対面②
対面②
「外は危険なので、ヤーニスさんは車内で待機をお願いします!」
「了解です。何かあったら無線で伝えます」
危険という言葉を聞いて、ヤーニスの声に運転時よりも緊張が走る。だがそんなこともお構いなしに「んじゃおっ先!」と、調子のいい声で言ったカインは、車のドアを勢いよく開けて飛び降りる。
その勢いのまま待っている男の方へ走り出した彼の手には、自分が着ている服と同じ赤い衣類。
「あっ! 待ちなさい!」
ニアースも車から飛び降りてカインを追う。まるで、幼稚園児が迎えに来てくれた親の元へ駆け寄って行くかのような光景。その園児達を見送った青年は、ここが本当に危険な場所なのかと、1人きりの静まった車内で首を傾げた。
「お待たせしましたドドさん!」
ニアースは男の前に着くなり足を揃えて一礼。先ほどまでの少女からは、想像もつかない綺麗な姿勢。隣で礼をしているカインと比べると、更にその綺麗さが見て分かる。ドドは上半身にかかった砂を両手で払いながら2人の子供を迎えた。
「お前ら意外と早かったな」
「ドドさんこれ、頼まれた服です」
少年は王様の家来のように頭を下げながら、両手で服を手渡した。
「ご苦労ご苦労・・・って、これお前の服じゃねぇか?」
男は受け取った服とカインの服を見比べた。手に持っている服も、少年が着ている服も、同じ赤いTシャツ。左胸のところに、1本の鳥の羽の印が付いている同じデザイン。服のサイズも同じだろう。
「これしか残っていなかったので・・・」
下を向いたまま、どこか申し訳なさそうなカインの声。おそらく新品の服を持ってこれなかったことを申し訳なく思ったのだろう。それを察したドドは「服があるだけでもありがてえよ。ありがとうなカイン」と、少年の肩に優しく手を置いた。
カインは口に出さなかったが、今着ているものよりも綺麗な方を手渡したことを、ドドはちゃんと気がついていたのだ。そんな2人を見ていたニアースは、ドドの上半身を見ながら不安そうに尋ねる。聞いても良いのか悩んだ末に彼女は聞くことにした。
「先ほどから気になっていたのですが、上着はどうしたんですか?」
ドドから目線を外した少女の顔は赤い。別にドドの容姿は見た人が思わず照れるようなものではない。それでも程よくこんがりと日焼けした肌に、血管が浮き出ている太い腕を兼ね備えており、大人の色気は十分であった。
さらに、目を閉じれば本人よりもかっこいい人の顔が頭に浮かぶ低い声。ニアースにとって魅力的に見えても不思議ではない。
「上着は向こうで寝てる生存者にかけてるぜ」
自分が上半身白いタンクトップ姿だと今思い出したかのようなドドは、後ろを指差す。その指の方向、ドドたちよりも数メートル後方の地面には、服に包まれた何かが横たわっている。
「あれが生存者ですか? 放置ですか!?」
カインも生存者の存在を今思い出したのか、急に大きな声を上げた。少女はその隣でまた、ため息をついて「これだからカインは」と頭をかく。
「いいカイン?ドドさんは少しでもと私たちの方に近づいて待っててくれたのよ」
「そうだぞ。俺は放置なんかしねえよ・・・あっ、そうだ!」
何かに気がついたドドは「ニアースは車の近くを見張っててくれるか?」と、彼女に指示を出した。しかしそれはまるで、彼女をその場から遠ざけたかっただけにも見える。事実、辺りに危険そうな生物は何もいない。察しの良いニアースはその命令に首をかしげながらも返事をして、車の方へと向かった。
「カインは俺と一緒に来い」
彼を手招きするとドドは車に背を向けて生存者の方へと向かう。少年はどうして自分だけと迷いながらも返事をしてドドについて行くしかない。
それを見ていたニアースは納得のいかない顔で、ドドと一緒に歩くカインへ羨望の視線を送っていた。
「なんで私が待機なのかしら。私が誰よりも優秀なのはあの人が一番わかっているはずなのに・・・」