得たもの③
得たもの③
「カインくん斧は見つかった?」
「ボロッボロッすけどね」
「帰ったらすぐにレンさんのところに行かないといけないね~。かわいそうに」
「そ、そうっすね」
(はぁ。こんな時に限ってほんと、この子達を笑わせられることを言えないや……)
4人は村Aを後にした。
行きよりも人が1人増えたその帰り道は、静かで誰も上を向いてはいなかった。
────その日の夜 とある場所の洞窟
「ただいまー」
明かりのない洞窟に幼い声が1人分響く。
「ただいま~」
遠くに投げるように同じ幼い声がまた響く。
「……ただいまー!」
両手に力を溜めた後、2回分の「ただいま」を超える甲高い声が洞窟を包んだ。
すると奥の方からオレンジ色の明かりがゆっくりとやってきて、叫んだ子供の顔を徐々に照らしていく。
声の主はまだ10歳くらいの金髪の子供であった。
声の高さでは分からなかったが髪の長さから男の子だと分かる。
子供の白い肌がオレンジ色に染まる頃、松明を持った青年がその子供の前に立った。
そして「お帰り」ではなく「同じ言葉3回目」と言って男の子を迎えた。
「僕が帰ったのになんで『おかえり~』って言ってくれないんですか?」
苛立っていた男の子は握りしめてさらに小さくなった手で青年の腹を殴った。
青年はその可愛いパンチに対しては何も言わず見下ろす。
「それって、必要か?」
「子供が外から帰ったら親は普通そう言うんですよ!!」
反抗手段が無くなった子供は耳を塞ぎたくなる高い声で言った。
その声に嫌な顔をしたにも関わらず青年は耳をふさがなかった。
「俺はお前の親じゃない」
「……そんなの分かってますよ」
「ところで今日のサンプルはどうだった?」
青年は男の子の後ろにある塊を照らした。
暗闇から現れたのは顔の潰れた男の死体。
おそらくそれを持ってきたであろう男の子は、犬のように褒美を待っている。
「聞いて驚かないでくださいね?」
「良いから早く言え」
男の子は「っち!」と、練習が必要な舌打ちを披露した。
「実験は成功! ほら、ポルムアイ出てる!」
無邪気な子供は顔が潰れた男の頭だけを持ち上げて青年に差し出した。
青年は少し躊躇してそれを受け取る。
(こんな子供が、死んだ人の首を切って頭だけを持ち上げる……異常な世界だな。いや、何も言わない俺も同じか)
青年はその頭よりも笑顔でこちらを向いている男の子を見ていた。
「お前、なんでサンプルを殺したんだ?顔も潰れてよく分からない」
(こいつまた面白半分に殺しやがったな)
「違いますよ! 僕が回収しに行った時には死んでいたんです!」
男の子は持ち上げた頭のへこんだ頬を指でつつきながら答えた。
「……死んでいた?」
「はい。仲間にしてやった盗賊たちも全員その場にいませんでした」
青年は死体の胴体に近づくとしゃがみこんだ。
そして灯りで首から照らしていったが、死体が握りしめていた拳を見て灯りを止めた。
「……外は風が強かったか?」
「風ですか?いつもと変わらないと思いますけど、何か関係があるんですか?」
「今回の実験の成果は大きい。ということだ」
青年はたいまつを男の子に黙って渡すと、死体の拳を開いて翠色の羽を手に取った。
臙脂色の髪をした青年はそれを指でつまむと鼻で笑った。
「どういうことか分かんないけど、コペルトのそんな嬉しそうな顔初めて見たよ!」
「あぁ。今はいい気分だ」
青年は立ち上がるとその羽を自分の目線より上に投げた。
ひらひらと落ちていくそれを握りしめて潰した。
男の死体を残して何も言わず洞窟の奥へと戻っていく青年と子供。
背後から灯りで照らされるその青年の体には、左腕がなかった。
イーサン・コペルト:片腕の赤髪の青年。バモンやウインたちと知り合いらしい。