16話 3VS3開幕①
16話 3VS3開幕①
────訓練室
僕たちニアース班は先日バモン教官に提出した報告書の評価をもらいに訓練室に来ていた。
いつも通りバモン教官の前で横一列に並んでいる。
何を言われるのか緊張するけれど、見た感じは怒ってはいない。
「報告書を拝見したが悪くない内容だった。特にニアース・レミ」
「はい」
自分が呼ばれたわけでもないのに体が力む。
バモン教官、ニアースさんに何を言うんだろう。
「お前は誰よりも周りが見えているな。あの時は私も熱くなっていた。色々と言い過ぎてすまなかった」
……謝った。バモン教官が腰を曲げて、僕らに頭を下げた。
様々なことを教えてくれる人に頭を下げられるのはとても不思議な気分だ。
「いえ、命がかかっていたのです。私こそもっと警戒すべきでした」
ニアースさんは頭を下げているバモン教官よりも頭を下げた。
彼女は先日の件でバモン教官にムカついていたけれど、頭を下げたってことはもう許したんだろう。
2人とも自分が不注意だったところを認めて頭を下げた。
僕もこういう人になりたいな。
「バモン教官。俺たちもついに地上作戦に参加ですか?」
「そうだ──と、言いたいところだが、お前たちにはこの後すぐに対人戦闘訓練をしてもらう」
「対人戦闘ですか!?」
対人? 人を相手に戦う訓練?
外にいる敵はポルムとドミーだけどそれって必要なのかな。
「飴は配られただろ?アースは使わず、飴とこちらで用意した武器を使ってもらう」
そう言って僕たちは武器が並べられている長机の前に案内された。
棍棒、弓、ナイフのようなものがある。
どれも茶色くておもちゃみたい。
「これ、ブヨブヨしてますよ?」
カインさんは早速ナイフを手に取りそれの先で手の平を刺していた。
刃は曲がっていた。
これは金属の曲がり方じゃない。
「相手も人だからゴムで出来ている。好きなものを使え」
「バモン教官。相手は誰なんですか?」
「実は今回の訓練はドーサ班の班長。シウダー・ドーサからの提案だ。私としても対人戦闘はやっておくべきだと判断し採用した。それに飴を使う良い練習になる」
シウダー・ドーサ。
ドーサってもしかして、いや、絶対そうだ。
小声でカインさんを呼んだ。
こちらを見たカインんさんの目は〝そうだ〟と言っていた。
「訓練は10分後に行う。各自それまでに武器を選んでおけ」
そう言うとバモンさんは部屋から出て行った。
「あんたたちは何にするのよ」
「俺はこの棒かな~」
棒と言ってカインさんは棍棒を手にした。
普段大斧を振っている彼からしたらこの太い棍棒は棒か……。
「エイドは?」
何にしようか悩むけど、やっぱり普段使っている日本刀に一番近いこれかな。
「僕はこのナイフみたいなやつで」
「じゃあ私もそれにしようかな」
「ニアースまさか接近戦するのか!?」
「だって銃がないじゃないの!」
確かに銃はないけどいつも遠距離なのだから……あれが良いんじゃないかな。
「弓ならありますよ?」
「私にはそんな力ないわよ」
「1発くらい射ってみろよ」
カインさんは二アースさんに弓を手渡そうとしたが睨まれたので、そっとそれを机に戻した。
頭も良くて体力もあって、何でも出来る彼女の出来ないことを初めて見た気がした。
「ニアースさんにも出来ないことがあるんですね」
「出来ないんじゃなくて、向いてないの!」
「そ、そうですか」
頬を膨らませた顔に睨まれてしまった。
膨らんだ頬が爆発しないように僕は離れて武器を選ぶフリをした。
その時、聞き覚えのある声が入口から聞こえた。
「ようようニアレミさん。先に来てたんですね」
「誰あんた。その呼び方やめてくれる?」
やっぱりドーサさんだ。
こないだ一緒にいた2人もいる。
今日も全員見た目が怖い。
あの時は思わなかったけれど、背が全体的に僕らよりも高い。
もしかしたら年上なのかもしれない。
「ニアレミさんのようなお嬢様が、俺たち庶民の相手をしてくれて歓迎っすよ」
「おいドーサ。その呼び方やめろってニアースが言っただろ」
あの時みたいに向かってきたドーサさんにカインさんも向かって行った。
「お前は~? 誰だっけ?」
「殴られて記憶が飛んだのかよ」
「あん時頭にしっかりと入ったよ。カイン・ビレント!」
何かの一言でどちらかが手を出しかねない空気になっている2人の側に、ニアースさんは何ともないように近づいた。
「何? なんの話?」
「この前一緒に運動をしたんだよ」
「その割には仲が良さそうには見えないけど?」
「あぁ。こいつと仲良くできると思うか?」
「いいえ。人の名前で遊ぶような奴は嫌いだわ」
「おいおいお2人さんよ。今日は喧嘩しに来たわけじゃねえんだぞ? 訓練だよ訓練?」
「その訓練、あんたが提案したんでしょ?」
「そうだよ。対人訓練ほど最高なもんはねえ。合法的にムカつく奴らを殴れるからな!」
ドーサさんはなぜこんなにも僕らを恨んでいるのかは分からない。
けれど、黙ってやられたりはしない。
いかなる理由を持っていようと、それが人を殴っていい理由にはならないはずだ。
「ドーサ班も来たか。全員武器も決めたな?」
「ば、バモン教官!」
青年の姿を見ただけで少年たちはすぐに整列した。
「ではこれより対人訓練を始める。ルールの確認だがアースの使用は禁止だ。全員ここに置いておけ。勝敗は致命傷となり得る箇所に武器が当たった場合脱落。また、相手が降参をした場合も脱落となる」
致命傷となり得る箇所……頭とか胸の辺りか。
そこにこのおもちゃの武器を当てる。
それなら怪我は特にしなさそうだけど、ドーサさんたちは僕らを傷つける気でいるに違いない。
「そして飴についてだが食べてもいい数は3つまでだ。一気に食べるとすぐに効果が出るだろう。しかしその分効果が持続する時間は少ない。その辺りは各自で判断しろ! 質問はないな? では位置につけ!」
バモンが散るように手で合図をすると少年たちは10メートルくらいの距離をとって、それぞれの場所で円陣を組んだ。
「やるぞレイユ! ロイト!」
「どこまでやって良いの?」
「骨数本とか?」
「バモンが止めに入るまでやれよ」
「つまり止めに入る前なら」
「殺しても良い?」
「好きにしろよ。俺たちの溜まってるもん全部ぶつけっぞー!」
「うおぉぉぉ!!!」
向こう側にいるドーサ班から雄叫びが聞こえてきた。
やる気が伝わってくる。
訓練なのに向こうは実戦のつもりだ。
「なんだか凄い気合い入ってますね」
「あんたも気合い入れなさいよ。私もカインもあいつが嫌いなんだから」
「そうだぞエイド。あいつがどういう奴か知ってるだろ?」
「……はい」
どうやら訓練のつもりでやっていたのは僕だけだったみたい。
2人の目つきはドミーと戦った時と同じ、命をかけている目だ。
「2人とも、今日も私の指示通りに動きなさい」
「了解!!」
返事と共に僕は両手に持っているナイフを握りしめた。
「それではこれよりニアース班VSドーサ班の対人戦闘訓練を開始する!──始め!」
男は教壇に上がって開始の合図を出した。
その合図と共に2人の班長が班員に指示を出す。
訓練用武器:ナイフなら刃、弓なら矢尻など実際に当たったら傷を負うところだけがゴムになっている。持ち手や矢羽根などは本物。