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幻獣チルドレン  作者: 葵尉
第1章 アース編
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3VS3閉幕③

3VS3閉幕③



 ────その日の夜



 「どっか行くのかエイド? もうすぐで消灯だぞ?」


 布団に入っているカインは、赤い上着を着て部屋を出て行こうとする少年を呼び止めた。


 「はい。ちょっと行きたいところがあるんです」


 「……分かったけど、気をつけろよ」


 普段ルールを守り、自分勝手な行動はしないエイドのわがままにダメとは言いづらかったため、見送るしかなかった。


 けれど、わがままを言った少年の顔は、自分の都合しか考えていないような顔には見えなかった。


 「はい。ありがとうございます。おやすみなさい」

 

 「おやすみー」


 彼は暗くなった部屋で両手を枕にして仰向けになり天井を眺めていた。



 ────ジズ玄関の間 ホールL



 ここに来るのは何度目だろう。

 さすがにこの広さにも慣れた。


 今は暗いから広さもよく分からない。けど上を見ればその広さが分かる。


 今日も石たちが光っている。

 その光の下で天井を見上げている人が僕以外にも1人いる。


 「やっぱりここにいたんですね。ドドさん」


 「何だ、エイドか。驚かせんなよ」


 座って上を見ながら足を伸ばしているドドさんは、全然驚いていないのにそう言った。

 

 僕がここに来た時からどうせ気がついていたんだ。


 背中にゆっくりと近づいて横に座った。


 「お久しぶりです」


 「そんな気がするな」


 「いつ帰ってきたんですか?」


 「今日だよ。そんでまた明後日に出発だ」


 ドドさんは僕が顔を見て話しているのに上を向いたまま話している。


 「だから光石(コウセキ)を見に来たんですか」

 

 「エイドもだろ? もうそろそろで地上に行くんだってな」


 「ええ。それもありますが、ドドさんに会いに来ました」


 「俺に? 何のようだ?」


 初めて僕の方を見た。ここぞとばかりに尋ねた。


 「ダクさんから聞きました。ダクさんもドドさんに運ばれてここに来たって」


 「あ~。懐かしいな~」


 「偶然ですか?」


 「──何がだ?」


 僕はその返事を待っていたけど、その声と顔に恐怖を感じた。でも、話すことはやめない。


 「僕とダクさん、2人の生存者を見つけてここに運んできた人物が同じ──ということがです」


 「エイド。何が聞きたいんだ?」

 

 「これは僕の勝手な考えですがドドさん、あなたは僕に何かを隠していませんか?」


 そうだ、これは僕の勝手な考えだ。

 けどそう思ってしまったんだ。


 だからハッキリと知っておきたい。

 ドドさんが僕を助けてくれた良い人なのか、騙している悪い人なのか......。


 「お前が期待してるようなことは言えないぞ?」


 ドドさんはふっーと長い息を吐いてこちらを見た。


 僕はそれに目で訴えた。


 「とりあえず話してくれって顔だな」


 「はい。教えてください」


 「......覚悟は出来てるってか


 (勝手に成長しやがって。洞窟で話した時と別人だな。今度は俺がお前に話す覚悟を要求されちまったよ)



 ────対人戦闘訓練終了後、通信クラスにて



 「よう、ダク・ターリン」


 机の上にマイクや無線機が置いてある部屋に3人の少年たちが入ってきた。


 3人とも本や書類が置いてある部屋には似合わない見た目をしている。


 「どどど、ドーサさん!?なにしに──」


 椅子に座っていたダクが驚いて立ち上がるよりも前に、少年たちはいきなり土下座をした。

 

 「悪かった! 本当に悪かった!」


 「えっ、ドーサさん?レイユさんにロイトさんまで」


 「謝っても傷が治ったり、殴った事実が消えるわけじゃねえ。でも謝らせてくれ」


 「・・・ドーサさん」


 「お前が無理なら許さなくていい。俺たちは昔からお前に酷いことをしてきたんだ!」


 少年は自分が言ったことの図々しさを感じ、すぐに頭を床にこすりつけて発言を訂正した。


 けれど言われたダクはそんなことは気にしていなかった。


 「僕の声で──ドーサさんたちの名前を呼んでも、良いんですか?」


 むしろ自分に近づいてくれたことが嬉しかったのだ。


 予想外のその対応は頭を下げている彼らにとって、とてもありがたい物であった。


 しかしそう言われると思ってなかったので目元を腕で隠したまま起き上がる。


 「お、お前が呼びたいなら呼べよ! じゃ、じゃあ任務の時によろしくな!」


 彼は早口で言ってすぐに出て行った。


 「はい!」

 

 ダクは嬉し涙をこぼしながらも笑って3人を見送る。


 相手は自分を傷つけた人物であることに変わりはない。


 少年の心の中には当然許せない気持ちはあっただろう。


 相手の非行を利用すれば彼らに痛い目を与えることも出来たはず。


 しかしそれをしては自分が受けたことを、相手にもしてしまうとダクは思った。


 相手が自分に寄り添ってくれたこと。

 それは謝罪や反省をしてもらうことよりも、傷つけられた少年が救われる行動だったのだ。


 「レイユ、ロイト」


 先頭を歩いていたドーサは立ち止まって後ろの2人の方を振り向いた。


 「何だよ改まって」


 「そういう神妙な声キモいぞ」


 「今までくだらねえことに付き合わせちまって悪か──」


 ドーサは立ったまま彼らに頭を下げようとした。


 しかし2人に肩を押され、起き上がってしまった。


 「よせよ班長」


 「お前だけ謝るのか?」


 2人は肩から手を離し、下を向いたままの少年にそう言う。


 「・・・え?」


 ドーサが表情の固まった顔を上げると2人は笑っていた。

 

 「俺たちは俺たちの意思で、班長と一緒に今までを共にしてきたんだ」


 「そうそう。言っちゃえば共犯者?だからお前だけ謝るんじゃねえよ」


 そう言って、キョトンとしている班長の胸を軽く押した。


 「お、おまえら……」


 「あっれ~? 班長泣いてんの?」


 少年は既に赤かった目を腕でこすり始めた。それを見てレイユが揶揄(からか)う。


 「う! うっせー!」

 

 「あーあ。走り出しちゃったよ」


 「本当、素直じゃないよねアイツ」


 「でもやっと思い出してくれたじゃん俺たちの目的」


 「そうだな」


 「これからも頼むぜ──()()()()・ドーサ班長」


 走り出した少年の背中を見ている2人の目からも、ゆっくりと雫が垂れた。

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