12話 石の下で①
12話 石の下で①
────医務室
ここは・・・ハントさんの部屋か。なぜ僕はここで寝ているんだろう。確かドミーと戦って、刀を抜いて、そこからは覚えていないや。
「・・・あっ」
ベッドの横の長机。そこに黒いベルトと日本刀が2本置かれていた。その刀を見た瞬間、ドミーと戦った時の映像が浮かぶ。
初めて生き物を斬った瞬間。
命を奪ったのはあれが初めて。斬らなければ僕が食われていた。しょうがなかったこと、やらなければいけないことだとしても、気持ちが良いものではない。
そうやって頭の中であの時の映像を再生していると、急に部屋のドアが開く。入ってきたのは1人。
ドドさんだった。
「お、ようやく起きたか」
「ドドさん」
部屋の電気をつけた彼は椅子に座った。気のせいか、あまり元気が感じられない表情。疲れているのかな?そんな人に僕は「体は平気か?」と聞かれてしまった。
「特になんともないです」
本当になんともないのかは分からない。でも体は平気だと思う。けれど酷いことをしたという感情が、心から離れない。
「そうか。良かった良かった」
ドドさんは胸をおさえながら息を吐いた。別に僕は大怪我をしたわけでもないから、その安心した様子が大袈裟に感じる。
「そういえば今って、何時ですか?」
「実はな、あれから1日経ってる。今は夜だな。みんな寝てるよ」
「・・・僕、そんなに寝てたんですね」
長いこと寝ていた気がしたから、もしかしてと思ったけれど、1日も寝ていたなんて。
「ところで腹減ってねえか?」
「・・・不思議と減ってないです」
「そうか。なら、ちょっと散歩しないか?」
すぐに立ち上がったドドさんは廊下の方を親指で〝くいくい〟と指差す。僕はベッドに座ったまま「どこにですか?」と尋ねた。
すると彼は嬉しそうにニヤリと微笑む。
「お前に見せたいもんがあんだよ」
見せたいもの?気になるけど、ドドさんの笑った顔が引っかかる。また、何かをさせられるんじゃないかと、僕の脳は警戒するようになっていた。
「別に無理にとは言わねえ。また今度でも良いぞ」
また今度──この世界ではまた今度が100%やってくるかなんて分からない。出て行こうとした彼の背中を見たら、急にそう考えてしまった。
「今からまた寝れる気もしないので、連れて行ってください!」
「おう。でも声は静かにな」
「あ、すいません」
***2***
行ったことのない秘密の場所にでも連れて行かれるのかと思っていた。でもやってきたのはジズの入り口。
あの広い場所、ジズの玄関だ。
何度見ても思うが広すぎる。物も人もいないこのスペースはもったい無い。それにしてもこんな場所に何があるんだろう。
周りを見ても壁と床と扉しかない。
「僕に見せたいものってなんですか?」
どんな物が出てくるのかは分からない。もしかしたら最悪な物を見せられるかもしれない。それでも期待してワクワクしていた。
しかしドドさんは「まあ座れ」と言って座って足を伸ばした。リラックスしているその様子からはワクワクが感じられない。
その態度に少しの不満を抱きながら足を抱えて座った。座ると石の床がこちらの熱をどんどん吸いとる。夜だからか、少し冷える。
「お前は星って知ってるか?」
「星ですか?聞いたことはあります。でも見た記憶はないです」
「そのまま真上を見てみろよ」
こちらを向いたドドさんは、数字の1のようにピンとした人差し指を、天井に向けて動かしていた。