それぞれの暮らし②
それぞれの暮らし②
「あなたの所属はジズクラスで、私と同じ班ってこと。分かった?」
僕は知らぬ間にジズクラスというものに入っていた。そしてニアースさん、カインさんと同じ班らしい。
「僕も訓練をするんですか?」
「そりゃ~ね?」
ニアースさんはカインさんを見てイタズラな笑みを浮かべる。するとすぐに「じゃあ伝えたから。カイン?明日は遅刻しないでよ」と、彼女は一度も席に座らず食堂を去ろうとする。
「ニアースさんはお昼食べないんですか?」
「私は今ダイエ──じゃなくて、そう、体積を減らしているの!」
ニアースさんが珍しく慌てている。そしてなぜか怒鳴られた。
「タイセキ? タイセキってなんだエイド?」
「・・・すいません。記憶がないので」
都合の良い嘘をついてしまったが、上手く言えないのは本当。体積は物の大きさのことだった気がする。けれど、こんなことを僕はどこで知ったんだろう。やはり思い出せない。
「そんなこと言って、ニアースはまた部屋で1人で食うんだろ?エイドもいるんだし一緒に食えよ」
カインさんは笑って手招きをする。その笑顔には嫌味が含まれていない。しかし彼女は顔を横に向けて黙っていた。
「食べなくても良いですから、僕たちと一緒にいてください!」
「何言ってるの。食堂は食べるところよ?だから私は座らないわ」
「同じ班ということですし、もっとお互いのことを良く知っておきたいと思いまして、訓練のこととか」
「ふーん。ならしょうがないわね~。カイン、サラダとパンもらってきて」
すたすたと歩み寄ってきたニアースさんは僕の隣にどすんと座った。
「なんだよ。結局食うのかよ」
文句を言いながらも嬉しそうなカインさん。僕らも笑って彼を見送る。食事を受け取った彼が戻った後に、改めて3人でご飯を食べた。
ニアースさんは野菜が好きみたいで、カインさんが残したサラダまで食べていた。体は細いのに意外と食べていたのでビックリ。
「そうだエイド。朝に言った遺跡の地下の街の話覚えてるか?」
「あ~。ちょうど呼び出しの連絡が入って、話が途中でしたね!」
「あんたまさか、あの時にここにいたの!? ほんと呆れるわ」
トマトを口に入れたままニアースさんが言う。
「終わったことは良いだろ。そうだ、ニアースも行こうぜ生活区。どうせこの後暇だろ?」
「暇・・・じゃないわよ。でもなんであんなところに行くの?」
彼女はトマトを雑にフォークで刺す。行きたい僕らとは逆に面倒くさそう。
「エイドが気になるんだってさ」
「い、いえ! 僕はこの野菜とか肉が、どこから運ばれてきたのかを知りたいだけで」
確かに気になってはいるけれど、不満そうなニアースさん相手にそれだけの理由では不十分。こうでも言わないと僕も、トマトのように刺されそうだった。しかし不満そうだった割に彼女は快く了解してくれた。
「良いわよ。エイドがカインと2人きりってのは可哀想だし」
「なんでだよ!」
「だってあなた、あそこのことをエイドに説明できるの?」
「・・・少しならできる」
「それは説明できるって言わないのよ」
「ま、まぁまぁ。僕は人数が多い方が楽しいですから。2人ともお願いします!」
ニアースさんは全ての野菜を食べ終えると「ついて来なさい」と、トマトの種がついた口を見せる。彼女は一足先に席を立った。
────玄関 ホールL ────
「ここって確か遺跡の入り口。ジズの玄関ですよね?」
やってきたのは僕がジズで一番最初に来たところ。躓いて転んだところだ。相変わらずの広い空間に、自分が押しつぶされそうな感覚になる。
「ここってほんと広いですよね」
「でも生活区はもっと広いわ」
ここも十分広いけど、確かに人が住むとなると、もっと広い場所が必要そうだな。でもそんな広い場所はいったいどこにあるんだろう。
「なあニアース。エイドの刀は持ったまま行くのか?」
「あ、隠した方が良いですか?」
「別に良いんじゃない?私たちは兵士なんだし」
「そうだな。じゃあ入るか」
カインさんは何もない場所で立ち止まってそう言った。入る?入り口なんてどこにもないのに。
「どこに入るんですか」
「ここよ」
ニアースさんはしゃがみこんで遺跡の床を撫でたり、叩いたりしている。すると、目の前の床が勝手に動き、人が1人通れるくらいの穴が出現した。すごい。魔法みたいだ。
「床が勝手に動いた!?」
「途中まで暗いから気をつけてね」
何事もなかったかのように彼女はその穴の中へと消えてしまう。
「カインさん大丈夫なんですか?」
「早く行こうぜ!」
背中を押されて暗い穴の中へと足を突っ込む。足に何か硬い物が当たった感触がある。落ちないと安心し、もう片方の足も穴に入れる。
「中は階段になってるからゆっくり進めば平気だぜ」
「ありがとうございます」
幸いにも足元には電球があった。穴の中の階段を降りていき、入ってきた穴が白く小さな光になった時、最後の階段を降りた。
そこには腕を組んだニアースさんが待っていた。
「遅かったわね」
そんなに時間かかっていないと思うけどな。あ、カインさんはまだ来ない。
「生活区はあんたが思っているようなところとは、違うかもしれないけど良い?」
「それ、今言うんですか」
「ま、1回くらいは見とくべきかもね。ジズの闇を」
そう言って目の前にある扉を開けようとした時。彼女は重要なことを口にする。
「そういえば、生活区への入り口の扉は中からは開かないの」
「じゃあ誰か1人ここで待っていないといけませんね」
「ふ~。着いた着いた。この階段ほんと長いよな」
カインさんがようやく到着。僕とニアースさんは顔を合わせて、お互いの考えを確認をした。
「ちょうど良いのが来たわね」
結局カインさんを扉の前に残し、生活区と呼ばれるところに僕とニアースさんは入る。彼には待っていてもらう代わりに、今度スブラーキをあげる約束をした。