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幻獣チルドレン  作者: 葵尉
第1章 アース編
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ニホンの刀②

ニホンの刀②



 「今からお前のアースを加工する」


 そう言われて見せられたのは絵。2本の短い剣が描かれている絵だ。誰が書いたのか知らない。でもとてもリアルな絵で、まるで本物の剣がそこに並んでいるかのよう。


 「いつもならいくつかの武器から、そいつの体に合いそうな武器を選んでやるが、貴様に合う武器はこれしかなかった」


 「つまり2本の剣ってことですか?」


 「なんだお前さん知らねえのか!? この有名な刀を!」


 「カタナ?・・・だって僕、剣の名前に興味ないですし」


 「おいおい! 一般常識みたいなもんだぞ!」


 そ、そんなに有名なの?剣なんて全て同じに見える。しかしレンさんは鬼気迫る表情。まるで僕がおかしい人。


 「ええと、これはなんていうんですか?」


 「──日本刀だよ日本刀」


 「ニホン、トウ?」


 「はぁ・・・日本の刀だよ! お前まさか日本刀を知らないのか!?」


 「えっあっ。あ~! これがその、ニホントウなんですね!」


 ニホントウ。僕はまだピンときていない。けれど、よく見るとこんなに後ろに反っている剣は見た事ないかも。普通、剣ってもっと真っ直ぐだ。それにこんな木の棒みたいに細くない。丸太のように太い。


 「──お前さん、日本て国知ってるか?」


 ニホン。その国の名前は頭の中に残っていた。

 

 「はい。ドドさんから聞いたことがあります。でもポルムとの戦争で・・・」


 「俺はそこの()()()()()()()()()()()()()


 レンさんらしくない小さな声。さっきまでの活気もしぼんでしまった。そんな様子だから彼が今言ったことに対して、すぐに返事をすることはできなかった。


 まずそれ以上話を深く聞いても良いのか分からない。レンさんの過去に触れるのが怖い。だってニホンって国は滅んだ国。なのに今、目の前にその国の人がいる。


 僕も彼のように下を向いていた。

 「なんだクソガキ。泣いてるのか」


 「泣いてませんよ!」


 煽るように言われたからすぐに言い返した。せっかく人が気にしてあげていたというのに全く、想像力のない人だ。


 「俺はな、日本人だった。だから日本刀には特別な思いがある。なのにお前が知らなくて正直ショックだった」


 そう話す声は徐々に大人しくなる。僕が怒鳴ったから落ち込んでいるわけではない。でも知らないうちに僕の態度がこの人を傷つけていたのかもしれない。


 「すいません。まさかレンさんがニホン人だと思わなくて、考えずに喋りすぎました」


 「良いんだ。俺はもう日本人じゃねえ。死んでいったやつから見れば俺は裏切者だ」


 「裏切者・・・生きているからですか?」


 「よく分かったなガキ。そういうところは鋭いのか」


 「でも僕にはレンさんが、人を裏切ってまで生きるような人には見えません」


 口は悪いけど性格まで悪いようには見えない。顔は不機嫌そうで怖いけど根本的にはいい人だと思う。


 そうじゃなきゃ人のために物を作ったりなんてしないはずだ。それに雑に置かれてはいるけど、部屋の道具はどれも綺麗。


 「そうか。まあお前さんには関係ない話だ」


 「レンさん。名前を教えてくれませんか」


 過去については本人もそう言うので触れなくて良いだろう。だから僕は過去を捨てて、新しく生まれ変わった彼の名前を聞きたかった。


 「なんでだ?」


 「そ、それは初めて会いましたし。これからもお世話になる気がするからです。まずは僕から改めて名乗りま──」


 「ガキ。()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 「や、約束ですか?」


 レンさんはいきなりそんなことを言ってきた。思わず苦笑いしてしまう。だってそんな約束、できるわけないじゃないか。


 「お前が死なないで生き残ると、俺と約束するならお前の名前を聞いてやる」


 「ど、どうしてですか。それにそんなこと約束なんか出来ませんよ!」


 僕の言っていることは間違っていない。だって死ぬか生きるかを自分で分かる人なんていないから。だいたいそんな約束になんの意味が──


 「俺は、死ぬ奴の名前は覚えないことにしている」


 「でもレンさん。僕は死ぬか生きるかなんて、そんな守れない約束できませんよ」


 「子供(ガキ)が何言ってんだ!」


 「な、なんですか急に怒鳴って!」


 座っていたレンさんは立ち上がる。彼は一瞬で僕の首を服の上から掴む。とっさに僕もその太い腕を握った。握ることで相当強い力で、相手が服を掴んでいることが分かる。


 抵抗しようとした。でも彼の訴える目を見たら、悪意がないことはわかった。

 

 「お前はまだ子供だろうが! 子供ならジジイの俺よりも長く生きるのが当たり前だろう! なんで自信を持って生き残ると約束できねえ!」


 覚めるような声に当てられて、体の力が抜けてしまう。そうか。レンさんの言う通りだ。でもあまりにもレンさんが元気だから。なんて、言ったら今度は殴られるかな。


 「俺は前の戦争で戻ってこない若い奴の背中をいっぱい見てきた。帰ってくるのはそいつらが使ったボロボロの武器だけだ。そういう武器を何度も見てると分かってきたんだ。こいつらがどんな思いで(さいご)を迎えたのかが」


 話し続けるレンさんの目と口は水分を含み、緩んでいる。それでも僕を握る手の力はちっとも弱くならない。むしろ、強くなっている。


 「全員だ。全員が生きたいって叫ぶように武器を握っていたんだ。銃にしろ刀にしろ持つところに手の形がついていた。まるで、粘土を握った時に出来るような跡がだぞ」


 そう言って僕の服を離したレンさんは背を向けた。鼻をかんで目元を手でこすっている。そして、振り返って 「もうこれ以上そんな武器は見たくねえ」と、一言。


 赤くなった目で、緩んだ口に力を込めていた。レンさんの強い想いは受け止めざるを得ない。それを受け止めた上で僕は言った。


 「でもレンさん。僕は生き残るか、戦死するかの約束はできませんよ。でも、でもですよ!」


 言っている途中殴られそうになったので、急いで言葉と手で制止をかける。


 「でも僕はレンさんよりは長く生きると約束します」


 「そうかよ。気に食わねえ小僧だ。とっとと行けよ。もう昼だろ」


 レンさんはそう言ってまた背を向ける。このまま言われる通りに出て行ってはいけない。なんとなく直感で分かっていた。


 それにまだ、昼じゃない。

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