最初の生存者③
最初の生存者③
「ダクごめん。エイドも巻き込んじゃったな」
カインさんは自分がしてしまったことをようやく理解したようで、酷く落ち込んでいる。
バモンさんに怒られた時でさえこんなに落ち込んでいなかったのに。
そんな彼になんて声をかければ良いか分からず黙っていた。
するとダクさんがカインさんに近づいた。
「……ありがとうございました」
「お前はどうしていつもやられっぱなしなんだよ! 大人にも言えよ!」
カインさんはダクさんに強い言葉で当たった。確かにその通りだと思う。
書類や椅子などの物が散乱している部屋の様子や、ダクさんの服や顔を見る限りきっと暴力を受けたりしたのだろう。
それなら大人に言ってあの少年たちを怒ってもらう必要がある。
「いいい、良いんです。あの人たちが言っていたことは正しいですから」
「……んなわけねえだろ」
僕も納得できず悔しくなった。
「あっエイドさん! お久しぶりです!」
「お、お久しぶりです。それにしても凄いですね。通信クラス長だなんて!」
ダクさんは話題を変えるような声で僕に近づいてきた。
なので話題を変えた。
しかし話題は良い方に変わらなかった。
「すすす、凄くないんです。通信クラスには僕しかいないですから」
「そ、そうだったんですか」
1人だけだから「長」がついているのか。
確かに部屋を見てみると誰もいない。
それに誰かいたらさっきのようなことが起きないかもしれない。
「僕、実は──」
「ダク! それ言っていいのかよ!」
「エイドさんには、話しておきたいんです」
何かを話そうとしていたダクさんの口をカインさんは声と手で必死に止めていた。
けれどそれを払って僕のことを強く見つめる。
ダクさんが話すのを止めないと諦めてカインさんはこちらに背を向けた。
僕に話しておきたいって何だろう。
「ぼぼぼ、僕実は、エイドさんが来る前に生存者としてここに来たんです」
「僕よりも前にですか!?」
僕よりも前に生存者として?確か生存者は今の世界では珍しいと聞いた。
まさか僕以外に同じ経験をしている人がいただなんて思わなかった。
「しかもですね、ドドさんに見つけてもらったんですよ」
「僕と一緒じゃないですか!」
「はい!」
すっかりダクさんと距離を縮めて話をしていた。
外の世界でドドさんに見つけてもらって、ここに来てここで暮している。
そんな人と会えたことは奇跡だ!
他にも共通点があるのではと思い、あることを聞きたくなった。
「もしかしてここに来る前の記憶は──」
その時、部屋に人が入って来た。
長い髪。ドドさんだった。
「どどど、ドドさん。お疲れ様です」
「お2人さん悪いが、その話はまた今度にしてくれよ」
「そうだぞエイド。お前、ここに来た理由忘れてるだろ?」
話の続きだったがドドさんに止められては仕方がない。
それにカインさんが言った通り本当の目的は別。
「そういえばそうでした!」
「さっき戻った時にウチの兵から聞いたぜ? 俺に用事があるんだって?」
「その~。ポルムとドミーについて教えて欲しくて」
「ドドさんなら何かしら知ってますよね!?」
「ぼぼぼ、僕で良ければ! 力になりたたいです!」
この時すでに僕はダクさんのことをもっと知ろうと思っていた。
ここで暮している人の過去を探ることはするなと、ドドさんに言われたがどうしても知りたかった。
ドドさんにも聞きたいことができた。
生存者は珍しい存在。
そんな存在を2回とも同じ人間が連れてくるなんて、果たして偶然なのだろうか......。
放送室(通信クラスの部屋):無線などの通信機器から資料などが揃っている。部屋の管理や他者から他者への通信の接続は主にダクが1人で行っている。