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幻獣チルドレン  作者: 葵尉
第1章 アース編
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食べることよりも②

食べることよりも②



 「美味しいじゃないですか!この・・・」


 「スブラーキな!」


 「そう! スブラーキです!」

 

 なんの肉だろう。とても柔らかくて食べやすい。変な匂いもしないし。赤身が美味しい!


 「これは肉を焼いて塩と胡椒をかけただけだから美味いんだよ。次は()()食ってみろよ」


 僕の感動を壊そうとした言葉が聞こえたが放っておこう。この感動のままカインさんが言う「それ」をフォークで刺した。


 「これにも料理の名前があるんですか?」


 「それはトマトの肉詰め(イェミスタ)。ドドさんはドルマって言っていたけど、どっちでも良いよ」


 「カインさん! いぇみ……このドルマも肉が入っていますよ?」


 ドルマというこの料理はトマトの上部を横にカットして、中にひき肉を詰めて焼いたようだ。カットした部分は蓋になってておしゃれ。切り開くとハンバーグのようでとても美味しそう。


 「とりあえず食ってみろよ」


 「はい、いただきます!」


 トマトのドルマをひとくち、口に入れた。カインさんが心配そうに見ているのでどんな味かと・・・んっ!? 酸っぱ! 


 なんだこの酸っぱさ! 酸味が口中に広まる。鼻も駆け上がって涙が出そうになる! 


 レモン!? トマト!? 何か分からないソースが強烈な酸味を作り出している。いや、トマト自体も相当酸っぱい!


 「エイド?出してもいいぞ」


 そうは言うけど、僕は鼻をつまんで飲み込んだ。飲み込んで息継ぎをするように、残っていたスブラーキにかぶりつく。


 「はい、水」

 

 「助かります!」


 「どうだった?」


 「酸っぱかったです。でも肉の味は美味しかったですよ!」


 正直酸っぱさのせいで肉の味は分からなかった。


 「おう。でもそこはフォローしなくてもいいんだぜ」


 不味くはない。食べられなくはないのだ。ただただ、酸っぱい。 味付けのせい? トマトのせい?


 「これな、食べ方があるんだよ」


 ──なんでこの人はそれを先に言ってくれなかったんだろう不思議。


 「先にトマトから肉をほじくり出して食べる!」


 カインさんは手馴れた手つきで器用に肉だけを取り出していく。


 「おお! 確かにそうすれば肉の味がわかる!」


 「ちょっと酸っぱいけどな」


 彼は真顔でそう言った。

 

 「でもこの入れ物(トマト)の方はどうするんですか?」


 「そこにパンがあるだろ?このパン、味がないんだよ。だからトマトを乗せて食べると……」


 彼は自分のパンではなく僕のパンにトマトをのせた。そして食べるように促している。彼を信じて恐る恐る口に運んだ。


 「んっ・・・ちょうど良いですね!」


 鼻をつまむほとではないが正直酸っぱかった。


 「ちょっと酸っぱいけどな」


 また真顔で言った。スブラーキ、ドルマ。最後に残ったのはサラダ。


 「このサラダは何か食べ方があるんですか ?」


 「残念だがない。でもこれは、少しなら残しても平気だぜ」


 そ、そうだよな。生のトマトのサラダなんだ。そのまま食べるしかない。


 「わ、分かりました」


 トマトだらけ。いやトマトだけのサラダはとても酸っぱかった。何が酸っぱいってこのトマトだ。しかしお腹は空いている。腹を満たすにはこれを食べるしかない。


 「も、もういいべ」


 食べ方を説明した本人はドルマの肉とパンだけを食べて野菜を残していた。でもこの酸っぱいトマトを残さずに食えと、言うのは酷いよな。


 「そうですね。もうお腹いっぱいです」


 「ごちそうさまでしたー!!」


 その声を聞いてチャップさんがお皿を取りに来た。そしてやはり「おっ前! 野菜残してるゾ!」とカインさんに指をさす。


 「だってー。酸っぺえじゃん」


 すかさずカインさんも反論する。無理矢理にでも食べさせるのかと思いきや「次は食うんだゾ!」と言ってチャップさんは厨房に戻っていった。


 これじゃあいつまでたっても彼が野菜を残さずに食べ終える日はこない気がする。


 「エイド~。どうだった?」


 「ん~。()()の意味がわかりました」


 僕たちは机の上に上半身を預けてゆっくり休憩をする。それくらいお腹が膨れたともいえる。


 「だよな~。なのにそう言うと怒られるんだぜ。ドドさんとか特に」


 「でも美味しいとは言えないですよね」


 「だけどさ、実感ないけど今って一応、()()()じゃん?だから本当はありがたいんだよな」


 『戦争中』という言葉を聞いて寝ていた体を起こした。ついさっきの自分の発言に胸が痛くなる。そうだ今は戦争中なんだ。だから食べられるだけでもありがたいんだ。


 「あの残したやつってどうなるんですか?」


 「肥料か家畜の餌だって聞いたぜ」


 「え、畑でもあるんですか? 家畜まで?」


 でも確かにあの野菜と肉はどこから来ているんだろう。今は戦争中でしかもここは遺跡の中なのに。


 「なんだよエイド()()()()()()()()()


 「し、知らないです?」


 「じゃあ俺が教えてやるよ()()()()!」

 

 「地下の街!?あ、でも僕はドドさんに部屋で待っとけって言われているんです。確か10時ごろに来るって──」


 「あっー!! 今って何時!?」


 叫んだカインさんは椅子を倒して立ち上がる。僕もつられて席を立ってしまった。


 「わ、わからないです」


 時計は探したが見当たらない。その時だった。


 《ジズクラスより連絡。カイン・ビレント。訓練はとっくに始まっている。さっさと来い!》


 声からは男の人の怒りが漏れていた。そのせいか活気あふれるカインさんの顔が真っ青。


 「やべえよバモン教官怒ってるよ。またニアースにも怒られる」


 「早く行った方がいいですよ」


 「だな。じゃ、また昼にここで会おうぜ」


 カインさんは煙を巻き上げながらホールSを出て行った。また昼に会おう。そっか、お昼ご飯もここで食べるのか。

スブラーキ:串焼き肉。羊や鳥の肉が使われる。


イェミスタ(ドルマ):野菜の中身をくり抜き中に肉や、そのくり抜いたものを詰めた料理。

            

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