兵士として③
兵士として③
「良い汗かいたなー! なあ、エイド!」
「やめなさいよ。エイドは死んでるんだから」
学校のような廊下を、男女が並んで歩く。カインは自分より大きな少年を1人で背負っている。しかし彼の腕や顔は全く辛そうにしておらず、もう3人くらいは背負えそうだ。
「あんたエイドに何させたのよ」
少女は荷物となり、目を閉じている少年を見ながら聞いた。
「ん?普通に筋トレだろ」
「あんた基準じゃ初心者は死ぬわよ。とりあえず着替えさせなさい」
背中にいる少年の服を少女は指先でつついている。彼の赤色の服は、脇や首元が臙脂色になっていた。背中には綺麗な丸が出来ている。
「もう着替えさせたぜ?」
「着替えさせてこの汗なの?」
少女は自分の赤い服を触って、乾いている生地の確認をした。
「ハントさんのところに連れて行きなさいよ」
「なるほど!でも俺食堂の飯取りに行かないと」
「私が取っといてあげるわよ」
「ニアースも一緒に食うのか!?」
「別に私の分まで取るとは言ってないでしょ!」
少女はすぐにそう言い返してカインの腰を叩く。叩かれたことを気にせず「任せたぜ!」と、彼は先に走って行った。
「早く戻ってきなさいよ」
少女は2人の姿が見えなくなってからそう呟いた。
────医務室────
「ハントさ~ん!」
「あらカインくん。と、エイドくんじゃない。彼、どうしたの?とりあえずそこに寝かせて」
椅子に座っていた白衣の女は、背負われているエイドを見た瞬間手を叩いて立ち上がり、部屋にあるベッドを指さした。
「ひどく汗をかいたみたいだけど、いったいどんなことをしたのよ」
「いや~。俺と一緒に筋トレしたら気絶しちゃって」
寝かせた少年の胸に聴診器を当てて焦る女だったが、少年は呑気に笑う。それを見て一安心したのか女は落ち着きを取り戻す。
「き、筋トレ?今から体力を回復させるから少し離れていなさい」
彼女はカインをベッドから入り口の方へと遠ざけた。そして胸ポケットから注射器を取り出したその時──
《ジズクラスより連絡! エイド・レリフ! 至急訓練室に来い!》
「今の声って確か~」
「バモン教官っす! エイドのやつ何やらかしたんだろ・・・」
「至急ってよっぽどよ?私のアースで回復させるとなると時間がかかるわ」
女は手首の時計を見た。
「え~! どうしたら良いんですか!」
「とりあえず行った方が良いわね」
「やっぱ、そうっすよね」
「私も一緒に行ってあげるから」
女は近づくとかがんで少年と目を合わせた。
「ハントさんがいるとなんか勇気が出ます!」
2人が部屋から出ようとすると急にドアが開いて少女が入って来た。
「カイン! 今エイドが放送で呼ばれ──」
「あら、ニアースちゃんも一緒に行くの?」
「・・・わ、私の班員が呼ばれたので、班長も行くべきだと判断しただけです」
少女は姿勢を整えてそう言った。それを見てハントは椅子に腰をおろす。
「そう、さすが優等生ね。ならカインくん。早くエイドくんを背負って行ってきなさい」
「ハントさんは行かないんですか?」
「カイン! 早くしなさいよ!」
「お、おう。怒んなよ!」
二アースに急かされてエイドを背負ったカインは、慌ただしく部屋から出て行った。
────訓練室────
「遅いぞエイド・レリ──なんだ、班員全員で来たのか」
少年を背負ったカインと、少女が息を切らして入ってきた。少女は姿勢と呼吸を整えて、男に敬礼をする。
「遅れてすいませんでした。只今エイド・レリフは疲労で意識を失っていたので、ケア・ハント衛生クラス長に見てもらおうと」
報告を受けた男は背負われている少年を数秒見つめた。
「そうか、では残念だが──」
「なんだって!? 大丈夫か?」
別の男の声がドアから走ってきた。その声の後ろにはさらにもう1人。髭を生やした男がゆっくりと歩いて入ってきた。
「ドドさん!?」
「ステダリー博士も!?」
少年たちは振り返って驚く。バモンはその2人が来ることを知っていたのか、落ち着いて敬礼をして迎えた。
「やあみんな。なんだか賑やかだね~」
「ステダリーさん今はやめましょう!エイドはこの通り──」
──騒がしい。喧嘩?大人たちの声がする。あれ、これは夢じゃない。なんでみんながここにいるんだ?
「・・・ドドさん? バモン教官? ニアースさんにカインさんまで、どうしたんですか?」
「エイド!?」
「起きたのか!?」
「大丈夫?」
「・・・寝たらすっきりしました。立てますよ」
僕はドドさんに支えられながらゆっくりと立ち上がった。
「どうやら彼は元気みたいだね。じゃあ今から、戦闘訓練を開始しようか」
「戦闘訓練ですか!?」
子供たちは3人揃って驚いた。大人たちはそれを知っていたのか、彼らほどの動揺はない。
ステダリー博士が両手を叩くと、上下黒の服装の兵士が3人がかりで檻を部屋に運んできた。その檻の中には生き物がいる。その生き物は切り傷や、すり傷などの傷だらけ。目は白目を剥き、体の3箇所に紫色の斑点があった。
──なんだこのとても醜い生き物。こんな醜い生き物は初めて見た。でもこの生き物がこうなる前は「犬」と呼ばれる生き物だったことは、僕には分かる。そう、きっとこれがポルムに寄生された──
「・・・ドミーですか?」