7話 食べることよりも①
7話 食べることよりも①
「ここってホールSですよね?」
「ほら! あそこにチャップの食堂があるんだよ!」
広いホールSの隅にある真っ赤な小屋のような建物。色からして明らかに人工的な建造物はこの地下遺跡の中でとっても目立っている。
「いいですね食堂!」
遺跡の中に食堂があるなんて面白い。な〜んだ。最初からここに来れば良かったじゃないか。
僕は心が跳ねるように嬉しかった。しかしカインさんの反応は「お、おう……」とテンション低め。それでも彼お得意の元気な声で赤い小屋へお邪魔する。
「チャップ~。朝ごはーん!」
「カイン! 朝から来るなんて珍しいナ! あれ?そこのは~」
出迎えてくれたのはまん丸の人。顔もお腹もまん丸。
「エイドです。おはようございます」
「おはよう!」
外国語? そんな言葉で挨拶したチャップさんは昨日、ホールSに集まっていた1人。確かおじいちゃんが伝説の料理人とか言っていた気がする。全体的に丸くて愛らしく、微笑む細い目が優しさを感じさせる。とても気の良さそうな人。
「カイン。お前もエイドの礼儀の良さを見習った方がいいゾ?」
「チャップが美味いご飯作ったらそうしてやるよ」
厨房前に座ったカインさんは脱力した声。座る彼の様子を見てここで出てくる料理の味に不安を感じた。だってなんでも食べそうなカインさんが元気がないんだ。
「お前たち楽しみにして待ってていいゾ!」
「はい! 待ってます!」
1人で返事をした僕をカインさんが引っ張る。そのまま厨房から離れた席に座るように促された。彼は席に座るなりいきなり「味は期待しない方がいいぜ」と残酷なことを言い放った。
「な、何で!? 見た目はいい感じの雰囲気じゃないですか!」
「味と雰囲気は別物だからな」
「あ、あの『チャップの食堂』の赤い看板なんか特に素敵ですよ!」
「席。ガラ空きだけどな」
嘘だと思って周りを見たが僕ら以外に座っている人は誰もいなかった。そもそもホールSにいるのは僕たちだけ?
「そ、それはまだ時間が早いからとか!」
「食べる前に言っとく。味は正直、微妙だ」
「僕は楽しみに待ってるんですよ!」
「もう一度言うぞ。微妙なんだ!」
2回も言われてしまった。そんなに微妙なのか。でも、まだ食べていない。そうだ、カインさんの味覚がおかしいって可能性もある。筋トレのしすぎで舌がおかしくなったり・・・しないかな?
「微妙なんですね。わかりました」
「いや分かっていない! エイドは微妙が分かってない!」
「えっと、どういうことですか?」
「ほら分かってない! いいか?」
こちらに指を向けて得意げに話す姿は少し嬉しそう。いつもは自分がニアースさんにこうやって説教されているんだろうか。
「微妙っていうのは不味くもないし! 美味くもないってことなんだぞ!」
「不味くないなら良いじゃないですか?てっきり不味くて食べれないのかと」
微妙な味で安心した。食べれるなら良いじゃないか!
「カイン! エイド! できたぞ~!」
「あ、ありがとうござ──」
チャップさんが大きなお皿を両手に持ってこちらに向かってくる。と、思いきやこちらに向けてお皿をフリスビーのように投げた! 急に投げられたそれはなんと、空中を移動して僕らのテーブル見事着地! しかも料理はこぼれていない!
「すごいですねチャップさん!」
「だっろ〜?」
チャップさんは厨房から両手の親指を立ててこちらに向けた。
「確かにすごいけどよ~。こんな技の前に料理の腕を磨いてほしいぜ」
「えっでも! すごい美味しそうじゃないですかー!」
カインさんのその言葉はこの料理には合わなかった。だって目の前に運ばれた料理はトマトが沢山入ったサラダと、中にひき肉が入ったピーマン。など綺麗な料理が盛り付けられていたからだ。強いて言うならおまけ程度の平べったい1枚のパンは微妙、かもしれない。
量が多いとは言えないけれど見た目はさいこう!。お店の外観のように赤いトマト、これは絶対美味しい!
「カイン! ドドからお前にあげるように頼まれてたスブラーキいくゾ!」
「マジすっか!」
「ほいアー!」
彼はまたしても皿を同じように投げてテーブルに運んだ。
「カインさん。スブラーキってそれですか?」
「そうそう串焼き肉のこと」
スブラーキ。それは初めて聞いた料理名。見た目は普通の肉が刺さった串焼き。焼き立てだからかな?とても香ばしい香りする。
「他は微妙だけど、スブラーキは美味いんだ!」
さっきまで食欲がなかったカインさんが背中を伸ばして目を輝かせている。きっと相当美味しいんだなこれ!
「こないだ俺と二アースが競争して報告しに行っただろ?」
「あぁ! その時のご褒美ですか?」
「そうそうエイドに1本やるよ!」
「でも2本しかないのに・・・」
「だからだろ?2本あったらふつう分けるんだよ」
「えっ、そうなんですか?」
お礼を言おうと立ち上がろうとしたが、カインさんが僕の腕を掴む。グッと引っ張られてとても椅子を離れられなかった。
「良いんだよいちいち礼なんて言わなくて。助けあったり、気遣いながらここの人たちは暮らしてるからさ」
「そ、そうなんですか。じゃ、じゃあ!」
「おう!」
カインさんから手渡しでスブラーキを受け取る。お腹はぺこぺこ。後は一言、唱えるだけ。
「いただきます!!」
食堂に僕らの声が広がる。当然手に持っているスブラーキから口にした。
プリップ・チャップ:丸々とした料理人。料理で人々に笑顔を与えたいと思っている。