村A戦③
村A戦③
「エイド……戦う覚悟はできた?」
「覚悟って言っても、そんなの無理ですよ! 僕は人間を殺すためにジズに入ったんじゃないんです!化け物を──」
〝バチン〟
青い鱗をまとった少女の平手が少年の白い頬を打つ。
ぶたれた彼は頬を両手で恐る恐る触れて彼女を見た。
「そんなことあんたに言われなくても分かってるのよ!・・・私たちだって!」
(頭の中が、景色が真っ白になった。
思ったのは1つだけ。ニアースさんの手を赤くしてしまって申し訳ないということ。それだけ)
少女は両手を握りしめ、感情が溢れぬように必死に堪えていた。
「私たちだって人を殺すために訓練してきたんじゃない! まるで自分だけが優しい心を持ってるみたいに言わないで! 私だって人を撃ちたくなんかないよ!」
少女が涙を堪えながら言ったそれはここにいる3人が全員持っている想いだった。
でも、だからこそエイドは反発した。
「──じゃあ、じゃあ何で! さっきニアースさんは急に相手を撃ったんですか!」
彼女が喋れそうにないことに気がいたカインが代わってそれに答えた。
「ニアースはさっきわざと外したんだ。だから誰もまだ、死んでない」
「……そうだったんですか」
てっきりもう何人かが死んでいるのかと思っていた。
僕は戦いが始まってから怖くて怖くて目をそらしていたから、何も分からなかった。
「でもエイド、あいつらは俺たちを殺してくる。それなのにお前は黙って殺されるのか?」
「相手が殺してくるからって、それがあの人たちを殺して良い理由になるんですか?」
「ならねえよ。どんな時でもどんな理由があろうと、人を殺して良いことにはならない。けど、自分を守る必要があるだろ?」
「守るって言ってもどう守れば良いんですか」
自分を守るには結局あの人たちを倒さなきゃいけないんだ。
それじゃあ殺すのと変わらないじゃないか。
「あいつらの武器を壊して戦えなくするんだ。そんで1発殴って気絶させる。どうだ?」
カインさんの考えは僕には無かった考えで「それが良い」って思った。
けど「ダメよ」とニアースさんはすぐにそれを否定した。
「それじゃあその場しのぎにしかならない。カイン、あんたもエイドと一緒よ」
「ニアースさんはどうしてそうやって乱暴な解決方法を選ぶんですか!」
同じように「人を殺したくない」と思っているのにどうしてこの人は僕のことを否定するんだ!
「あんたたちは自分が手を汚したくないだけでしょ? でも結局誰かが手を汚す!偵察クラスはそれをいつもやってる。私たちがやらなくても誰かが、誰かがいつかはやらなきゃいけないの。分かりなさいよ」
(僕は何も言い返せなかった。言い返せそうで、言い返せない。言葉が出てこなかった)
怒鳴った少女は誰よりも一番辛かった。
自分だって出来ればそんなことはしたくない。
それに痛いほど相手の気持ちを分かっていた。
けれどそう強く言ったのは「自分は班長としてこの2人をまとめ、全員で生きて帰らなければいけない」という責任があったからである。
「良い?全員死なないこと。そして出来る限りは敵を無力化すること。けどそのどちらも出来ない最悪な場合になったら、敵を殺しなさい」
少女は最後、うつむいてまだ考えている少年の方を向いた。
しかし自分を見返してきた少年の目から迷いは消えていた。
「ニアースさん。最後の命令以外は了解しました」
僕は死なないし、敵も殺さない。相手を無力化する。
「死なないなら、それでもいいわよ」
「ニアース……どのタイミングで行くんだ?」
そう聞いていきた顔を見て少女は彼が限界であることを察した。
「今から3つカウントするわ。カインはアースの発動を解いて飴を1つ飲んで。エイドはまず、アースを発動し──」
その時だった。少年たちがいる岩に空高く跳んだビーナムが隕石の如く、衝突した。
岩の天井は砕け、太陽の光が大男と一緒に飛び込んできた。
「捕まえたぞ! 幻獣!」
彼はその狭い岩の中で地に足をつけると、すぐに拳を振り上げた。