最初の生存者②
最初の生存者②
────偵察クラスの部屋
書類などが雑多に置いてある部屋。
それぞれの机が並んでおり無線機が1つずつ置いてある。
事務などの仕事部屋という印象だ。
けれど全体的に綺麗であまり使われている様子はない。
机の数から何十人もいるのだろうが今は2人しかいない。
その内の1人の青年に2人の少年が尋ねた。
「ドドさんはいないんですか?」
「偵察クラスのほとんどが今は地上に出ているんだ。何か連絡があるなら伝えておくよ?」
「……と、特にないです。ありがとうございました」
大変だ!ドドさんがいないだなんて考えもしなかった。
「どうしましょうカインさん」
部屋を出ながら彼はすでに声に出して悩んでいた。
正直真面目に考えているように見えない。
「あ、そうだ! ドドさんと仲が良いやつがいるんだよ! そいつなら何か知ってるかも!」
「それは期待できますね。誰なんですか?」
「ダク・ターリン。通信クラス長だよ!」
ダク・ターリンさん。
「長」ってことは僕がここに来た時に会っているはずだけど、どんな人だったけ。
「長ってことは偉い人なんですね」
「でも俺らより年下だぜ」
「えっ!?」
ドドさんハントさんバモンさんのように、大人かと思っていたけれど僕たちよりも年下!?
「それなのに長だなんてダクさんが特別すごいってことですか!?」
「いや、特別じゃねえよ。普通だよ」
やや興奮気味の僕とは対照的にカインさんは落ち着いて答えた。
────放送室
「ここが通信クラスの部屋ですか」
ホールSにある幾つかの廊下の1つを進むと1つのドアの前にたどり着いた。
「中からなんだか声がしますね」
「そりゃ通信クラスだからな」
「でもなんだか荒っぽいですよ?」
ドアに耳をつけその声をよく聞くと、人に伝えようとしている声ではなく人を脅しているような声が聞こえてくる。
物が落ちたような音までした。
なんだか物騒だ。
「確かに! なんかおかしい!」
カインさんはすぐにそのドアを押して中に突入した。
「ダク! 大丈夫か!」
「かかか、カインさん!」
言葉を詰まらせながら誰かが名前を呼んだ。
その声が聞こえた後、人をバカにするような数人の笑い声が部屋から耳に入ってきた。
僕はカインさんの後ろから部屋の様子を覗いた。
見えた光景は良いものではなかった。
僕たちと同じ紅い制服を着た少年3人によって、壁に追い詰められている男の子。
3人とも少し怖い見た目。
男の子の頬は手で叩かれたのか赤く腫れている。
これは一体どういう状況なのかまだ把握できていなかったが、カインさんには理解できたようだった。
「お前たち、ダクになにしてんだ」
その声はカインさんに出会って初めて聞いた声。
きっと今、本気で怒っている。
「ん?その羽のマーク。お前もジズクラスか。俺はドーサ班の班長だ。ちょうど良い、お前らもこいつに話し方を教えてやろうぜ」
1人の少年がそう言いながらこちらに向かって来る。
初めて他のジズクラスの班に出会った。
ドーサ班の班長ってことは、この人はドーサさんか。
話し方と歩き方からして少し荒っぽい感じがする。
ちょっと怖い見た目。
でもカインさんは自分より大きいその人に向かっていく。
「話し方を教えるってどういうことだ」
「これから俺たちは一瞬の油断が命取りの地上で戦う。そん時にこいつのとろい話し方の無線じゃ困るだろ?」
ドーサさんは、他の2人の少年によって壁に押さえつけられている男の子を指差した。
けれどカインさんはそこを見ずにドーサさん本人を見ている。
声はさっきよりも低くなって体には力が入り何かを堪えているように見える。
「とろい話し方?」
「今聞いたろ?『かかか』って! 詰まらせてる話し方だよ」
ドーサさんがふざけた真似をしながらそう言うと、壁側にいた2人がそれを援護するように笑う。
カインさんはその笑いを止めるように「それが問題あるのか?」と低い声でぼそりと言った。
「──お前バカか? いつ敵が来るか分からない状況で! こいつが喋り終わるのを待つ余裕なんてないだろ! それにイライラすんだよ!」
ドーサさんは声を荒げた後、カインさんの肩に手を乗せた。
「それにお前知ってるか? こいつは何の苦労もなしにジズに入って、『長』なんて肩書きだぜ?」
彼はわざと周りに聞こえる声の大きさで耳打ちをした。
「知ってるよ。そいつ俺の友達だからな」
カインさんは自分の肩に乗っていた彼の手を優しく落とした。
「長」という肩書きでカインさんの友達。
じゃああの押さえられている人がダク・ターリンさんか。
僕はようやく今がどういう状況なのかを把握した。
「へ~。あいつと友達か、変わってんな。お前名前は?」
「カイン・ビレント」
「……カインって確か、大斧のカイン・ビレントじゃねえのか!?」
壁側にいた1人の少年がカインさんを指さして口を開けている。
大斧のビレント?
初めて聞いたけれどそんな呼ばれ方があったのか。
「何? 有名なの?」
「ニアース班だよ!」
そう言われてドーサさんはピンときたようだ。
「あ~あの。ニアース・レミが班長のとこか。あのお嬢ちゃんも特に苦労しないでここに──」
そう喋っていたドーサさんの姿が一瞬で消えた。いや、吹っ飛んだ。
カインさんが目にも留まらぬ速さで殴った。
殴られた彼は壁にぶつかり頭はだらんと下を向いている。
人間に殴られた人間の吹っ飛び方ではなかったから生きているのか心配だ。
「おい! お前!」
カインさんは目の前に来ていた2人の少年に銃とナイフを向けられていた。
僕はとっさにカインさんの横に立つ。
どうしよう。訓練が終わったばかりの僕たちは武器をメンテナンスに出している。このままじゃ──
「そそそ、そこまでです! これ以上騒いだ場合は放送で流しますよ!」
先ほど押さえられていたダクさんが落ちていたマイクを手に持っていた。
振り返ってそれを見た少年2人は武器を隠すようにしまう。
「お前ら……戻るぞ」
ドーサさんは生きていた。
彼はよろよろと立ち上がる。
そのまま1人で歩いて他の2人と部屋の出口へ向かう。
「カイン・ビレント。戦場で一緒になったらよろしくな」
右頬に真っ赤な拳の跡を残していたドーサさんはカインさんとすれ違う時にそう言い残した。
その意味はきっと友好的なものではないと、彼の顔を見て感じた。
それにしても人が吹っ飛ぶほどのパンチを食らって壁にぶつかったのに、1人で起き上がって1人で歩けるなんて、あの人も普通じゃない。
シウダー・ドーサ:ジズクラス所属 ドーサ班 班長
オールバックの髪型や尖ったリングをつけているので見た目は怖い。同じ様な見た目の班員からは慕われている。