26話 鳥と狼①
26話 鳥と狼①
────対ポルム組織ジズ ホールS 会議場
「皆さん──いえ、ヘパスト・レン以外の皆さんに集まってもらったのは他でもなく、ライコスについてです」
円になるように並んでいる椅子と机は、即席で出来た会議の場。
1つ空席があるが髭を生やした男、白衣を着た女、メモ帳とペンを持った少年など様々な人が座っている。
しかしその場に友好的な雰囲気はなく、全員がまるでお互いを敵同士だと思っているような顔つきでモヤモヤとした重い空気に包まれている。
好奇心旺盛な赤ん坊でもここには近づかないだろう。
「クラス長の皆さんならライコスの存在はご存知かと思います」
「マダー・ステダリー博士。そのことだけのために我々を朝から緊急招集したのでしょうか?」
そう聞いたのは青色の制服を着たバモンだった。
男は自分が悪いことをしたのがバレて呼び出された生徒のように少し焦っていた。
「全くよ。ライコスなら情報に特に進展がないんでしょ?」
バモンを援護する形でケア・ハントも続く。
そのためバモンの焦りには誰も気がつかなかった。
「それが昨日、ドドくんからとんでもない情報が入ってきました」
脅しのようなその言い方にバモンはもちろんハントも息を止めた。
ステダリーが隣にいたドドに合図をすると、長髪をかきあげて彼は立ち上がった。
「ライコスのアジトを我々偵察クラスは特定しました。場所は村Aより北。領土外にある洞窟です」
「……そんなに詳しくか」
そう呟いたバモンの声は隣のケアにさえ聞こえていなかった。
「過去の地図から参照するにそこにはかつてクリシュテ洞窟というのがありました。なのでこの情報は正しいでしょう」
バモンは配られた資料を誰よりも真剣に見ていた。
(昨日ドドが博士に伝えたと言ったのはこのことだったのか。ということはそこにコペルトもいるのか?)
「現在ライコスは偵察クラスに被害を与え続けています。偵察クラスの活動の障害です。ジズの脅威は我々にとっての脅威。何としてもこの障害を取り除かなければなりません。そこで皆さんにはこのライコスを掃討する作戦に、承認をいただきたいと思います」
そう言われた大人たちは顔を引きつった。
まさかこの会議がそんな重要なことを決めるものになると、思っていなかったからである。
その中でも柔軟に対応出来たのは意外にも子供のダク・ターリンだった。
「たたた、確かにライコスは僕たちに被害を出してます。でもジズはポルムやドミーを倒すのが優先ではないでしょうか?」
「私もそう思うわ。その・・・ライコス?ってのは優先度が低いわよ」
「では偵察クラスを見殺しにすると?」
ステダリーは即座にそう返したが、ハントも口には自信があった。
「偵察クラスが殺られた場所は一応、領土内。油断していたんじゃないの?彼らは精鋭なんだからこれからは大丈夫でしょ」
男が言ったこと、女が言ったことはどちらも正しいと周りの者たちは思った。
正面で対面しているステダリーとケア・ハントはそう言い終わった後も、お互いの顔を見続けていた。
一歩も引かぬ両者を見てバモンが立ち上がる。
「もしライコスが脅威というのなら、これからの偵察クラスの作戦にジズクラスも参加するというのはどうだ?」
「教え子を大事にする君から出る言葉とは思えませんねぇ。何かあったのですかバモンくん?」
ステダリーがそう言った通り、これはバモンにとって自分らしい発言ではなかった。
だから何か裏があると考えられてしまう。
言った本人はそれを心配していた。
実際のところバモンのその発言には裏があった。
けれど、リスクを負ってまで彼がそう言ったのはもし疑わられても、その疑いを払拭する言葉を用意していたからである。
「ジズの脅威は我々にとっての脅威。その障害を除くことを望むのは博士、あなたが先ほど言った通りですよ」
「・・・本人がそう言うなら良いんじゃないの?」
「では派遣する兵士を増やすということで皆さん、良いですか?」
男がそう全体に尋ねると──ファイン・ドド。ダク・ターリン。ケア・ハント。ワイアット・バモンの4人の拍手が返ってきた。