鳥と狼②
鳥と狼②
───同時刻 クリシュテ洞窟内
「ふあ~」とあくびをしながらジシスが洞窟の奥へやってきた。
そこでは黒い羽を腕に生やしたコペルトがステーキを焼いている。
「なんでこんな朝早くに集合しなきゃいけなかったんですか?」
「奴らには伝えたか?」
青年は鉄板の上の分厚く切られた3枚の肉に集中している。
「伝えましたよ。1ヶ月以内にジズに総攻撃を仕掛けるって。凄い驚いていましたよ」
「それで奴らはなんて?」
「色々言ってはいましたけど最終的にはみんな納得してくれました」
青年はそれを聞いてため息を吐いた。
すると一瞬だけ鉄板の下の火が弱まった。
その火はなんと青年の黒い足から発せられているものだった。
「・・・賢明な奴はいなかったか」
「けんめい? どういうことですか?」
青年は肉を触っていたトングを子供に渡し、近くにあった木の椅子に座った。
椅子の足の長さがバラバラなため、石や地面を掘ったりして長さを均等にしてある。
地面に座った方が座り心地が良いと見える。
「早朝と予想外。この2つを合わせれば大抵の奴らはこちらの言うことを聞く」
「何でですか?」
「集まってるやつの誰もが想定しないことを、想定していないタイミングで提案する。すると脳がスタートしていない奴らは、それが無謀なことでもテキトーな理由で納得してしまう」
「ならあいつらに死んでみてってお願いすれば良かったな~。そうすれば面白いのが見えたかも」
子供はよだれを垂らして後悔し、青年は「ふっ」と鼻で笑った。
「どうせ死ぬのと同じようなものだ。強化薬と称して飲んでいるのが化け物になる薬。それに幻獣がいるジズに突っ込ませるんだからな」
青年はポケットから黒い丸薬を取り出し手の平で転がした。
「そういえばジズで最強の人間って誰ですか? 僕そいつと戦いたいです!」
子供は肉を見ていた時よりも目を輝かして青年の方を向いた。
「ファイン・ドド。生身の人間の中ならそいつが一番強いはずだ。でも忘れるなジシス、向こうには人間以上の存在──」
「分かっていますよ。その幻獣を倒すのが僕の仕事です」
「爪はしっかり磨いておけよ」
子供は「はいっ!」っと子供特有の明るい声で返事をし、握っていたトングを挙げた。
その挙げた手が握っていたトングは、肉が焼かれている鉄板の上に落下した。
石に支えられていた鉄板はひっくり返ってしまった。
乗っていた3枚の肉は全て土の上に落ちた。
両者の口から「あっ」が声に出た後、子供の方はすぐにその場から走って洞窟の出口へと逃げる。
しかし無言で迫り来る黒い炎に洞窟の出口が見えるところで捕まった。
「誰か助けてー! 殺されるー! 殺され──」
「本当に殺してやっても良いんだぞ?」
青年は子供の頬を右手で挟み力を加えた。
口が開けなくなった子供は黙るしかない。
2人はそのまま洞窟に戻った。
だがジシスはコペルトの前で地べたに正座をさせられる。
「お前はなんでトングを離したんだ? 普通離さないだろ? アホなのか?そもそもどうするんだこれ。土もついて食えたものじゃない。これは今日の朝と昼を兼ねてるんだぞ? お前は豆と芋で今日を過ごす気か?そういえばこの前もスープが入った鍋をひっくり返したよな? あの時から何も学習していない! お前は猿以下なのか?いつも言っているだろ。お前はもっと想像力を──」
マシンガンのように止まらず怒鳴る青年の声だけが洞窟の中から聞こえてきた。