兵士として②
訓練室:座学を行う教室的な部屋から、実技を行うトレーニングルームのような部屋まである。同じ訓練室でも、部屋によって広さも異なる。アースを使用した訓練ができる部屋は特に人気である。
兵士として②
「バモンさんとの挨拶はうまくいった?」
廊下に出ると珍しく冷たいニアースさんが心配してくれた。
「はい!ニアースさんのアドバイスのおかげです」
「お~い。もういいか?」
カインさんはその場でランニングをして落ち着きがない。もしかしてずっとこんな状態で待っていたのかな。
「すいません。まずは何をするんですか?」
「俺は岩の棒で素振り」
「私は射撃」
「全員、バラバラなんですね」
「元々ジズクラスは一定以上の体力値がないと入れないから、今更筋トレとかしないのよ」
「じゃあ何で貧弱な僕がジズクラスに・・・」
「知らない。私じゃ無理だけど、カインならエイドを見ながら訓練できるでしょ?」
「え~。でも俺は──」
「筋力アップはあなたにしか任せないと思ったのに残念だわ。ほんと、残念」
駄々をこねそうなカインさんだったが、その芝居染みた言い方に簡単に乗せられてしまう。ああ、どこまで単純なんだこの人は。良い人だけど。
「断ってすまねえエイド。今日1日でお前を鉄の肉体にしてやるぜ!」
「鉄じゃなくて、鋼でしょ」
「どっちも変わんねえだろ!」
「まあいいけど、怪我だけはさせないでよ」
心配しているとは思えない気の抜けた彼女の声で。手を雑に振りながらニアースさんは廊下を進んで行った。
「じゃあ俺たちも行くかエイド」
「はい! お願いします!」
こうして僕はカインさんと一緒に筋トレをすることになった。先日は上手く誘いから逃れた。しかし筋トレからは避けられない運命だったみたい。
────マダー・ステダリーの部屋────
1つの机を3つの椅子が囲んでいる。しかしその場にいるのは2人だけ。
「お疲れ様でしたファイン。では報告をお願いします」
2人の男は握手をしてから対面する形で椅子に座った。
「ドドにしてくださいよ。仕事中ですし」
「口が慣れているので拒否します」
「ポルム、ドミーの侵攻状況及び、外部居住者の現状確認の偵察任務ですが・・・」
「どうしました?」
「──偵察クラスの班が1つ行方不明になりました」
男は唇を噛み締める。膝に置いていたドドの手は、ズボンの生地を引き寄せている。
「仕方ありませんよ。戦いに犠牲は付き物です。で、アステゴイは?」
ただ座って話を聞いている冷静な男は、話題を変えるように次の質問をした。しかし話す男は落胆したまま。
「そちらはもっと酷く、全滅でした。ちょうどドミーと交戦したので、もう一足早ければ助けられたかもしれません」
「報告は以上ですか?」
感情を見せないステダリーが聞くと男は「待ってください」と顔を上げる。
「ステダリーさん。一番重要な情報があります」
「どうしたんですか汗をかいて、空調を変えますか?」
一番重要という言葉を気にかけず、彼には冗談を言う余裕すらあった。しかし次の質問でその表情がようやく硬くなる。
「ライコスって聞いたことありますか?」
「────ライコス。かつてこの地に存在した国の言葉で、狼ですね。しかしそれが何です?」
「行方不明の班の無線から通信があり、応答したところ何者かが出て自らをジズに対抗する組織──ライコスだと名乗っていました」
「ほう?この時代に人間同士の争いをしようということですか?馬鹿馬鹿しい」
「全くです。これまでジズ以外に組織と呼べる拠点を持ち、生活インフラが整い、なおかつ戦力を持っている組織はゲーツ・ローツ財団以外に確認されていません。なので盗賊のイタズラの可能性もありますが」
「でも以前から、この秩序の無い世界を望む荒くれ者はいましたよ。ここより旧市街地に近い前線地帯の例の財団は、そう言った無法者たちの相手に忙しいと聞いています」
「ジズの領土内でも無法者たちがいましたが、我々偵察クラスが発見した度に全滅させてきました。奴らは質よりも量の集団ですからね、ジズの敵ではないですよ」
ドドは男の心配を払拭するように言う。だが男の表情はまだ緩まない。
「しかしポルムとドミーが攻めてこなくなった今、私たちはそういう連中から見れば目障りでしょう。我々は次の世界を担う存在。もしもそんな連中が団結していたら脅威です」
「偵察しますか?」
「お願い──したいですがポルム、ドミーに対抗する戦力ですら、十分とは言えないのがジズの現状。主力である偵察クラスには、万が一の迎撃要員としても近くに残っていてほしいものです」
「しかしそれではライコスの情報を掴めませんよ!」
そんな弱気な男を見てドドは目を覚ますよう、彼に近づく。
「そうです。そこで私にはあるアイディアが浮かびました」
詰め寄られた男は今までの不安な様子は演じていたのかと、疑いたくなる余裕の笑みを浮かべた。
「・・・アイディアですか?」
それを見たドドの顔には不安が漂う。
ゲーツ・ローツ財団:第3次世界大戦後の世界から存在していた組織。故に対ポルム組織ジズよりも、旧世界の色を濃く残している。世界各地に支部があったが今はわずかとなっている。新世界の秩序構築に向けて活動中。マダー・ステダリーの意向によりジズとの関わりはない。