14話 最初の生存者①
14話 最初の生存者①
────マダー・ステダリーの部屋
「失礼致します」
蝋燭の明かりだけの、薄暗い部屋。そこに青年が入ってきた。彼は青色の制服を身にまとっている。
彼が来るのを待っていたのか、髭を生やした男はすでに椅子に座っている。
「やあバモンくん。訓練の結果報告ですね?」
「もう結果は知っておられますか?」
バモンは目の前の椅子に座ることなく、立ちながらステダリーに聞き返した。
「はい。ですが、一応君の口から聞きましょう」
「様子を見られていたとは思いますが・・・ニアース班は獅子を倒しました。しかし獅子の頭を斬った後──」
「彼らは獅子の頭を落とした。ならそれは合格ですよ」
「そうですか。では彼らも?」
「これからは地上に出てもらいます」
座っている男はそれをハッキリと、躊躇なく言った。立っている青年は一瞬目線を床に落としかけた。が、すぐに戻して椅子に男に背を向ける。
「了解致しました。では私はこれで」
「──三幻鳥を帰還させます」
ドアノブを握っていたバモンは、その言葉を聞くなり石になってしまった。後ろから彼を見ていた男はその様子を見て、口を曲げる。
「・・・そっ、それはつまり。あいつは、イーサン・コペルトは」
ドアノブを握ったままの青年は、首を震わせながら振り返る。まるで背後に幽霊がいないかを確認するような動作。当然背後に幽霊はいない。
だがその顔は汗をかき、目は大きく開いたまま。凛々しい青色の制服には、とても似合わない表情。
その声も教官と呼ばれる彼らしくないほど弱々しく、聞き取るのがやっとであった。
「彼──イーサン・コペルトはまだ見つかっていません。さすが元ジズクラストップの兵士。そう簡単に捕まってくれません」
「ではなぜ、彼の討伐任務をしていたアベル・ウインと、イラ・アマウを帰還させるのですか?」
「それは前に言った通り、戦力に余裕がないからですよ?それにいくら彼でも、片腕の状態ならそのうち死ぬでしょう」
その言葉はまたしてもバモンを石にした。
いや、彼は自ら石になっていた。
自分の頭の中で色々考えていた。
そうして考えるうちに自分がすべきことを思い出し、混乱していた頭は整った。
(イーサンはここで一番強い兵士──だと思われていた。そう、お前の側にいる黒装束の奴が、あいつの腕を、虫を潰すように簡単に刎ねるまではな。
俺はこの戦争が終わった後に貴様を消して新しい世界を作る。イーサン、お前の言っていた世界は俺が作る。
それまではこの指導者が指揮をする組織に堪えてみせる)
「三幻鳥が久々に全員揃うというのに、嬉しくないのですか?」
「うるさい2人が帰ってくると迷惑なのでね」
男の声は入ってきた時の、落ち着きのある声に戻っていた。
「そうですか。君はあの2人といる時が一番輝いていると思いますが」
バモンは男の声に耳を傾けず、黙って部屋を出て、丁寧にドアを閉めた。
────チャップの食堂
獅子との実戦訓練が終わった後、僕たちはバモン教官に叱られてしまった。特にニアアースさんは1人で残されて何か言われていた。
バモン教官が怒った理由は分かってる。僕らが油断をしたからだ。
ドミーの頭──つまりポルムだけになっても数十秒なら生きているということを、誰一人として気にしていなかった。
それでも一応訓練の結果は、合格。
しかし〝なぜあの獅子のドミーが今までのドミーと違ったのか〟を考えてそれを紙に書いて報告するという条件付き。
「たく何なんだよニアースの奴! あんなに落ち込まなくても良いのにな!」
カインさんはお昼ご飯のトマトを、フォークで力強く刺して口に入れると、無駄に強く噛んだ。
「そ、そうですね」
でも班長として、自分の判断ミスで仲間を死なせていたかもしれないと考えると、ニアースさんが僕たちに会いたくないのも分かる気がする。
正直僕も、大人にあんなに叱られたのは初めてだったので気持ちは沈んでいる。
「お前たち明るくないナ。ほらスブラキやるゾ!」
「おー! ありがとうチャップ!」
「ありがとうございます」
カインさんはこれで元気になれるのだから、少し羨ましい。
いや、元々元気だったかもしれない。叱られることに慣れているからかな?
「今日はあの女の子いないのカ?」
「ニアースさんは今、1人でいたいそうで」
訓練が終わった後、ニアースさんが出てくるまで僕とカインさんは廊下で待っていた。けれど出てきた彼女は僕らに気がついたのに、無言でどこかへと行ってしまった。
カインさんは当然ニアースさんに声と手をかけたが、どちらも冷たく払われてしまった。
もともと冷たい感じはあるから、ニアースさんらしいと言えばそうかもしれないけれど。
「そうかそうか。なら後でちゃんと会いに行ってやれヨ~」
会いに行った方が良いのかな?
1人でいたいって感じだったのに?
「……わかりました」
「エイド! 例の報告書一緒にやろうぜ!」
スブラキを食べて元気になったカインさんが、こちらを輝かしい目で見つめている。その目は拾ってくれと言っている子犬のようでとても断れない。
でも1人で書くよりはここでの暮らしに経験があり、ポルムやドミーに詳しそうな彼とやった方が良いに違いない。
「良いですよ。やりましょう」
「でもさ~。あの獅子がどうして今までのドミーと違ったかって、エイド分かる?」
僕がそう聞こうと思っていたのに。期待したのがダメだった。
「分からないです。カインさんは──」
「俺が分かると思う?」
即答だ。まぁ、そうですよね。こんな時、ニアースさんが居てくれたら・・・
「ポルムとかドミーについて詳しい人に心当たりはないですか?」
「・・・やっぱドドさんだよな」
「じゃあドドさんのところに行きましょう!」
「よし!じゃあ野菜は任せた」
「自分の分は食べてください!」
「えー。エイドきびしー」
三幻鳥クラス:ジズクラスの中で戦闘能力の高い3人で構成された班である。便宜上、班ではあるがその戦力的に、独立して行動ができるクラスの1つとしても認めらている。