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幻獣チルドレン  作者: 葵尉
第1章 アース編
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13話 VS獅子①

13話 VS獅子①



 ────1ヶ月後 訓練室 



 床や壁が亀裂や穴だらけの広い部屋。そこに上下赤色の制服を着た3人の少年たちがいる。


 彼らは上下青色の制服を着た青年の前に並んで立っていた。3人とも姿勢を整えて、その青年をまっすぐと見つめる。見る限りとても統率がとれているように見える。


 特に3人の中央にいる少女はとても美しい姿勢。横の2人を教科書通りと言うなら彼女はその応用編と言ったところだろうか。


 「ではこれより実戦訓練を開始する。ニアース班もこれをクリアすれば()()()()に参加だ」


 そう言われた3人の反応は唇を噛み締めたり、小さくガッツポーズをしたり、下を向いたりとバラバラ。一方青年は、自分の訓練でもないのに緊張して、無駄に制服の襟元に触れていた。


 (エイド・レリフがあの(ドミー)を倒してから、すぐにジズクラスを地上へ派兵することになると思っていた。


 だが西のポルムとドミー。反ジズ組織ライコスを名乗る男が、何も動きを見せなかったおかげで今日まで訓練期間を延ばすことができた。


 しかしそれも今日で最後。とうとうこいつらも最後の実戦訓練を迎える)


 「相手は獅子(ライオン)のドミーだ。正直に言うが今の貴様らでは死ぬ可能性もある」


 バモンは何のためらいもなくハッキリとそういった。唐突に自分に「死ぬ可能性がある」と言われた少年たちだったが何も怯むことはない。


 それは言われ慣れているのか実感がないのかあるいは、その覚悟が出来ているのだろう。

 

 ニアース班は他の班と比べてもとてもバランスが良い──バモンはそう思っていた。


 (班長であるニアース・レミ。


 彼女の判断力、状況把握力は百人の兵士を任せられるほど。これまでも見事な指示であの2人を上手く使ってきた。

 

 それに加え後方から指示を出す彼女が使うには、ピッタリの武器である銃。名手ファイン・ドド仕込みとあって、その腕前は機械にも負けない。

 

 そして頭はダメだが鍛え抜かれた肉体で全てを補えるカイン・ビレント。


 展示物と言っても良いあの大斧を操れる少年はやつぐらい。彼は生身でも小型のドミーとなら戦える力を持っている。臆することなく前線に立つ彼の姿は、全員の士気を上げる。


 そんな力と知が揃っていたところに現れたのが、広い視野を持ったエイド・レリフ。


 班員2人の動きを見て自分がすべきことを見つける姿勢は素晴らしい。アースの能力、戦闘センスはまだまだ未知数。


 ただ、1つ分かっているのは学習能力の高さ。


 刀の使い方も私が教えることは無くなってしまった。まるで初めから知っていたからのような飲み込みの早さだ。


 特に弱点が無い彼らだが、今回の相手は苦戦するだろう。それに悪いが私としては「獅子に勝てなかった」という報告をあの博士にしたい。そうすれば外に派兵することも考えるだろう。


 しかし今までに獅子との実戦訓練をこなしてきた班は全てクリアしてきた。他の班がクリアしたのなら尚更、こいつらもクリアしてしまうのだろうな)


 「でも、私たちが死にそうになっても万が一の時はバモン教官が──」


 「そうだ。万が一の場合は私がドミーを仕留める。つまり貴様らは死にそうになっても決して、死なないということだ」


 「だってよエイド。頑張ろうぜ!」


 「……はい」


 どちらかが確実に命を落とすというのに、筋トレをするようなノリで僕を励ましをしてきたカインさんはどんな神経なんだろう。そんな無神経さには助けられてばかりだ。


 「何? あんたもしかして不安なの?」


 ニアースさんが嫌いな食べ物を見るような目で僕を見る。


 「え、あ、まぁ……そうです」


 顔を合わせずに聞こえない声で言うと、背中に勢いよく彼女の握り拳が当たった。もしもカインさんの拳だったら背骨を骨折していたかもしれない。


 「もうちょっと自信を持ちなさいよ。エイドは毎日ずっと訓練してきたんでしょ?」


 「はい。でも……」


 確かに僕は毎日カインさんと筋トレをした。バモンさんには刀の扱い方など多くのことを教えてもらった。だから前よりは強くなったんだとは思う。


 けれどその力を使うことにまだ──


 「エイド・レリフ!」


 「はい! なんでしょうかバモン教官!」


 怖い顔つきだったが、その顔からは怒りを感じない。その開かれた教官の口は僕を後押しする。


 「貴様はとても強くなった。今までのシマウマや複数の犬を相手にした訓練の時よりも、明らからに強くなっている。それは君の肉体(からだ)だけを見ても分かる。だからそう恐れることはない。君と、君たちは、強い」


 「ありがとうございます」


 体は確かに強くなった。でも、心はどうだろう。未だにアースを使うことに抵抗がある。今更だけど直前になってこんなこと考えちゃう僕は、戦うことがやっぱり向いていないのかもしれない。


 「さて、私が言うことはもうない。無事を祈る」


 僕が初めて命を奪ったこの場所は、命を奪い続ける場所になっていた。でもそれは外で生き残るために必要なこと。


 そして今はあの犬のドミーと戦った時とは決定的に違うことが1つ。


 それは、僕1人で戦っていないということ。ニアースさんとカインさんの3人で戦っている。


 3人だとあらゆる面の負担が和らぐ。特に精神的な面。1人で相手を殺すよりも3人で殺す時の方が「酷いことをした」という感情が弱まる。逆に「みんなでやりとげた」という達成感すら感じる。


 でも、大勢になればなるほど、命を奪うことに抵抗がなくなるその現象に、恐怖を感じる時もある。

 

 檻の前に立つのには慣れた。檻の中の生き物の醜さにもだ。おかげでこの世界には白目を向いている傷だらけの生き物しかいないのかと、錯覚してしまいそう。


 でも今日の生き物は特に醜い。大きいからそう感じるのかな。だけど大きさならこの前の馬の方が大きい。


 それほど今回のドミーは強くポルムに侵されている。ポルムアイと呼ばれる目のような紫色の斑点を見ても、そう感じる。


 「班長。作戦は~?」


 「相手はライオン。力も速度もトップクラス。最強の肉食獣って言われてる。でもそれは昔の話。(おうかん)を失った獅子(ドミー)なんて、私たちの敵じゃないわ」


 「・・・ようするに今まで通り俺とニアースで動きを止めて最後は──」


 「僕が斬ります」


 暴走モンスター〝ドミー〟。それを確実に仕留めるのは脳に寄生し、宿主の体を支配している〝ポルム〟を無力化させること。


 つまり脳を直接攻撃するか、頭と体をなんらかのダメージによって引き離すしかない。


 それが最も上手いのは僕なんだ。


 訓練用ドミー:地上にいるドミーを調査のため偵察クラスが生け捕りにした個体。訓練用とはいえ凶暴性は地上の個体と変わらない。

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