表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻獣チルドレン  作者: 葵尉
プロローグ
4/171

プロローグ 始まりの命②

ケア・ハント:子供に甘いところがある大人の女性。白衣に似合う黒髪のロングヘアー。衛生クラス所属。衛生クラス長。 


プロローグ 始まりの命②


 「太陽ってのはあんなに近かったか?」


 ちょうどハゲワシたちも何かを察知したように、その場を飛び去った時、突如として太陽が血の色に染まり始める。瞬間、嵐のような強風が吹き出して、大地の乾いた砂が鉄砲水となって男を襲う。


 「竜巻か!?」


 男はとっさにその場に伏せると、長い髪で顔を守った。もっとも、そのために伸ばした髪ではないだろう。亀のようにうずくまる彼に甲羅はないが、髪のおかげでなんとか目は守れそうである。


 しかしコートだけの男の胴体は、熱風と針のように鋭い砂に襲われ続ける。

 

 この時、もちろん男は気がついていなかったが、ドス黒くなった太陽は更に大きくなり続けていた。太陽の巨大化に応えるように、風も強大化を続ける。さきほどまで転がっていた獅子の死体はとっくに、彼方へと消えた。


 男はというと銃を杖のようにして、なんとか大地に食らいついていた。


 「まだ()()()()が残ってるみたいで助かった。こんな嵐にも耐えられるなんて、ほんとすげえな(これ)


 杖がわりの銃、それがファイン・ドドの命綱。それを片手で握りしめると同時に、掴めない空気を掴もうと、何かにしがみつこうと、必死な男。


 太陽はいつの間にか、手が届きそうなくらい膨れて、大地はその色に染まっていた。


 すると、何かの合図を受けたようにこれまでの暴風がピタリと止む。長髪をかきわけて顔を上げた男は、その時はじめて膨張したソレを目にした。


 「なんだ、あの赤い丸いのは・・・太陽か?」


 ハッとした男が鞄に手をかけた時、 大地は紅い閃光に飲み込まれた。もしも目を開ければその閃光は真っ白に見えるだろう。いや、真っ黒かもしれない。これは見た者の目を焼き焦がす、強烈な光である。


 男は瞬間的に光に反応し、銃を放棄。頭を長髪とコートで包み、砂に顔を埋め込んだ。だが、閃光はそれをしている最中に消えていた。大地は元の色に戻り、太陽も元の色と大きさに戻っている。


 しかし、まるで世界が新しく生まれ変わったかの様。


 一方、男はまだうずくまっていた。うずくまる男の髪を風がまた触れる。けれどこの風は砂を巻き上げることはおろか、髪の毛さえ引っ張ることが出来ないただの音。


 しばらくは風の音しかしない大地だったが、空から鳥の鳴き声が届いた。獲物を見つけたハゲワシがそれの上で円を描く。その鳴き声で安全を確認した男は、ゆっくりと立ち上がる。砂だらけの顔の前に手を広げ、恐る恐る太陽を見る。


 「さっきまでの異常な出来事が、嘘みたいに静かになりやがった」


 ハゲワシの群れは今も空を周り続ける。しかし今度はファインの頭上ではない。


 「おいおいウソだろそんな馬鹿な──あれは、人間(生存者)か!?」


 両手で頭を抱えたファインは、銃を拾いながらハゲワシの真下へ走り出す。揺れる髪の毛を手で押さえ、生存者の元へ急ぐ。すると1羽のハゲワシが、直下で横たわっている生存者へ降下し始めた。


 「そこを離れろおおお!!」


 ファインの鬼気迫る表情で放たれた怒号は、言葉が通じない相手に命の危機を感じさせた。降下していたハゲワシは空中でブレーキをかけて急上昇、そのまま旋回している群れに加わった。


 息を切らしながら、その横たわる生物の元にたどり着いた男は、両手両膝を地面に付けて問いかける。


 「・・・おいお前! 人間か? 生きてるのか!? どうして服を着ていない! いつからここにいた!」


 男の声は空のハゲワシにも届くほどだったが、その裸の生物からは何も反応がない。


 「本部本部! 緊急事態だ!」


 《ははは、はい! どうしたんですか!?》


 「お前じゃねえ! 衛生クラスのハントに繋げ!」


 通信越しの声を聞くなりファインは叫んだ。すると今度は女性の声が聞こえてくる。だが、彼女はあまりにも冷静だった。


 《うるさいわよ》


 「おおハントか。大変だ生存者だ人間がいた! 今すぐ応援をよこせ! それと男用の服を持ってこさせろ!」


 男の無線機は雨に濡れたわけでもないのに、唾でしずくが出来ていた。それくらい必死だったのだが話し相手のテンションは変わらない。むしろため息をついて、いっそうドライになっている。


 《はぁ・・・冗談はやめて》


 「本当にいるんだよ人間が! 良いから早く応援をよこせ・・・()()()()!」


 その一言が彼女を本気にさせた。嫌味を込めたのは、彼女がそうなることを知っていたのだろう。


 《その言葉を使うってことは、本当なんでしょうね?良いわ、すぐに応援を送る》


 「頼んだぞ!」


 無線機を置いた男は、荒く短い呼吸を整える。そうしながら地面で横たわる裸の生物をじっくりと観察していた。その光景は事情を知らない人が見れば、すぐに制止するであろう構図。


 「呼吸はしている。信じられないことに傷は1つもない。そんで、気持ちよさそうに眠っていやがる。今、何度(いくつ)だと思ってんだよ。火傷すんぞ」

 

 自分の上着(コート)を脱いで地面に広げると、裸の少年を抱きかかえて、上着の上に寝かせた。そのままコートで包み込んだが、少年の指先と赤毛が少しはみでる。


 「日光が当たる面積が減っただけでも、良しと思ってくれ」


 上半身白のタンクトップになった男は立ち上がり、自分の影で寝ている少年の顔を隠す。男のこんがりとした肌は、灼熱の光を寄せつけない迫力がある。そんな男がいる限り、ハゲワシたちは何もできないだろう。



 ────とある地下施設 出入り口付近



 千人は入れそうな空間にいたのは、たったの3人。少年は自分が着ている赤い服と同じ物を大事そうに抱えている。彼よりも背が高い少女は、目の前で話す大人の話を、背筋を伸ばして聞いている。

 

 その大人はさきほどヤブ医者と呼ばれた女だった。真っ白な白衣と、背中まで伸びた真っ黒な髪がよく似合っている。


 「目的地までは偵察クラスの車が送ってくれるわ」


 ハントは10代の男女2人の前に立って、地図を広げている。その地図には山とA、Bなどいくつかアルファベットが書いてあるのみ。まるで小学生が作った宝の地図のような完成度だった。


 「いい?常に臨戦態勢でいるように。特に──」


 「〝特に、領土外ではいつポルムやドミーが現れるか分からないから、2人とも気をつけるのよ?〟──ですよね。私、暗記と声真似できるくらいにはそれ聞いてます」


 少女は嫌味でもなんでもなく、素直に物を言う性格だった。言われたハントも「さすがね」と微笑むしかない。


 「そういえば生存者ってやっぱり男子なんですか?」


 「ドドが言ってた特徴からはそう聞いてるわ」

  

 「ふーん」と視線を落とした少女とは対照的に、少年の方は「早く会いたいな!」と、耳を塞ぎたくなるほどの反応。少年の声はこの広間でもよく響く。


 「ニアースちゃんは女の子が良かったの?」


 「いえ、()()()()()()()()()()()()()()ので賢い子が良いな~って」


 「もうダメよそんなこと言っちゃ。男の子はそこが可愛いんだから」


 白衣を着た女性は少年の金髪の頭を撫でていたが、ニアースにはまだそれが分からない。しかしニアースも、ハントも、少年も、ファインも、自分たちが出会う彼が運命を変えるとは思っていないだろう。


 ────この日、人類の前に現れた命は世界の運命を大きく変える。その少年の名は──

ニアース・レミ:大人っぽい少女。黒髪のショートヘアー。怒っていると勘違いされやすい。ジズクラス所属。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ