ニホンの刀③
ニホンの刀③
「レンさん。レンさんの名前教えてくれませんか。僕、レンさんが亡くなってから初めて名前を知りたくないんですよ~」
一か八か。挑発してみた。でも今までの彼を見ていれば冷静に受け流すタイプじゃないのは分かってる。
「ヘパスト。ヘパスト錬だ。葬式に来なかったらどうなるか覚えとけよ。赤髪のエイド・レリフ」
髪の毛をぐしゃぐしゃされた。彼の手の平はとても大きい──あれ? 今、僕の名前を呼んだ?
「レンさん! 僕の名前を知っていたんですか!?」
「もらった書類に書いてあったからな。嫌でも目に入るわい」
「ということは、覚えていてくれたんですね」
「さっきまた紙を見たからな! 思い出したんだよ!」
紙のどこに名前が書いてあるのか、指で必死に説明するレンさん。言い方と動作が大げさすぎて嘘にしか聞こえない。
「ありがとうございますレンさん」
「黙ってろ小僧。今から大事な作業だ」
そう言うと部屋の奥へ行き、2本の剣を持ってきた。これがさっき言っていたニホントウか。
「もう出来ていたんですね!」
「まだだってつってんだろ!てめえが持ってきたナイフにハマってるアースを外して、この刀に移植する」
日本刀に触ろうとした僕の手を引っ叩くと、作業台の上に置いてあったナイフを手に持った。彼がそれを持つと逃げたくなるのはなぜだろう。振り上げることはしないだろうけど。
「レンさんアースは1つしかないですけど、カタナは2つですよね?アースが足りませんよ」
「1つを2つにしたきゃな、割ればいいんだよ。覚えとけ」
「中に幻獣がいるんですよ! いいんですか?」
「んなもん知ったこっちゃねえ。まあ平気だろ。それじゃあ本当に黙ってろよ」
平気なのか? 石を割るなんて幻獣は怒りそうだけど。
しかし、顔と声が真剣になったレンさんが黙れと言うので、僕は返事しかできない。彼は頭につけていたゴーグルをはめて両手を動かし始めた。
何をしているのかは分からないけど「パキッ」と何かを外している音や「ギィィ」と音を鳴らしながら火花を出している。
そうして演奏していた彼だが数分たつとゴーグルを外して手を止めた。
「ほれ、アースの完成だ。持ってみろ」
「・・・お、おぉ!」
レンさんからニホントウを1本受け取った。鏡のように僕の顔を映し出す刃。持つところには赤い石がハマっている。薄暗いこの部屋の中で赤い光を放っている。まさに紅一点。でもすごいのは見た目だけじゃない。
初めて持ったにも関わらず、このニホントウは恐ろしいほど握りやすい。重さも程よく、まさに僕のために作られた物と感じる。
「どうだ。日本刀は」
手に持ったそれをゆっくりと横や縦に振る。今僕が斬ったんだ。そう、空気を斬った。空気なんて斬れるわけないのに、まるでそれを斬っているかのような音がする。気分が涼しくなる心地良い音。
「日本刀、美しいです」
「たりめいだばーろー! 日本刀は世界一の武器であり、芸術品だ。これ以上の武器はこの世界にはねえぞ!」
嬉しそうなレンさん。顔は不機嫌そうだがこれはきっと喜んでいる。
「僕のような貧弱でもこれなら振れます!」
「お前さんでも持てるように強度を落とさず軽量化をしたからな」
なるほど。僕に力があるから振れていると思っていたのに。でもこれが2本になったら確かに少し重そう。
「訓練や任務から帰って来たら必ず日本刀を俺に会わせろよ。万全の状態に調整するからな」
「はい!」
「もう用は済んだろ。とっとと昼飯食いに行ってこい」
「レンさんはお昼食べないんですか?」
「俺は美味いもんしか食わん」
朝食べたものが頭の中に鮮明に浮かぶ。レンさんが食堂にいたらチャップさんと喧嘩になりそう。なんなら自分で料理してそうだ。
「日本刀ありがとうございました。大事にします」
部屋から出る僕を見送る──なんてことはせず、彼らしくまた何かの道具をいじり始めていた。
ヘパスト・レン:頑固なオヤジ。自称エンジニア。