2話 目覚め①
2話 目覚め①
まず、目に入ったのは灰色の天井。どうやら僕の体は仰向けらしい。
──僕は寝ていた?
背中に伝わる不快な振動。背中が痛い。窓からは空が見える。空は青い。
──ここは、車の中?
周りを見ようと起き上がろうとした時、体に違和感。なぜか窮屈。どうして僕は小さな服を着ているんだろう。これはいつの服? 子供の時の服? だけど見覚えのない赤い服。胸のところに鳥の羽のようなエンブレムがある地味な服。
僕が着ているということは、自分で選んだ服のはず。なのに、この赤色の服は僕の体にサイズが合っていない。背中を伸ばすとおへそが出てしまう。
──どうして小さい服を僕は着ているんだろう?
気になることはいくつもあった。けれど一番気になるのは、今僕がいるこの場所がどこなのかということ。なんで僕は車の中にいるんだろう。考えても分からない。
前の席には2人が座っている。1人は髪の毛が長くて茶色のコートを着ていて、隣にいる人は短髪で若そうな人。多分どちらも男性。そんなことが分かっても仕方がないな。むしろ余計に気になることが増えた。
どうして僕はここで寝ていて、どうして知らない人が運転している車にいるんだろう。もしかして誘拐された?可能性としてはあり得る。でも、そんな記憶はない。だけど話しかけるのは危険かもしれない。助手席の人は悪い人には見えないけど、運転している人はなんとなく危なそうな気がする。
「ここからは歩いて行く。ヤーニスは見回りを続けてくれ」
車が急に止まった。僕が警戒していたその男の人は助手席の人に命令している。声を聞くとますます危ない気がしてきた。
「了解です。しかし、あの少年はどうやって運ぶんですか?」
「おんぶだな、おんぶ」
「おんぶですか。腰、気をつけください」
「バカやろう。そんなジジイじゃねえよ」
あの少年ってきっと僕のことだよね。ここからは歩いていく? おんぶで運ぶ?
一体どこへ連れて行かれるんだろう。周りには砂しかない。まさかこのまま埋めれらるとか!? どんどん悪いイメージばかりが膨らんで──
「さて、調子はどうだ赤髪の少年」
長髪の人がこちらを向いていた。ちょうど目が合ってしまった。呼吸を止められたように声が出ない。「あ」とか「え」とかしか出ない。
「ドドさーん! 進まないんですか?」
今度は真上から女の子が降りてきた! ど、どうして上から? もしかして屋根の上に人がいる!?
「おー!ニアース生きてたか。悪りいけどカインを起こして降りてきてくれ」
「いいですけど降りてきたらもう一発殴るので、覚悟しておいてくださいね」
「おいおい。そんな暴力的だとせっかくの可愛い顔が──」
そういえば長髪の男の人の頬をよく見ると、手の平サイズの赤い丸がある。どうしてか分からないけど、あの女の子の声は不機嫌そうだった。だけど、ショートーヘアーがあの子の丸くて小さな顔と合っていて可愛かった。目も黒くてパッチリだし。
そんな彼女を見てからは僕の頭の中のマイナスなイメージは小さくなった。単純に歳の近そうな人がいて安心したんだ。それにあの長髪の男の人と仲が良さそうだったから、この人たちは僕がイメージしていたような悪い人じゃないと思う。
「ところで少年。名前は?」
──なまえ。僕のなまえ。なまえ。なまえが分からない。僕は誰だ?
急に、涙が出そうになった。どうして泣きたくなるのかも分からない。何か言わないと涙が目から落ちてしまう。僕は堪えながら口を開いた。
「ぼくのなまえ──わからないです」