三幻鳥アベル・ウイン③
三幻鳥アベル・ウイン③
(きっとこいつはまだ未完成のドミーだった。
ポルムアイが3つになって完成したドミーだったら本当、遊ぶ暇なかった。
・・・痛っ!
アースを解いたらさっきの蹴りが効いてくるわ~)
翠の羽が消え、上下緑色の制服姿の青年の元へ背後から少女が1人でやって来た。
「アベルさん! 大丈夫ですか?」
青年は腰に鉄球を装着し、髪を整えてから振り返る。
「かわいい女の子1人でこんなところ来ちゃダメだよ。男子2人は?」
「……岩の中にいます」
「さっきの赤髪の少年は平気? 狂ってない?」
「なんとか落ち着きました」
「彼は初めて見る顔だけど、新入り?」
「はい。3ヶ月くらい前に来ました」
「それだけの期間でジズクラス。そしてアースを使いこなしている……天才だね」
「アースを使いこなせているのが分かるんですか?」
ウインはニアースが自分のことを見ている隙に、顔が潰れた化け物の足を自分で引っ張って、彼女から遠ざけた。
とにかくそれを誰にも見せたくなかったのだろう。
少女が彼の元へ来た時には化け物の死体に興味を持っていた。
しかし今のニアースは大男の死体よりもエイドの話に夢中になっている。
それはアベル・ウインの狙い通り。
彼は出来るだけあのドミーの話をしたくなかった。
「あの翼だよ。俺も鳥型の幻獣だけど背中から翼は生やせない」
「アベルさんは本気を出していないんじゃないですか?」
「あ~! 分かる?」
「……なんとなくです」
青年は嬉しそうにそう聞いてきた。
その反応を見て彼女は二度とそう聞かないことを決心した。
「ニアース・レミだっけ?」
「はい」
「確か筆記が優秀で頭が良いんだよね?後、射撃の成績もトップらしいじゃん」
「周りよりはですけどね」
冗談でもなく、慢心でもなく「これは美味しい」「これは不味い」と言うのと同じような感覚で彼女はそう言った。
(うわ~。凄い子だな~。誰かさんと同じで同年代に嫌われちゃうタイプだ)
「帰る前に少し話しておきたいことがあるからさ、帰還が遅れた言い訳を考えてくれない?」
少女は色々考えた。
その時に本来自分が聞こうと思っていたことも思い出した。
「その、話しておきたいことに意味があるなら良いですよ?」
「あるよ! 意味しかないよ!」
青年は子供が駄々をこねるように言った。
彼にふざけているつもりはなかったが、彼女にはそれがふざけているように見えた。
「アベルさんって何歳なんですか?」
「俺?俺は多分14ちゃい。何? もしかして付き合いたい?」
「帰還が遅れた言い訳を考えるので、少し黙ってもらっても良いですか?」
「君、怖いね。可愛いのにもったいないよ。あれだね、喋らなければ可愛いってやつだ☆」
青年は少女に笑顔で指をさしたが、無言の少女に銃を突きつけられてしまった。
それはあってはならない行為である。
しかし双方が「こうなるのも仕方がない」と思っていたため青年は「あはは」と受け入れた。
ウインはニアースに銃を突きつけられながら少年2人が待つ岩へと歩く。
その間この場所は、風の音さえも消えてしまった。
(ウインさん。黙っていればかっこいいですよ……)