それぞれの仕度②
それぞれの仕度②
「戦い方を教えてください!」
少年にそう言われると青年の顔つきが変わった。
「……寝たら平気になった?」
「怖いくらい何ともないです。でも、忘れることはないと思います」
この数日間、僕は何も考えないようにしていた。
そうしていても色々なことが映像となって自動的に再生された。
なのに寝て起きたら僕の心は何ともなかったように元通りになっていた。
普通というか心が空っぽになったような、そんな感じ。
「うん。そのくらいが丁度いいよ。けど戦い方って言われても俺は剣の使い方なんて知らないよ?」
「刀じゃなくて、アースの方です。ウインさんはアースの力で敵を殺さずに倒せますよね」
少年は腰の刀をベルトから外すと刀の柄を青年に向けた。
向けたところには紅い石がはめられている。
「最後には殺すけどね」
「僕に教えてくれませんか?アースの使い方を。お願いします」
「良いけどまず、君のアースオブジズは火の属性。そして俺のアースオブケツアルは風属性」
「違うと教えるのが難しいですか?」
「そういうわけじゃなくて問題なのは君の理想とする、敵を無力化するっていうのが火だと難しいってこと」
「そうなんですか?」
「だって風は当たっても死ぬような怪我はしないだろう?」
確かにそうだ。強風で動けなくなることはあるけど、命に関わるような怪我はしない。だけど僕の火だと……。
「火だと相手に触れた時点でダメでしたね」
「そう。でも火にわざわざ触れる奴らはいない。だから火で相手を囲えば無力化はできると思うよ」
「でも火を操ることできないです。ニアースさんやカインさんは水や岩を操ってるんですけど、あれはどうやれば良いんですか?」
一番教えてもらいたいのはこれだった。
刀を使わないで相手を倒す。
相手を殺さないで倒す戦い方がしたい。
それはきっと火を操れれば出来ると思う。
でも僕にはみんなが当然のようにやっていることが出来ない。
ニアースさんは水で銃弾を飛ばせる。
カインさんは岩で部屋を作って守ってくれた。
アベルさんは風で相手の動きを止められる。
僕も何かしたい。
青年は少年のその質問に違和感を感じた。
「もしかして」と思い彼が手に持っていない刀。
腰についているもう1つの刀を確認した。
そこには彼が手に持っている刀同様、柄の部分に紅い石がはめられていた。
青年の「もしかして」は「もしかして」と思った通りだった。
「──そうか、君はまだ……。まったく、誰も教えないなんてズルいよね」
「えっと、教わるものだったんですか?」
「アースを発動するのには生贄がいる。だから体を捧げるって意味で手とか足を傷つける。っていうのは知ってるよね」
「はい。教わりました」
「じゃあアースの属性。君の火や俺の風のようにそれぞれの幻獣が持つ力の全てを操るには、何をするか知っている?」
幻獣が持つ全ての力?
今でさえ空を飛んだり、速く走れる。
でもそれが力の全てじゃないのなら、僕はこれ以上強くなれるのかもしれない。
だけど、だったらなんで誰も教えてくれなかったんだろう。
強くなるのは良いことなのに。
「し、知らないです。というより、初めて聞いたと思います」
「そうだろうね。だって君にこれを教えたら君はもっと、このジズという組織を嫌いになってしまう気がする」
「ど、どういうことですか!?」
「エイド・レリフくん君は、人を辞めることが出来るか?」
何の冗談を言っているのかと思った。
けれどそう言ってきた顔を見てそれが本気だと分かった。
今までも話の続きを聞く覚悟を要求されたことはあった。
だからもう、大丈夫だ。
人を辞める覚悟はないけど話を聞くことなら出来る。
「詳しく教えてください」