地上での遭遇③
地上での遭遇③
「あなた大丈夫? その腕の怪我はどうしたの?」
僕たちが走った先、そこには1人の男の人が腕から血を流して座り込んでいた。
血は止まっていたけれど、それが乾いて張り付いている右腕は目を背けたくなる。
何かと争ったようだけどこの人はどこから来たんだろう。
「羽のエンブレム……お前たちはジズか! 頼む! 村を助けてくれ!」
男は自分よりも小さい子どもに、頭を砂につけて必死に頼んだ。
「もちろんですよ!」
「村ってどこの村だ?」
「この方向に真っ直ぐ行ったところにある村Aだ!」
「村で何があったの?」
「ドミーか!?」
「人間だ! 盗賊が来たんだ! 早く村を助けてくれ!」
「盗賊!?」
人間? 盗賊?
人が人を襲っている?
僕はショックを受けた。
「ドミーに襲われた方が良かったのに」とも思ってしまった。
だってそれはつまり、これから人と戦わなければいけないってことだから。
「盗賊は何人だ?」
「盗賊は……2人いた! 武器も持ってた!」
「相手が何だろうと俺たちなら平気だぜ。ニアース、すぐに行くよな?」
カインは自信に満ちていた。
口ではそう言ったがその自信は「自分たちが強いから」ということよりも「相手が2人」という情報から来ていた危ない自信。
それに対して少女は考えていた。
班長として自分がどうすべきかを考えていた。
(この男の傷の状態は詳しく分からないけど、様子を見たところ重傷ではなさそうね)
「ニアース?」
(村Aにはあと少しで着く。ジズに一度戻ったら捕らわれている村人が手遅れになる可能性がある……も~! 無線機さえ忘れなければ応援を呼べたのに!)
「ニアースさん?」
(うるさいわね今考えてるわよ! ちょっとは自分でも考えなさいよ!)
カインさんは「助けに行こう」と言ったけれど僕は一度ジズに戻るべきだと思う。
村Aの人たちは心配だけど、この人だって怪我をしているからハントさんに診てもらった方が良い。
それに僕たちじゃなくて、戦闘に慣れている偵察クラスの人が助けに行った方が良いかもしれない!
「ニアースさん。この人の治療のためにも一度ジズに──」
「俺のことはいい! 早く村を助けてくれ!」
男はそう言いかけたエイドのズボンを引っ張った。
彼のズボンはベルトでしっかりと固定されていたが、それでも下にずれてしまった。
「おい! エイドを離せ!」
「……頼む。村を助けれてくれ」
エイドは思わず後ろに下がり、頭を下げた男を警戒した。
もちろんそうした男には悪気などない。
村を助けたいというその一心だった。
「エイド大丈夫か?」
「はい。大丈夫です」
び、ビックリした。
でもそれだけ村を助けたいっていう思いが強いんだ。
これじゃあ僕の考えを言ってもダメだ。
きっとニアースさんも、ジズと村のどっちに行くかはもう決めているだろう。
(本人がこれだけ言うなら決まりね。それに今の私にはどちらの選択肢が正解か見えているわ)
少女は男と村の方向を見つめ続けて結論を出した。
「2人とも良い? ニアース班はこれより村Aを盗賊から奪還するわ!」
「けどニアースさん、この人はどうするんですか?」
「カイン、この人を背負って行くわよ」
「了解!」
命令された少年はノリノリで「了解」を口にした。
「おいおいお前さん小さいのに平気なのか?」
「おっさんしっかり掴まっとけよ!」
少年はそう言われたがイラついていなかった。
自分をそう見ている人間に予想以上の力を見せつけられることは、カインにとって何よりも快感であった。
そのため少年は必要以上の力を出して走った。
大人を1人背負っているにも関わらず、3人の中の先頭をカインは進む。