27話 それぞれの仕度①
27話 それぞれの仕度①
────対ポルム組織ジズ ヘパスト・レンの工房
「そういやさっきクラス長は何とかって放送かかってたけど、レンさん行かなくて良かったの?」
「あぁ?あんなもん俺1人くらい行かなくても行っても変わらねえよ」
同じくらいの身長の2人が1つの斧を囲んでいる。
その斧は斧とは呼べないくらい曲がり、凹み、ボロボロで「鍋」や「まな板」と呼んだ方が適当かもしれない。
「俺もアースを直して欲しいから別に良いけどさ」
「地上はどうだった?」
そう聞かれただけでもともと楽観的な少年の顔が悲観的なものへ変わる。
少年は下唇を噛み少しの間頭の中に記憶を浮かべた。
「・・・思っていたよりはマシだったかな」
「そうかー」
聞く気のなかった返事をした顔は下を向いていた。
ゴーグルをかけている男は、斧を手に取りそれの傷跡を見ている。
「そのことでなんだけどさ……」
「なんだよ」
「俺、斧やめようと思うんだ」
少年は笑った。
冗談を言ったわけでも、笑って何かを誤魔化そうとしたわけでもない。
何で笑ったのか自分自身でも分かっていなかった。
もしかしたらそれは夢を人に打ち明けた感覚に近いのかもしれない。
自分の中では完成している考えを外の人間に見せた時に、どう思われるのか、どう見られるのかを少年は心配した。
「じゃあ何にするんだ」
「はっきりとは分かんないんだけど、守れる武器」
「それはきっと、地味だぞ?」
男は長年の経験からその曖昧な提案にハッキリと言った。
「良いんだ。前まではかっこよさとか派手さを求めてた。でさ、俺無理して自分には合わない武器を選んだ。けど訓練をやってるうちに使いこなせると思った。でも今回ので分かった。そんなんじゃ大事な時に大事な仲間を守れないって」
レンは意地悪そうにニヤついた顔でカインを見上げた。
「ようやく分かったか」
「おせえかな」
少年は頭をかきながら、また笑ってそう言った。
けれど今回のはただの照れ隠し。
そんな少年の肩に職人の手が乗っかる。
「誰かが死んでいないのにそれに気がつけたなら、くっそ速えよ」
「へへっ。なんか今日のレンさん優しいな」
「あぁ!? とっとと出てけ! 作業の邪魔だ!」
「なっ! なんなんだよ!」
ゴーグルをかけたままの男は少年を部屋のドアの方へ突き放す。
理不尽な対応をされた少年は不満な顔をして部屋を出てドアを閉めようとした。
その時「おいカイン!」と叱る声がドアの隙間から出てきた。
少年はなんだよ!と言ってやろうと決めてドアを開けた。
しかし先に口を開いたのはゴーグルをしたままの男の方。
「道具なら何でも何度でも!直してやる。だからお前もみんなも!怪我するんじゃねえぞ」
「……当たり前じゃんかよ!」
カインは言葉の勢いと同じくらいの早さでドアを閉めて、走り出した。
時々目元をこすりながら特に行き先も決めないまま走った。
────対ポルム組織ジズ 訓練室
早朝、多くの者が寝ているか、朝ご飯を食べている時。
そんな時をわざわざ狙ってこの部屋に来る青年がいる。
それは彼の性格のせいなのかもしれない。今日も彼はやって来た。
しかし彼と同様もう1人、わざわざこの時間帯を狙ってやって来た少年がいた。
「うわっ! 驚かさないでくれよ~」
「ウインさん。おはようございます」
青年は驚きのあまり女性のように高い声を発した。
息を吐いて胸をさする青年に驚かした本人は丁寧にお辞儀をした。
「エイド君。な~んで朝からこんなとこにいんのさ。それも部屋の入り口に」
「ウインさんを待ってました」
ほぼ毎朝、誰よりも早く訓練場に入っている。
って、ニアースさんに教えてもらった通りだ。
「俺を待ってた?参ったな~。もしかして告白?悪いけど俺、男とは付き合え──」
「戦い方を教えてください!」
少年にそう言われると青年の顔つきが変わった。