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幻獣チルドレン  作者: 葵尉
第2章 VSライコス編
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村A戦④ 変化

村A戦④ 変化


 

 「捕まえたぞ、幻獣(エイドロン)!」


 低い声と供に岩を割ったビーナム。

 そのスイカほどある拳が容赦なく少年たちに迫る。


 頭のキレる少女はこの状況に思考停止していた。


 何かをしなければ自分がやられるのはわかっている。


 けれど「もう間に合わない」と、密室の中へ敵に侵入を許した彼女は確信した。


 「うおおお!」


 2人が身動きを取れずに覚悟を決めていた中、一番疲労しているカイン雄叫びを上げる。


 カインは地面に刺していた斧を抜く。

 その斧で大男の拳に当てに行った。


 しかしそれは攻撃ではなく、大斧の平らな面を当てた「守り」の一振り。


 大男の拳は斧に防がれた。

 続いてカインは斧を盾のように構えて、大男の目の前に立った。


 少年たちの体全体を守るには十分な大きさの斧だったが、それはビーナムにとっては好機。


 刃も向いてなければ、動いてもいない。

 その場で斧の平らな面を見せて止まっているだけ。


 バットでボールを打つ際、止まっているボールほど打ちやすい物はない。


 彼にとってその盾はまさにそうだった。


 「まとめて、終りだ!」


 ビーナムはその場で更に間をおいて右腕を、いや、右半身を後ろに反らしてその姿勢をキープ。


 余裕があると見た彼は力を溜め続ける。

 数分後(ターゲット)を再び見て、反っていた右半身を一瞬で戻す。


 たっぷり溜めた反動のエネルギーを斧にぶつけた。


 拳は斧の腹に直撃。

 砂が舞い、爆発音のような轟音が響く。


 斧は支えになっていた地面ごと更に深く地中へめり込んだ。


 斧にはビーナムの握り拳の後がくっきりとめり込みそこだけがくぼんでいた。


 曲がったそれは斧としての役割は果たせないだろう。


 それに比べて大男の手は赤く腫れているだけである。


 出血もしておらず骨も形を変えていない。


 むしろ彼はまだ殴り足りないのか拳を揉んでいた。


 ビーナムは砂煙が晴れるのを楽しみにしていた。


 なぜならさっきの3人の子供が斧と地面のサンドイッチになって死んでいると思っていたからである。


 しかし砂煙が晴れた後、正面から見える景色には斧しか見えなかった。大男の顔は曇った。


 自分がこの岩の中に上から入ってきた時、逃げ道となるものはその上の穴しかなく、岩の中はほぼ密室になっていた。


 なのになぜか、自分の前方には斧しか見えない。


 彼は恐怖を感じ始めた。

 焦ったのか岩の壁を殴りすぐに外へ出た。


 その時にビーナムはある匂いに気がついた。


 それは何かが焦げたような匂い。

 彼は鼻に神経を集中させた。


 目をつむり、音を無視し、鼻を使うその瞬間を待っていたのは銃を構えたニアースだった。


 少女は先ほど自分たちが入っていた岩の背後から男の背中に銃口を向け、引ける限りの引き金を引いた。


 しかしその行動は男の予想範囲内。


 「匂いの正体は貴様か!」


 ビーナムはそのまま建物の屋根に跳んで上がり全ての銃弾をかわした。

 

 先ほど感じた焦げ臭い匂い。

 それは先ほど発砲した少女の銃の匂い──ではない。


 「早く来なさいよエイド!」


 「・・・なんだあの火の球は!」


 少し前、炎に包まれた少年が燃やした砂の匂いだった。


 全身に紅い羽を生やしたエイドは空からビーナムに迫る。


 力強く握りしめている日本刀で、巨大なライフルの弾となって大男を狙う。


 あいつは、許さない! 

 僕が、僕が、僕が……殺してやる!



 ────ビーナムが岩から出る数分前



 「俺の斧を身代わりにする! 壁に穴を開けて出るぞ!」


 そう言うとビーナムの前に出たカインは斧を地面に刺し岩の壁を殴った。


 岩の鎧に包まれた少年の拳は簡単に岩に穴を開けた。


 そこから泥棒のように少年たちは外へ出た。


 「まとめて終わりだ!」


 その時すでに少年たちは斧の後ろにはおらず岩の中から脱出していた。


 ビーナムはそれに気がつかず力を溜めていたのだった。


 「ありがとうカイン」


 「……悪いニアース。俺はもうあいつと戦えない。アースも武器もねえしあるのは──」


 「ニアースさんカインさん!あそこで倒れているのって……」


 外に出たエイドは村人の死体を目にしてしまった。


 その死体は少年たちに「村を助けてほしい!」と願った男だった。


 彼らはすぐにその男の側に駆け寄った。


 「……この人、どうしてここで寝ているんですかね」


 男の肌には無数の内出血の後があった。


 腕や足は折られていた。それは見てわかる。


 その体を見ているエイドは男が寝ているわけがないのは分かっていた。


 死んでいると、分かっていた。

 だからその場に膝をついてこらえていた。


 「酷いわね」


 「なんでこの人が! どうしてですか!」


 「……さっきの筋肉バカがやったんだろ」


 カインのその言葉が聞こえた時、エイドの心の中の何かが変わった。


 エイドはゆっくりと立ち上がって2人の方を振り返る。


 「──殺します。あの男をこれで、この刀で斬ります」


 エイドから出た「殺す」という言葉に2人は息を止めた。


 息を止めたのは殺すと言う言葉が出てきた驚きでもあったが、自分たちの方を振り返った少年の顔が今まで一緒に過ごしてきて、初めて見た顔だったからだ。


 「アースオブ! ジズ!」


 少年は振り上げた刀を自分の手を切り落とす勢いで手の平に刺した。


 (やってやる。殺してやる。

 どうしてあいつはあの人を殺したんだ。

 

 あの人はただ村を守りたかっただけなのに! 


 どうして戦いに関係ない人が殺されなきゃいけないんだ! どうして!


 ......遅かったんだ。そうだ、遅かったんだ。


 僕があんな馬鹿みたいなことを言っていたからだ。


 初めから刀を抜いてアースで倒すべきだった。


 そうすれば村もあの人も救えた。

 カインさんの斧も壊れずに済んだ。


 そうだよ、人を殺すような悪い奴は殺しても良いんだ。僕は守るんだ。


 守るためにこの力を受け入れたんだ)


 少年を包む炎は今までと違った。


 「……黒い。羽は紅いのに炎が違う」


 「まるで、何かを燃やし尽くしたみたいね」


 2人が炎に見とれている時、轟音が響いた。


 ビーナムが岩の中で斧を殴った音だった。

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