3VS3閉幕②
3VS3閉幕②
「だから、ポルム、ドミーを倒すまでは──僕たちと仲間でいてくれませんか?」
「・・・はぁ?」
そう言われたドーサは躓いて、気の抜けた声でエイドを見た。
「僕たちのことは一生嫌いなままでも構いません。ドミーとポルムを倒したら僕はここを出て行きます! 約束します! なのでせめてそれまでは、形だけでも仲間でいてください!」
「エイド・レリフ。お前は大馬鹿だな!」
「……ダメですか?」
「ちげえよ。ドミーとポルムを倒したそん時はよ。ジズが必要なくなってるだろうが!」
敵に言うような声──ではない声でドーサは言った。
言われたエイドは彼が笑ったことと、声の変化に驚いていた。
(形だけの仲間とか仲間じゃねえだろ。どうせ言うならしっかりと言えよ)
「俺はな、そんな上辺だけの仲間は要らねえ。だからちゃんと、俺たちと仲間になれよ!」
「えっ!?……ちゃんと、仲間に──」
「だからぁ! どいつもこいつもよそ見すんじゃねえよ!」
ドーサはそう言いながら、下を向きかけていたエイドの顔の前に一瞬で拳を運んだ。
「今度こそ終わ──」
しかしその拳は何にも当たらなかった。
拳の前にあったはずの顔が消えていたのだ。
いや、顔だけではなく体ごと、エイドごとドーサの目の前から消えていた。
唖然とするドーサの目の前にはわずかに紅い髪が舞っていた。
殴られそうになった彼は今、自分を殴ろうとした少年の背後に立っている。
「2回も同じ失敗をしたらニアースさんに怒られてしまいます~」
背後に回ったエイドは目の前の後頭部に、筆でなでるようにナイフの先端を当てた。
「はい、ドーサさん脱落です」
「......!?」
(なんだ今の動き。動きじゃない!
こいつは今何をした!?
気がついたら消えていた!
こいつは俺がフェイントの拳を見せた時までは絶対に止まっていたはずだ。
だから簡単に胸に棍棒でタッチできると思ったんだ。
なのに何でこいつは俺の後ろにいる!
そして、こいつは今笑った。
顔は見ていないが分かる。
『怒られてしまいます~』だと?何だその余裕は。
奴の飴の力なのか?
それとも俺の効果がなくなった?
いや、俺は3つ目を今も口の中で舐めている。
なのに反応できなかった。
まさかこいつ飴を3つ!?
でもそんな指示はニアースから出ていない。
何をしたのかよく分からない。
奴が何をしたのかがよく分からないからこそ、分かることが1つある。
こいつは俺の何倍も強い。エイド・レリフ……ただの生存者じゃないだろ。
アースを使ったこいつは一体どうなるんだ!?)
「ニアースさん、訓練終わりましたよ? 大丈夫ですか?」
「あ、ああ。平気。ありがとね」
少女は目を開けていただけで何か考え事をしていた。
しかし差し出された手を見て、今がどういう状況なのかということに気がついた。
「・・・エイド? どうかした?」
「あ、いえ。なんでもありません」
握手をしたニアースさんの手は真っ赤だった。
もしもゴムの武器じゃなくて本物だったら彼女は両手を無くしていた。
僕も顔を無くして即死だった。訓練で良かった。
「お前ら、平気か?」
「カインさん! 大丈夫ですか?」
「おう。お前のおかげで勝ったな」
「いえ、カインさんのおかげですよ。2人も相手にさせてすいませんでした」
カインさんの服は砂だらけだった。
でも特に怪我はないみたいで良かった。
「余裕だよ余裕! 俺1人で3人倒せたぜ!」
「全員揃ったわね。整列するわよ」
あれっ?
ニアースさんがカインさんに突っ込まない。
どうしたんだろう。
いつもなら「服を汚しといてよくそう言えたわね」とか言うと思うのに。
少し元気のない彼女が気になりながらも、言われた通りに僕らは整列した。
「両班訓練ご苦労。結果はニアース班の勝利だったが、ドーサの状況判断からの作戦変更は見事であった」
「・・・ありがとうございます」
「ニアース・レミ。お前はアースがなくても班長をやれるか?」
「わ、私は──」
「バモン教官!」
先ほど褒められたドーサが挙手をした。
そしてその声の大きさは自信を無くしていた少女の、小さい声を粉々にした。
「何だドーサ?」
「ニアース・レミことなら心配ないと思います」
彼がこう言ったのは自分が褒められて気分が良いから、相手に個人としては勝っていたから──ではない。自分の行動に非を感じていたのだ。
「なぜだ?今日のニアースは指揮をとる者としては完全にお前に負けていた」
バモンは彼女の前ではっきりとそう言った。
しかしそれは事実であり、言われた本人も分かっている。
だから誰一人として、本人でさえ反論はせずバモンの言葉を受け入れていた。
だが、ドーサだけは言い続けた。
「かもしれません。しかし彼女の班員はとても強いです。例え彼女が判断ミスをしても彼らはそれを補うはずです。そしてそんな班員は彼女のために尽くしていました。班員にそうさせるニアース・レミは優秀な班長だと自分は思います!」
それもまた、事実であった。
その事実こそドーサが身をもって感じたこと。
彼はつい先ほどまで彼女に一方的な敵意を持っていた。
しかし班長としての彼女の実力を少年はちゃんと知っていた。
だからこそこんなところで、たった1回のミスで、班長を辞めるべきではない!と、少年はバモンとそしてニアースに言いたかったのだ。
「……そうだな。ではニアース・レミ。いや、ニアース班のこれからの活躍に期待している」
「はい!」
「以上で訓練を終了する。全員解散!」
「ありがとうございました!」
整列した少年少女たちはそう言って全員頭を下げた。
バモンはそれを数秒見て、部屋から出て行った。
「ドーサ。なんか、俺たちのこと褒めてくれてサンキューな」
カインはドーサに近づいて肩に手を乗せた。
しかし両者ともお互いの顔は合わせてはいない。
「別にお前のことは褒めてねえよ。ただ俺も悪いことしたからよ……その──」
「ありがとう。ドーサ」
言葉を探していた彼にニアースがシンプルにそう言う。
「あ?俺にそんなこと言うなよ。班員に言え」
少年は喧嘩をするような声でそう言うと彼女に背中を向けた。
「もう言ったわ」
「え?俺はまだ言われて──」
「カインさん黙りましょう」
僕はなんとなく今はニアースさんとドーサさんの2人きりにした方が良いと思って、カインさんを連れて部屋の出口へと向かった。
そうしたのは向こうの班も同じだった。
「ドーサ、あなたのことを思い出したわ。確かまだ班が決まる前に、何回か一緒に訓練していたわね」
「そんなこと俺は知らねえよ。じゃあな」
少年は少女の顔を見ることは無いまま、仲間の待っている部屋の出口へと向かった。
部屋をそのまま出ようとした時にドーサは急に足を止めた。
「そうだ、カイン」
「何だよ」
「お前ら、戦場で会った時はよろしくな」
それは前にも同じような場面で言った言葉だった。
しかしその言い方と意味は変わっていた。
当然言われた少年たちは意味の違いに気がついている。だからこそ笑顔で返事をした。
「足引っ張んなよ!」
「ああ、訓練しとくよ」
ドーサ班は微笑んだ顔を見せて、廊下を進んで行った。