲しいと思った。
でもウインさんが言ってることも、言ってる顔も嘘だとは思えない。
本当にこれを飲まなきゃいけないのかな。
でも飲まないと僕は力を全て操れない。
みんなと比べて弱いまま。
それで迷惑をかけるのは嫌だ。
「飲むのは苦しいですか?」
「もしかして飲む気満々?」
青年は少年の意外な質問に苦笑いした。
「い、痛くないのなら飲みます」
「痛いか痛くないかで言ったら、溶かして液体にして飲むから痛くはない。でも体には何かの変化があるかもしれない」
「痛くないなら平気です。飲みます」
「……分かってないなエイドくん」
青年は呆れてため息をした。
少年にはそのため息の意味が分からない。
「それを飲んだら君の体の半分は幻獣になるんだよ? それでも良いのかい?」
「でもみなさんは既にそうなんですよね?」
「みんながやっているからって君もやるのか? どうしてカインくんやニアースちゃんたちが君に教えなかったのか! 考えてみてよ!」
「そういう特別扱いは嫌なんです。僕はもう、引き返せないところまで来たんです」
そうだ。元には戻れない。
人を殺した時点で僕はもう、人間じゃない。
だったら幻獣になってやる。
(……エイド・レリフ。なんてしっかりとした目なんだろう。俺が君と同じくらいの時にはこんなにしっかりしていなかったと思うよ。もう、何を言っても君は止まらないんだろう?)
「分かった。じゃあレンさんのところに行こう」
青年は少年に背を向けた。
その背中と少し距離を空けて少年は青年を追いかける。