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幻獣チルドレン  作者: 葵尉
第2章 VSライコス編
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三幻鳥アベル・ウイン②

三幻鳥アベル・ウイン②


 

 「決まったよおじさん。やっぱりあんたは殺さなきゃいけねえ」


 青年は頬の羽を撫でて整えた。

 しかしそんな時間もドミーは待ってはくれない。


 ドミーがやることはただ1つ。

 目の前の敵に拳を振り上げるのみ。


 「ウゴォー!」


 (速い! でもさっきと一緒。テクニックがなくて良かった。もしこれで知能まであったら──)


 「くはっ!」


 拳を避け続けていた青年の体が腰から空中に上がった。


 下を向く青年の口からは粘り気のある体液が吐き出される。


 「おじさん……蹴りなんていつ覚えたの?」


 ウインは空に上がったまま降りてこなかった。


 羽の生えた手で寄りかかるように何もない空気に触れている。


 (幻獣の力を借りてる体じゃなきゃ即死だった。ポルムアイの数的に完全なドミーではないはずなのに!)


 空中にいるウインに対して地上にいるドミーは手出しができなかった。


 しかしジャンプをすれば届きそうな距離である。


 だがドミーは動かない。

 相手が降りてくるその瞬間を待つことにしていたのだ。


 (こいつの脳はもう筋肉じゃなくて、ポルムという学習する生命体に乗っ取られているんだったな……)


 「ポルム、俺が楽しい遊びを教えてやるよ」


 青年は腰につけていた鉄のボールを右手に持ち、足元で待っているドミーに見せびらかした。


 「ボウリングって言うんだけど、知ってる?」


 青年は鉄球を一度、自身の腰より後ろに下げてからドミーの方に送り出した。


 見た目からしても重そうな球。

 しかしそれは真下に落ちることなく、空中を滑るようにターゲット目指して転がっていく。


 「翠鳥の声(ケツアルウインド)


 青年は空いた両手を使い風を操った。

 その風で鉄の球を動かす。


 空中を滑るその鉄球は直進しドミーの横を通り過ぎようとする。


 ドミーはそれをじっと見つめていた。


 「攻撃が外れた」とポルムはこの時そう思った。


 しかし見つめていた鉄球がいきなり自分に近づいてきたことに気がついた。


 が、その時既に顔面に重い衝撃を食らっていた。


 鉄球がスピードと進路を急に変えて男の顔面に直撃。


 先ほどまで自らが振るっていた拳ほどの速さと重さを自分の頬に食らった。


 男の歯が数本、果物の種を吐き出すように口から噴出した。


 「今のがフックボール。俺のは鋭く曲がるから気をつけてね」


 (ま、風で操ってるだけなんだけど)


 ドミーの頬に当たった後、ボールは紐で引っ張られるようにしてウインの手元に一瞬で帰る。


 「それじゃあ2投目いくよ」


 彼は先ほどと同じようにボールを空中のレーンに転がした。


 しかし今度のは先ほどよりも速いスピードで滑っていく。


 その球はまたもやターゲットから外れていた。


 けれどポルムは急に加速して曲がると察した。


 ならどうすべきかを考える。

 答えは簡単「自分に当たる前にあの鉄球を投げた本人を倒せば良い」。


 (ポルム)肉体(ドミー)に「走って跳べ」と指令を出そうとしたその時、斜め前に鉄球が接近していた。


 だからポルムはまず鉄球から離れることにした。


 鉄球5つ分くらいドミーは横に距離をとった。


 それから青年に近づこうと彼を見た時、またしても重い衝撃が同じ頬を直撃した。


 今度はもう、とび出す歯がなかった。

 

 もしも大男が人間のままだったら1発目の時点で生きてはいない。


 男の顔の右半分は左側に骨ごと寄っている。


 いや、顔を支える骨はもう残っていないのかもしれない。


  男の顔は「化け物」と呼ぶに相応しいものになった。


 「今のがバックアップボール。フックボール(さっきの球)より大きく横にいくからよろしくね」


 ポルムに寄生されドミーとなった生物は手足や胴体への攻撃には強い。


 というよりもそこなら痛みを感じない。


 なぜなら寄生している本人は脳にいるからである。


 しかし人は痛みを脳で感じる。

 ならば、「寄生されても痛みを感じるのでは?」否、ポルムは脳ではない。


 ポルムは外部から(リモコン)を使ってその(マシン)を操っている感覚なのだ。

 

 ゆえにマシンがいくら傷つこうが、リモコンが悲鳴をあげようが知ったことではない。


 だが、先ほどから連続で自身が住んでいる頭という家に衝撃を食らって、ポルムは弱っていた。

 

 ポルムは「もうあの鉄の球のことは放っておこう」と考えた。


 球よりも投げるやつを倒せばすぐに終わる。


 もしまた鉄球に当たっても怯まずに投げてくる奴を倒せば良い。


 ドミーはポルムからの命令通りに、空中にいる青年を助走をつけて捕まえようとした。


 球を投げるまでのモーションの時間は、ターゲットに近づくには十分である。


 「まあ球種は色々あるんだけど。俺はやっぱりストレートが好き」


 3投目、青年は投げ方を変えた。

 いや、球を手に持っていない。


 鉄球を手の平に浮かせ、自身に飛びかかろうとするドミーの頭めがけて鉄球を放った。


 「子供の頃の夢だったんだよね~。ボウリングの球を野球投げするの!」


 空中を滑らず落ちるように直進する球はドミーの目の前に来ている。


 しかしそれが見えていれば避けるのは出来る。


 ドミーは頭を下げてかわした。

 かわしたはずなのに何故だろう。


 ポルムの目にはまだ鉄球が映っていた。


 考えた一瞬が手遅れ。

 ドミーは鉄の塊に正面衝突。


 顔に鉄球がめり込み、頭から地面に叩きつけられた。


 「今のがフォーク。あぁ、これは野球ね」


 空中に上がることすら出来ず潰れた顔で空を見上げるドミーの元へ、空から翠の鳥が降り立った。


 「まだ3投目なんだけど、ボウリングって最低でも12回は投げないといけないんだよね~」


 あれほど倒したかった相手が今は動かなくても届きそうな距離にいる。


 けれどもう、そのマシンのリモコンは破裂していて操作することができない。


 そして家を崩壊させられたポルム自身も、息絶えようとしていた。

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