23話 得たもの①
23話 得たもの①
────村A アーモンド型の岩の中
「やっエイドくん! 気分はどう?」
「あ、えっと──」
「俺はアベル・ウイン。好きに呼んで良いよ」
エイドとは正反対に明るく笑った青年は岩の中に入ると彼の隣に躊躇なく座った。
岩の中には体育座りをしていたエイドが1人だけで、ニアースとカインは外に出ていた。
2人がいなかったのは村の調査的な意味もある。
しかし正直なところは2人とも、今のエイドとは顔を合わせたくなかった。
「ウインさん。あの大きな男はどうして生きていたんですか?僕はちゃんと殺したはずです」
エイドは顔を伸ばしてウインに近づいた。
自分の中だけの正解を相手にも求めてるような少年の尋ね方に、青年はその場から一歩も動けない。
「──君は殺していないんだよ」
それは少年が求めていたものではなかった。
(違うんだ。僕は殺したんだ。
あの時確かに刺したんだ。
だから、だから僕は悪い人間なんだ。
なのに誰も……誰もそれを「良い」としか言わない。
怖いんだ。自分の中でこれが良いことになってしまうのが)
「ニアースさんもカインさんもそう言うんです。僕を庇って」
「だけど君も見ただろ?あの男が確かに立ち上がって、俺に暴力を振るっていたのをさ」
青年は立ち上がって大げさに両手を広げて少年に訴えた。
けれど彼の心はビクともしない。
「見ました。けど」
青年はこの「けど」に悪い予感を感じた。
「あれは本当に生きていたんですか?」
エイドはまるで刃先を向けて脅すように言い放った。
青年は唾を飲んでから「と、言うと?」と聞き返したがエイドは即答した。
「生きている人間だったんですか?」
青年の悪い予感は的中した。
「……あーもう。やめたやめた! 2人とも帰ってきて!」
────対ポルム組織ジズ マダーステダリーの部屋
「イラ・アマウくん。今回の討伐任務の報告をお願い出来ますか?」
髭を生やした男が特に気にせず言ったその言葉。
それが彼女の怒りに触れた。
「まだ……討伐なんて言い方!」
「よせイラ・アマウ」
部屋に入ってきた時の子供のような声よりも、成長した女の声。
彼女は怒鳴りながら立ち上がる。
しかしすかさず隣にいたバモンが声と腕で警告に入った。まるで彼女を守るように。
「すまないね。でもあの男はもう、我々対ポルム組織ジズの討伐対象なんだ」
悪いことを悪いことだと、知らない子供にそれが悪いことなんだと教えるように、ステダリーは冷静にそう言った。
しかし彼女はそう言われても机を叩いて男に反抗し続ける。
「コペルトはもうこの世にいませんよ! 死んでいますよ!こんな世界で片腕を無くして生きていけるわけ──」
「アマウ──よせと、言ったはずだ」
バモンは彼女の肩に重い手を優しく置いた。
すると止まることなく言葉を吐き出していた彼女の口が一瞬で閉じた。
「すいませんでしたステダリー博士」
青年は止まった彼女の背中を押して一緒に頭を下げた。
「気にしていないよ。頭を上げてくれ」
そうは言ったが男はその2人を快く見ていなかった。
「ワイアット・バモン三幻鳥クラス長。彼女から報告を聞いたら後で私に教えておくれ」
彼はそう言ってから「もう出ていいよ」という風に、手でゴミを払う仕草をした。
それを見た2人は何も言わないで立ち上がり、入ってきたドアの方へ早歩きで向かう。
「失礼しました」
そう言ったのはバモンだけ。
部屋から出て廊下を数歩進んだところで彼女は立ち止まり「すいませんでした」と先を行く青年に頭を下げた。
「報告は適当に俺からしておく。お前は部屋に戻っていろ」
「はい。すいませんでした」
彼女は頭を下げたまま、1人で暫く廊下に残っていた。