18話 地上へ①
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18話 地上へ①
────訓練室
机と椅子。教壇と黒板がある部屋に3人の少年少女と、1人の男が向かい合って立っていた。
少年たちは上下がトマトのように赤い制服を着て、ベルトにはそれぞれ武器をつけていた。
1人の少年は自分の身長と同じくらいの長さの斧を背負っている。
頭よりも高いところにある斧の刃の部分は少年の肩幅より広い。
それを背負っているカインに「斧が歩いている」と言っても間違いにはならないであろう。
二アースの腰には2丁のハンドガン。
小さい銃だが色は2丁ともカラスのような黒色で、服の赤に負けない存在感を放っている。
エイドの腰にも2つの武器があった。
色白で紅い髪の異国の少年には似合わない武器、日本刀の脇差である。
しかしバラのように濃い赤の鞘は、明るい赤の制服といい相性であった。
髪の毛といい全身赤色の彼はまさに炎の化身。
このように3人ともいつになく重装備。
1人だけ荷物のない青色の制服のバモンは彼らの姿を見て「全員やり残したことはないか?」と決まりごとのようにあっさり言った。
「バモン教官、大げさすぎます。領土内のパトロールですよ?ちゃんと帰還してみせます」
少女にそう言われるのをバモンは分かっていた。
「しかしだ、いくら安全と言われている領土内でも、ポルムやドミーが現れないとは言い切れない。それに初めての地上作戦だ。油断するなよ」
今度は体調を確認をするように1人ひとりの顔を見ながら言った。
やり残したこと……それを残さないために僕は昨日の夜、ドドさんに聞いたんだ。
少しでも自分のことを知りたかった。
どこで生まれて、誰に育てられて、どのようにしてここに運ばれてきたのか。
それを知っていそうな、知っていて隠していそうなドドさんに僕は言った。
「教えてください」と。
────前日の夜 ジズの玄関 ホールL
座った状態で男と少年が向かい合っていた。
「まずお前が知りたがっているであろう俺がダクとエイドを助けたことが、偶然かどうかだがそれは・・・偶然だ」
それはエイドが知りたかったことであった。
しかし、それをすぐに言われると少年は思っていなかったので混乱した。
(ダクさんと僕を助けたのが同一人物なのは偶然。偶然? 偶然か。じゃあ何かの意図があったり、隠していることがないってこと?)
「本当ですか? 本当に偶然なんですか?」
『偶然』と言われたことが信じられなかった。
というよりも、求めていた結果と違っていたからしつこく尋ねてしまった。
ドドさんが何か他の目的を持って僕とダクさんを助けたのだと考えている。
それなら僕らを助けた人が同じドドさんであっても納得がいく。
けれどそれは僕の願望で、聞き返してもその結果が求めているものに変わることはなかった。
「言ったろ?お前が期待しているようなことは言えないぞって」
「そ、そうですけど」
つい、ため息を吐いてしまった。
今までため息っていうのは、カインさんを小馬鹿にする仕草だと思っていたけれど違った。
ため息は本当に自分が残念な気持ちになった時に、思わなくても自然に出てしまうものなんだ。
「落ち込むなよ。真実っていうのは思っていたほど、大したことないもんだ」
背中にドドさんの大きな手が触れた。
「もっと新しいことを知れると思っていたので残念です」
これが真実。
ドドさんは何にも隠していなかった。
普通にいい人だった。
全て解決したはずなのにまだ、心がモヤモヤする。
そしてドドさんがいい人だったのに、嬉しくない。
「俺もな、お前のことを知りてえよ」
天井の光石を見ながらそう言っていた。
その言葉は僕にとって意味がよく分からなかった。
「ドドさんが僕のことをですか?」
「おかしいか?」
「だって僕のことはドドさんとは関係ないじゃないですか」
「どっかの班長じゃないんだから、そんな冷たいこと言うなよ」
自分で言って吹いて笑っていたドドさんだったが、急に顔つきが変わった。
僕は唾を飲んでからその真剣な目を見つめた。
「な、なんですか?」
「──思い出したんだけどな、あの日、お前を見つける直前に変なことが起こった」
「変なこと……ですか?」
「今も原因不明だが急に嵐のような風が吹いて、空の太陽が山のようにデカくなったんだ」
この世界で「変なこと」と言ったら「ポルム」「ドミー」のことだと思っていた。
けれど返ってきた言葉は僕の記憶にはっきりとはないもので、イメージが出来なかった。
「すいません。ちょっとよく分からないです」
「すまんすまん。お前は地上のことは知らなかったな。簡単に言うと風とか温度がおかしくなったんだ」
「それが僕と関係あるのでしょうか」
正直、ドドさんの言っている「変なこと」を頭の中で想像できなかった。
そしてその話が「記憶」と繋がる気もしない。
「ん~。そう言われるとあれだが……天気がおかしくなった後に俺はお前を見つけたんだ」
「僕は、寝ていたんでしたっけ」
「そうだ。あんな暑いところで気持ち良く寝てたよ」
(全裸だったってのはエイドが知ったら可哀想だから、言わなくて良いか)
「寝ていたこと、全然記憶にないです」
「──エイド。お前が記憶を思い出したとして、もしその記憶が自分にとって悪いものだったらどうする?」
ドドさんは喉を整えてからそう聞いてきた。
聞いてきたその目は、僕の答えを怖がっているのか下を向いていた。
大人が子供に対してそんな様子を見せるのは珍しいと感じた。