11話 アースオブジズ①
11話 アースオブジズ①
「なあ、ニアースこれって・・・」
「ドミーでしょ。ポルムアイが3つあるんだから。ドドさん、戦闘訓練ってまさか?」
ニアースさんはドドさんに詰め寄って服を掴もうとした。しかしバモンさんが片手で彼女を制止する。彼女は驚いた顔で立ち止まった。なぜ止められたのか分からなかったんだ。
「落ち着けニアース・レミ。私もドミーがいるだなんて聞いていない」
代わりにバモンさんがドドさんに詰め寄る。
「檻を運んできたあの黒い服の兵士は偵察クラスか。ファイン・ドド偵察クラス長。教え子の命を預かる者として説明を求める」
「すまんがバモン、俺もこれは──」
「訓練ですよ」
ドドさんの代わりに後ろにいたステダリー博士が答えた。バモンさんは今度は彼に詰め寄る。
「今日配属されたばかりの少年に、いきなりドミーを相手にした訓練など私は反対です」
「ステダリーさん俺も反対です。それに今エイドは戦える状況じゃ」
2人の大人は博士を崖に追い詰めるように距離をつめる。なんとしてもこれだけはさせない、という気持ちが2人からは見て取れた。しかし博士は2人を相手にせず、僕に尋ねるくらい余裕だった。
「エイド・レリフ。できますか?」
「ぼ、僕は・・・」
戦いたくない──なんてもう、言えない。だからあの時、手のひらに短剣を刺した。そしてアースの力を宿した刀を作ってもらったんだ。──でも、いざドミーを目にしたらそりゃあ、逃げたいよ。戦いたくない。
だって僕はまだ、どうやって戦えば良いのか分からないんだよ?救いを求めてバモンさんを見た。でも遅かった。この人でもあの人には逆らえないんだ。
「バモンくん。君はいつまで熟している果実に水をあげ続けるのですか?」
博士の口調は自分より背が高く、体つきが男らしい相手ですら萎縮させてしまう。強者の弱味を握っている、弱者の言い方だった。
「・・・どういう意味でしょうか」
「これからはジズクラス全員に現場に出てもらうということです。もちろん戦闘もしてもらいます」
「し、しかし!他の者ならまだしも、エイド・レリフはまだ刀の使い方も、アースの使い方も知らない初心者です!」
男は着ている青い服が破れる勢いで声をあげる。そのくらいその決定事項に冷静を失ってしまった。
「だったら今教えればいいではないですか。練習相手も用意したのですから」
博士は檻の中で唸っている犬を指差した。しかしその指の先にバモンは立つ。
「なぜそう急ぐ必要があるのです!」
「反ジズ組織──ライコスと名乗る組織の出現。そして西からポルム、ドミーが侵攻してきています」
「それは・・・本当ですか!?」
「偵察クラスのトップとして言うが、これは本当だ」
横にいたドドは高まる気を鎮めるように、青い服の肩に手を置く。
「我々は急がねばなりません。すでに偵察クラスや外部居住者で犠牲が出ているのです」
ステダリー博士。ドドさん。バモンさんの3人が一斉に僕の方を見た。ドドさんは近寄って耳元に声を当てる。ニアースさん、カインさんも僕を囲った。
「エイド、拒否して良いんだぞ。いつかやらなきゃいけない。だが、今日じゃなくても良いんだ」
「その通りよエイド」
「また俺と筋トレして強くなってからやれよ」
言葉だけじゃなくて、表情や動作で僕に「いくな」と言ってくれている。でも、アンチジズ組織が現れてポルムとドミーが向かってきている。そしてもう犠牲が出ている。そんなことを言われたら──
「皆さんありがとうございます。でも僕、やります」
やりたくなくても、やらなきゃいけないじゃないか!
「エイドお前っ!」
ごめんなさいドドさん。僕はいつまでも生存者扱いされるのは嫌なんだ。もう僕も戦えるようにならないといけない。
「決まりましたね。では檻の方へ移動してください」
「はい」
とは、言ったけど僕、どうなるのかな。あの犬をどうすれば良いんだろう。何をすれば良いのか分からないまま、檻で待つドミーの前に来ていた。
何をすれば良いかは分かってる殺すんだ。でも、どうやって? 刀で刺す? どこを? 刀で斬る? どんな風に?僕はまだこの刀で何も斬っていない。
「エイドー!」
振り向くとニアースさんが両手を使って声を張っていた。ニアースさんらしくないや。なんて言ったら殴られるかな。
「な、なんですかー!」
「あんたが殺されそうになったら、私がそいつを殺してあげるわー!」
その言葉は矢のようにとんできて、不安で真っ暗になっていた僕の中に穴を開けてくれた。おかげで気が楽になる。そうだ、僕は1人じゃない。後ろにはニアース班がいる。
「ありがとうございます!」
もう悩まず、後ろを振り返らず、正面の犬と向かい合った。
「そういえば今この場には、ジズが誇る天才スナイパーが2人いましたね。なら安心して見ていられます」
博士は少女と長髪の男を見て笑みを浮かべる。
「バモンくん。君も万が一の場合には頼みますよ」
「私が出る必要があるでしょうか?」
「ないのが一番ですがね。頼みますよ」
バモンは頭を下げた後、博士を横目で睨んでいた。
(いつもどこかに隠れている黒装束に守られているのに、臆病な老人め。どうせこの部屋にも潜んでいるのだろう。万が一の時にはそいつがあの犬を、誰よりも早く殺す)
「カイン・ビレント。貴様もドミーがこちらに来た場合は、迎撃出来るように構えておけ」
「りょ、了解っす!」
檻の前、正面から見た犬は離れて見た時よりも恐ろしく醜かった。ポルムに寄生されるとどうしてこうなってしまうのだろう。こんな生き物が外にはたくさんいる。そして僕はそいつらとこれから戦うんだ。
「では檻を開けてください」
えっ、もう!? そう思っているうちに檻の鍵を、黒い服を着た人たちが外しにかかっている。
自分で決めたんだ。大丈夫。もし死にそうになっても──〝私がそいつを殺してあげるわー!〟
彼女を思い浮かべると落ち着く。これから死ぬかもしれないのに安心していた。失敗しても大丈夫という考えが頭の中にはあった。
それにやることは決まっている。僕はただ、この刀でドミーを殺せば良いんだ。
アース:幻獣が宿っている石。加工して武器などに装着する。その武器で体を傷つけることにより、幻獣を体に宿すことが出来る。