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幻獣チルドレン  作者: 葵尉
第2章 VSライコス編
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21話 翠の羽①

21話 翠の羽①

 


 「こい幻獣(エイドロン)!」


 「言われなくても!」


 「あのまま突っ込んだらエイドが危ない!」


 「そんなの分かってるわ! 龍の手(リヴァイレンジ)!」


 少女は青い鱗が輝く両手を前に突き出す。


 手の平から勢いよく青色の液体が水の柱となって噴射した。


 液体が狙ったのは降下している少年でも拳を構えている大男でもない。


 2人の間。少女は2人の衝突を避けようとした。

 

 けれど放ったのは液体。

 液体を空中で停止させクッションのように出来れば意味があるが、このままでは2人の間を突き抜けてしまう。


 そして2人は衝突するだろう。

 いや、エイドがビーナムの拳によって打ち落とされるだろう。


 (こんな水を撃っても意味がないことは分かってる。でもだからって何もしないわけにはいかないでしょ!)


 「あの少女どこを撃ってやがる」


 液体は少女が狙った通り2人の間を通過した。


 しかしそれは少女の狙い通り(理想)ではなく、やはり何の意味も無かった。


 唯一あったとすれば、少年が打ち落とされる時間を数秒だけ延ばしたことだろうか。


 (ニアースさんが外した?いや違う。きっと何かを考えて撃ったんだ。でも何のため?今の水は完全に僕の邪魔だった)


 「ニアース他に何かないのか!」


 少女の頬の鱗には涙が垂れていた。

 その目で2人の間を通り抜ける液体を見送った──はずだった。


 突如強風が吹き少女の涙が後ろに飛んでいく。

 まるで時間を巻き戻すかのように、通り抜けたはずの水が彼女の方へ戻ってくるのが見えた。


 「翠鳥の声(ケツアルウインド)


 それは翠色(みどりいろ)の羽を生やした青年が発生させた風である。


 「な! 何で水が戻ってきた!」


 「この水はさっきニアースさんが出したやつ! どうして!?」


 この場にいた全員が空中で水が逆流するというおかしな現象に釘付けになった。


 しかしすぐにそれどころではなくなる。


 再び2人の間を通った水がその場で天高く上昇し始めたのだ。


 それは水の竜巻。

 風の強さが急に増したのである。


 崩壊寸前だった建物もそれに飲み込まれる。


 その風はこの場にいる全員を巻き込んだ。


 「ニアース!」


 飛ばされそうになった少女を岩の後ろにカインがすぐに引き寄せた。


 地に足をつけていても飛ばされそうになるほどの風。


 流石のビーナムも大地にしがみついていた。


 空中にいたら手も足も出ないだろう。

 先ほどまで勢いよく降下していたエイドは水中で溺れそうな動きをしながら風に流された。


 「なんなんだよ! さっきまでなんともなかったのに!これじゃあいつを──」


 「殺さなくて良いんだよ」


 急に全身緑色の人が風に流されていた僕を抱きかかえた。


 その人はそのまま強風が吹く空中を歩く。

 翼もないのに、空を歩き続ける。

 

 腰につけている丸い大きな(ボール)

 翠色(みどりいろ)の制服。


 そして羽の生えた体。

 この見た目ですぐに分かった。

 

 この人も幻獣の力(アース)を使うんだ。

 

 だからきっとジズの人間。


 「……あなたは?」


 「俺? そんなのは後で良いよ。君はお友達のところで休んでて。俺はあいつを吹っ飛ばしてくるからさ」


 「ちょっと待ってください! 僕を投げるんですか!?」


 その男の人は僕を背負うと地面に投げようとした。


 「へーき。ちゃんとクッション付けといたから」


 「クッションって何ですかー!?」


 それに答えないで空中で僕のことを手放した。


 僕もアースを発動しているから落ちるわけじゃないけど──あれ?なんだろう。


 何かに包まれてゆっくりと降りていくこの感じ。


 これがクッション?

 そういえばもう、風は吹いてない。

 

 ゆっくりと地上に降りると2人が立っていた。


 「エイドー! 無事だったか!」


 カインさんはゆっくり降りる僕の体を受け止めてくれた。


 けれどニアースさんはこちらを見てくれさえしなかった。


 きっと僕があいつを殺せなかったから怒っているんだ。


 「ニアースさんすいません。作戦失敗しました」


 あの風がなければ僕はあいつを殺せていた。


 そしてみんなを守ることが出来た。自分が情けない。


 「良いの。失敗して良かった」

 

 ニアースさんは鼻をすすりながら背中を見せて言った。

 

 ……何が良いのか分からない。


 「エイドあいつは」


 「それがさっき現れた緑色の羽の人が吹っ飛ばしてくるって」


 そう言うと背中を見せていたニアースさんがこちらを振り返った。


 青い鱗に囲まれた目は赤かった。

 さっきの風でゴミでも入ったのかな?


 でも「大丈夫ですか?」って、心配されるのは嫌がる人だから止めておこう。


 「緑色の羽?……ならこの風はアースだわ」


 「それじゃあ俺たち以外にここにジズクラスがいるってことか?」


 「ジズクラスじゃない。緑色の羽で、風と言ったらあの人しかいない」


 「待てよニアース! 今は岩の後ろにいた方がいいだろ」


 少女は制止を振り切って岩から顔を出し風が吹いてきた方を見た。


 しかしもう風はやってこない。

 なのにビーナムはまだ風に吹き飛ばされまいと踏ん張っている。


 大男の前には細身の青年が立っていた。


 「やっぱりあの人だ──ウインさん!」


 「えっ! ウインさんがここに!?」


 「2人ともあの人のことを知っているんですか?」


 「知ってるもなにもアベル・ウインさんは──」


 「ジズで2番目に強いと言われてる人だぞ!」

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