村A戦⑤
村A戦⑤
2人が炎に見とれている時、轟音が響いた。
男が岩の中で斧を殴ったのだった。
「あいつ! 岩の果実を砕きやがった!」
「とりあえずあの岩の後ろに隠れるわよ!エイドも──」
ビーナムに見つかる前に走り出そうとしたカインとニアースは気がついたら空中に浮いていた。
炎の中から現れたエイドの背中は、彼の体より大きい翼を生やしていた。
その紅い鳥に2人は運ばれていたのだ。
彼らはあっという間に岩の背後へ回り込む。
「エイドお前、翼が……」
カインさんは僕を怖がるように指を向けていた。
「翼?ああ、これは腕ですよ。羽が生えて翼のように見え──」
「違うわエイド。あなた背中から翼が生えてる。前までは無かった翼があるの!」
「え・・・翼がですか!?」
「あなた空を飛べるの!?」
「えっ飛べっ!? 飛べるというよりも僕の場合は走って移動している感覚なので、長い時間は無理ですよ!」
「それは今までの感覚でしょ? 今あなたは確かに飛んでいたの!」
「そうだぜ! お前鳥みたいに飛んでたんだ!」
「そんな、まさか」
「良いから飛んでエイド! 私が合図をするまで降りてこないで!」
「ど、どういうことですか!?」
「カインがアースを使えない今! あいつを倒すにはこの作戦しかない!」
少女は3人に今思いついたばかりの作戦を説明した。
それは本当に今思いたいたもので、訓練でやったこともなければ、頭の中で試したこともない。
説明しても相手に伝わるか分からない。
少女ですらまだ頭の中でそれを完璧にイメージできていなかったのだ。
だがその作戦を信じてエイドは言われた通り翼で上空へ飛んだ。
(今戦えるのは私とエイドだけ。
相手はよく分からないけどただの人間ではない。
正面から向かっても勝てないことはあの肉体を見ても分かる。
だったらやれるか分からないけど、これしかない!)
「早く来なさいよエイド!」
(早く来なさいよ!って、合図があるまで待機って言ったのはニアースさんじゃないか!でもやっと、あいつの元へ行ける)
刀を握りしめて翼で空気を蹴った少年の速さは残像が見えるほど。
ターゲットまでの距離は数メートル。
今更気がついたところでもう遅い。
しかしそれはターゲットが人間の場合である。
ビーナムはズボンのポケットから飴玉のようなものを取り出し、躊躇せずに飲み込んだ。
その様子に気が付いていたのは岩の後ろ、少女の横で休んでいたカインだった。
(あれは飴か!?
でもそんなことありえるのか?
あれを持ってるのはジズの人間だけだ。
こんな盗賊が持っているわけがない。
いや、本当に飴を舐めただけかもしれない──んなわけねえだろ!
戦場で自分が危ない時にお菓子の飴を舐めるバカはいねえ!)
「気をつけろエイド! そいつは俺たちと同じ飴を舐めた!」
「何を言ってるのカイン!?」
「見たんだ! あいつが今丸いものを口に入れたのを!」
(あの男が飴を!? でもそれがなんだ!
今の僕は幻獣だぞ!
そして最強の武器──日本刀を2本持っているんだ!)
カインがそう忠告したのは大して意味がなかった。
距離的にも速度的にも、流れ星のように降下をしている少年は止まれない。
止まれたところで少年は止まらないだろう。
少年の心の中にはしっかりと「あいつは殺しても良い」という目的が掲げられている。
「あの斧の少年、よく気がついたな。だがもう遅い。さあこい! 幻獣!」
ビーナムはその場で構え自身に迫る黒い炎を待っていた。
向かい合う両者。
その光景に嫌な予感を感じたのは自分の斧を潰されたカイン──ともう1人。
近くの建物から緑色の髪の毛の青年がそれを見ていた。
「ほらね~。寄り道はしてみるもんなんだよ」
その青年の腰には自分の頭ほどあるボールがぶらさがっている。
よく見るとそれには穴が3つ空いており日光をよく反射していた。
穴に人差し指、中指、薬指の3本を入れた青年はおちゃらけた顔を真剣な顔に変えた。
「アースオブ──ケツアル!」
青年がそう言うと指を入れていた3つの穴から、天に向かって出た針が青年の指を貫通した。
彼は竜巻に包まれ、翠色の羽が体に生え始める。
風をまとった翠の鳥。
彼は鉄のボールを指先で転がして少年たちの元へ近づく。
「たくどいつもこいつも子供にさ、人殺しをさせるんじゃないよ」
後書き
ケツアル──その昔、森を守っていた緑の巨鳥。1度羽ばたくだけでどんな雲でも吹き飛ばす。伝説として存在し、伝説として滅びた幻獣。
ケツアル──その昔、森を守っていた緑の巨鳥。1度羽ばたくだけでどんな雲でも吹き飛ばす。伝説として存在し、伝説として滅びた幻獣。